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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第七章 ロキドス参戦編
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第149話 虹橋渡し

 何か言いたそうな雰囲気だったが、ゼゼの覚悟を感じ取ったのか、ディンは何も言わなかった。屋上の中心にある塔屋の方に進み、扉の開く音とともに気配が消える。


 塔の屋上で一人になり、ゼゼはしばらくの間、目を閉じていた。

 意識を集中させ、高まったところで目をゆっくり開く。

 その時思い出す。


「あっ」


 転生魔術についてもう一つ分かった重要な事実があったが、ディンに伝え忘れていた。後日でも良かったが、ゼゼの中で気持ち悪さが残る。


 エルフ族は戦いの前に重要な情報は仲間と共有するという掟がある。渋々ながらゼゼの持つ情報を鳩にしてシーザに向けて飛ばした。


「昔の癖が抜けないな」


 だが、これでやるべき準備は終えて、自分の中ですっきりする。

 鋸壁きょへきの上に立ち、見据えるのは王宮。

 指の爪程度の大きさで、目視でもかなり離れているが、ゼゼなら一度の跳躍で届く距離だ。


 王宮はそれぞれの建物と敷地に強力な結界が張られており、国の中で最も警備体制も厳しいがゼゼからすればたいした意味はない。

 誰にも見られることなく、侵入の痕跡を一切残さず、作戦を遂行させる自信があった。


 狙うのはベンジャの首。

 洗脳魔術ですべてを吐かせた後、塵にして殺害。

 王都内にロキドスがいるのなら、その足で狩りに行くという単純な計画だ。


 いくらでも綻びの出そうな計画だが、ゼゼは細かい作戦を立てるのはまどろっしく好きではなかった。

 何よりいざという時は己の魔術ですべて穴を埋められると考えていた。


「にしてもロキドスの戦略はまどろっこしい」


 ゆっくりと慎重で、どこまでもまとわりつくような陰湿さに苛立ちが募る。

 ふとその苛立ちにゼゼは既視感があることに気づく。


 それは確かにあった。

 人の皮をかぶった誰かと対面したときのことだ。

 だが、頭によぎりそうで出てこない。


 確かなのはゼゼがロキドスと疑っていた人物と違う顔であること。


「まさか……」


 その場で熟考していると、夜空の異変を察知し、ゼゼは視線を向ける。


 夜空から落ちてくるのは大量の魔獣。

 成人男性二人を合わせた程度の体長でライオンの胴体に醜悪な人の顔がついている。尻尾はサソリで蝙蝠の翼を生やしており生き物として歪だ。

 死臭を漂わせるその不気味な魔獣は、マンティコア。


 唐突にそれらは夜空から大量に落ちてきて、塔の屋上にいるゼゼと目が合う。

 なぜ? という疑問と共に湧く素直な感想。


「可哀想なやつら」


 無防備にゼゼの射程に入る行為ほど愚かなものはない。

 左手親指を右手で握り、エルフの神殿と接続。両手を合わせて星魔術を即時に展開。


 大量のマンティコアの黒い目が獲物であるゼゼを捉える。


 攻撃態勢に入ろうと、それぞれが口を大きく開けるも、そこはゼゼの射程。


 生成された無数の星がマンティコアの全身に着弾。着弾した途端、圧縮されたエネルギーが爆ぜて体を瞬時に吹き飛ばす。

 星と衝突したマンティコアは悲鳴を上げる余裕もなく、存在が消えていく。


 王都オトッキリーで起きた異常事態は、誰も知ることなく静かに処理されていった。

 明らかに敵意ある者の仕掛けだと悟り、ゼゼは警戒態勢を取る。


 突如、後方から爆発するような音がして、反射的に振り返る。

 屋上中心部の塔屋を押しつぶすように先ほどの何倍も巨大なマンティコアが姿を現す。


 落ちてきたというより唐突に現れたそれに何も思わなかったが両手に抱えているものを見て、ゼゼは顔色を変える。


 それは紛れもなく先ほど会話していたユナことディンだ。マンティコアの両手に握りしめられて、動きが取れていない。

 その顔から意識を失っているように見えた。


 一瞬、感じた違和感。

 下に降りていったにもかかわらず、なぜ唐突に現れたマンティコアに捕まっているのか?


 が、見た目と魔力は紛れもなくユナだ。今にもマンティコアに握りつぶされそうな状況に思考を止める。


「あのガキ、さっそく足を引っ張りやがって」


 目の前に十を超える小さなマンティコアが降り立ち、行く手を阻む。

 ゼゼは一歩だけ前に踏みしめる。魔力を持つ対象を敵とゼゼが視認すれば、星は自動で着弾する。


 行く手を阻んでいたマンティコアは一切の形を残さず消滅。

 少女を抱えた巨大なマンティコアはゼゼから逃げるように後方へあとずさりしていた。


「逃げ場などないだろ」


 さらに一歩踏みしめ、星がマンティコアに着弾。

 手に持つ少女を傷つけないよう配慮したため、頭部胴体のみ消滅する。


 が、魔獣は後方に態勢を崩していたため、屋上から両腕ごと落ちていく。

 ユナことディンは意識を失っているのか、全く動く気配がなく、そのまま落下。


「ちっ。世話がやける」


 即座に距離を詰め、屋上から落ちていく少女を追って、ゼゼも落下。

 塔の外壁に沿って落ちていく少女の姿を視認して、瞬間移動で距離を詰め腕を取る。


 腕を取ったのは塔の三十四層付近。地面まで距離的に余裕があり、着地寸前に瞬間移動すれば問題ない。そう判断したのは、塔二十四層部。


 その開いた窓から片足を前に乗り出し微笑むのはエリィ・ローズ。

 目線が合ったのは一瞬。あっけにとられるゼゼを後目に、詠唱を終えていたエリィは結び語を一言。


「虹橋渡し」


 瞬間、ゼゼの落下途中地点に空間魔術扉が開かれる。


「しまっ――」


 強制瞬間転移。

 気づいた時にはすでにユナと共にくぐり、一瞬で目の前の情景が暗転。

 押し出されるように飛び出した先は、何もない荒野だ。


 王都外へ強制的に出されたことでロキドスの結界効力がゼゼの身に降りかかる。

 が、ゼゼは常に長距離用の瞬間移動魔道具を携帯しているのでこの時点でまだ危機感はない。


 一緒に飛んだユナことディンは少し離れた位置にいた。意識を失っていたように見えたが、背中を向けて立っている。


「おい! 何してる! 今すぐここから――」


 一歩近づくと、それはこちらを振り返り笑う。


「なあに? ゼゼ様!」


 顔だけぐにゃりと変形する。

 ユナではなくそれは変身魔術を使った魔人キリだった。


 ゼゼが虚を突かれて、固まっていたわずかな時間に、ゼゼの後方に瞬間移動で立つのは魔人アネモネ。移動前にすべての詠唱を完了しており、両手を合わせて結びの魔術語を唱える。


「迷宮虚空間」


 額、両手も合わせた五つの眼を開眼させた、アネモネの特級詠唱魔術が展開。

 本来、構築に時間のかかる虚空間を一瞬で構築する、一度しか使えないアネモネのとっておきだ。

 代償に両手の甲の瞳が潰れるがゼゼを搦めとることに成功。

 

 ゼゼの周囲すべてが白に染まる世界となる。

 そこは瞬間移動の魔道具では脱出できない完全に閉じられた虚空間。

 普通の魔術師ならそこから脱出する術はなく永遠にさまよう。


 が、ゼゼなら虚空間の綻びを破壊して強引に脱出可能だ。

 よって、それを理解している者たちはそれを防ぐべく、ゼゼの前に立ち塞がる。

 ゼゼを囲うように立つのは四体の魔人と一人の人間。


 アネモネ、レンデュラ、キリ、マゴール。そして、エリィ・ローズ。

 ここですべてを理解する。


(ここは私を狩るための狩場か……)

 

 寿命と魔力が削られていく結界外。

 刻一刻と終わりを告げる砂時計の砂が落ちていく。


「百数える間は最強。そこから一気に魔力は目減りし、二百を数えたら魔力は完全に尽きる。私たちの勝ちよ~」


 エリィは勝ち誇り、微笑む。

 その両手が唐突に爆ぜて、消える。


「えっ?」


 直後に下半身も爆ぜて吹き飛び、エリィは地面にそのまま倒れ込みやがて悲鳴を上げる。

 射程外にいたが、ゼゼが片手を突き出し星を飛ばしたことで、あっという間に星の餌食となった。


「エリィ。お前は後で拷問するから今はまだ生かしておく。だが、他の四体は違う」


 ゼゼから立ち昇る禍々しい魔力は死の匂いしかしない。かつて魔人たちが怖れ、必死で逃げた怪物がそこに立っていた。


「カス共。実力差も理解できてないようだから、再認識させてやる」


 殲滅のゼゼが不敵な笑みをこぼし、自然と魔力が爆ぜる。



「まとめて来い」

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[一言] すっごい展開だー!
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