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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第七章 ロキドス参戦編
140/223

第140話 君は絶対にゼゼ様のようになるな

 高い木の上でユナと魔人マゴールが相対していた。それを見上げるミレイは必死に叫ぶ。


「ユナ! 一人で戦うのは駄目! 一旦引きなさい!」


 そんな叫びも聞こえてないのか、一切こちらに視線を移さない。


「私があの子を守らないと……」


 ミレイは焦り、必死にふわふわの中をもがくが、もがけばもがくほどふわふわは動きを支配する。


「ミレイ。落ち着け」


 少し距離を置いた位置にいたシーザは、淡々と言う。その表情から焦りは見えない。


「でも!」

「お前。もう限界だろ? 眼でわかるぞ。眼の色がお前の弱点だ」


 指摘されたミレイは固まる。


「ミレイヌも魔力切れ間近になると赤黒い眼がどんどん真紅に変わるんだ。それだけじゃなく魔力切れになった代償がでかく、ミレイヌは何日も寝込んだ。ミレイの魔術師としての才能を黙っていたのはそういう体質もミレイが引き継いでいたからなんだよ」


 大量の蝶を操ることで本領を発揮する蝶魔術は莫大な魔力を消費する。ミレイはトネリコ王国の魔術師内でも随一の魔力量を誇るが、それでも魔力切れになり寝込むことは何度もあった。


「ニコラさんもソフィも死んだ……これ以上、誰も死んでほしくない」

「背負いこみすぎだ。一人でできることは限られてる。今のミレイでも十分すごいよ。私はミレイヌとパーティを組んでたから知ってるが……あいつは空飛んだり、魔力を凝縮させて放出なんてできなかった」


 ミレイヌが勇者一行となったことで、トネリコ王国では蝶魔術は伝説の魔術ともてはやされる。が、実際のところ蝶魔術は罠や探知などの後方支援で本領を発揮する魔術で、強力な敵と単独で相対できる魔術ではなかった。


 ミレイはそれを理解していたので、一人で戦える魔術を鍛え上げてきたが、今の現状に唇を噛む。


「それでもこれが今の私の限界……ユナをあんな危険な目に……私もゼゼ様のように一人で魔人と対抗できる力を持たないと駄目なのに」


 ミレイは嘆き、下を向く。


「それは違うぞ。ミレイ。君は絶対にゼゼ様のようになるな」


 強い口調で言われ、反射的にシーザに顔を向ける。


「なぜそんなこと?」

「エルフってのは基本、高貴で孤高な種族だ。だからなのか、なんでも自分の力だけで解決しようと考える傾向がある。周囲に頼るのが苦手なんだ。ゼゼ様はその典型だな」

「……」

「自分の中だけで全部補完しようとするな。ミレイの不足を補ってくれる奴を見つけて、頼れ。私はエルマーからそのことを教わった。人間ってそういうことが得意な種族だろ?」


 ダンジョンでは思わぬ形でバラバラにされ、それぞれ単独で魔人と立ち向かう形になり、悲惨な結果だけが残った。


 その結果からミレイはより個人の技量を磨く重要性を痛感したが、その考えは間違いだと気づいた。一人では限界がある。自分の魔術にも限界はある。

 だからこそ自分のできない部分を誰かに頼って補完してもらうことが重要だ。


「ありがとうございます。危うく自分を見失うところでした」


 そう言いつつも、ミレイは不安気な表情を覗かせる。


「でも……今、ユナが頼りにできる人は誰もいない。今の私じゃほとんど何もできない」

「ミレイは知らないだろ? あいつはミレイの考えている数倍強いよ。そして何より――」


 シーザは思わず言いそうになった言葉を呑み込み、別の言葉を使う。


「あいつはいつだって一人じゃない」


 意図の見えない言葉だったか、ミレイはなぜかわずかな安堵感を覚えた。



 

 

 樹木の上での戦い。ディンは周囲を見渡す。

 飛び移れそうな魔の森特有の木が大量に群生している。木というよりツタで覆われた丸太だ。

 足場として十分で、飛び移れる距離にいくつもある。


 地面は白いふわふわで覆われている。一度落ちたら自力でふわふわから抜けるのは困難だ。 

 ディンは足場を作る魔道具は保有していないので、ふわふわの海から抜ける方法は瞬間移動の魔道具を使用し、場からの離脱以外にない。


 もっともミレイやシーザを置き去りにする選択肢はディンにはない。

 選択肢は一つ。

 マゴールを倒して道を切り開く。


 魔術戦や肉弾戦で勝ちの目はない。

 が、心理戦を含めれば勝つ自信はある。

 ハナズ、アネモネ、キリ、レンデュラ、マゴール。いずれも自分より魔力量も上で魔術師としても圧倒的に上位の存在だが、会話からかしこさは感じなかった。


(ずる賢さなら俺の方が上だ)


 無意識に行動を縛る言葉はすでにマゴールの脳に打ち込んでいた。

 狙うのは超短期決戦。間延びするほど勝ちの目はなくなる。

 勝算の低い戦いだが、ディンは弱気な態度は一切見せない。


「サガリ―の事と言われても、私はほとんど彼のことを知らない」


 マゴールは構えたまま答える。


「お前が父に何かしたのか?」

「私はサガリ―の死体をミッセ村まで届けただけだ」


 父の死体は霧の深い朝、邸宅前に置かれていた。

 どこでなぜ死んだのか、未だ謎が多いがマゴールはそれを知っている。


「下に落としてから詳細を教えてもらおう」

「私も君に話すべきことがあるのだが……」


 マゴールは両手を握りしめる。自然と魔力がとめどなく溢れ出てくる。


「戦った方が都合がいいな」


 マゴールが右手を振り払うと、横並びの魔弾が放たれる。狙ったのはディンではなく、ディンの立つ木。木が切断されて傾く前にディンは近くにある別の木へ跳躍。

 と同時にマゴールはまたその木へ連続魔弾。


「ちっ」


 再び近くの木へ飛び移りながら、マゴールの立つ木に向かって魔弾を放つ。


「魔術中和」


 展開されるのは大きく透明な魔壁。それをくぐった魔弾は一気に威力を失い、木に当たってそこで離散する。

 完全な無力化ではないが効果範囲が広い。


 ディンは直接手に触れないと魔術の無力化はできず、とても真似できない芸当だ。同じ魔術の使い手だが、かなりの力の差を感じた。


 マゴールは自分の立つ木を守りつつ、ディンが飛び移れる木という木をすべて魔弾で折っていくつもりなのか、魔弾を淡々と放つ。


「飛び移れる場所がなくなれば、自然と下に落ちるしかないな」


 防戦一方。ディンはレンデュラ戦で大量の魔道具を消耗し、現在攻撃に使える手数が少ない状態だった。


「ユナへの手土産だと遠慮してたけど、仕方ない」


 ぼそりとつぶやき、指輪を取り出し中指にはめる。

 それはゼゼ魔術師団幹部、博士が分解魔術の成果と共に残した手土産の魔道具。一級魔道具、極楽鳥花。


 魔王健在時代、長く君臨した序列一番である博士の熟練した技術をそのまま再現できる魔道具だ。


「多重展開」 


 その言葉で大量の丸い魔弾がディンの周囲に展開される。


「魔力変形・弓矢の型」


 魔弾が矢の形に変形され、発射。マゴールの魔弾をすべて迎撃する。


「ほぅ。魔弾を一度に多重展開させ、形も変形させられるのか」


 マゴールは素直に関心するが、無表情だ。褒められてる気はしない。

 動揺の無さから負けると微塵も感じていないのがわかる。


 マゴールは淡々と同じように魔弾を多重展開し、ディンも魔弾を多重展開。同時に発射し、先ほどと同じようにお互いの魔弾がぶつかり合い離散。


 互角に見えたが、それは目に見える範囲のみ。

 元六天花序列一番の博士は、歴代最高の才能と言われていた。魔術の深みに達していた男につけられた異名は万能。


「遠隔展開――槍の形」


 展開されたのはマゴールの死角である後方、その槍は即座に発射され、マゴールの上腹部を貫く。


「なっ……に?」


「多重展開」


 ディンはすでに自分の周囲に魔弾を大量展開し、構えていた。


「魔力変形・鳥の型」


 魔弾が鳥の形に変わり高速発射。


「魔術中和」


 マゴールはわずかに苦痛で表情を歪ませつつ、透明の魔壁を展開。が、その魔壁を通過する寸前にすべての鳥が動きを止めて、ぐるりとまわりこむように旋回。


「ちっ」


 後方にまわりこんだ鳥は再びマゴールに向かって突っ込む。


「魔術中和」


 すぐさま後方に展開し、鳥魔弾の威力を軽減化させる。が、ふわふわの海を這うように飛んでいた一羽の鳥はそれをかいくぐり木の幹で爆発。


 木が傾き、マゴールはバランスを崩す。即座に近くにある木に飛び移るため跳躍。

 ディンはその動きを読んで、同時に同じ木に跳躍する。


「木からの落とし合いに思わせるのが肝だよ」


――落とせば勝ちだね


 落とし合いと思わせて、最初から狙っていたのはこの形。心臓を刺す。

 同じ木に降り立ったのはほぼ同時。ディンが振りかぶり、マゴールもそれに合わせるように右手を突き出す。


「魔色零度」

「因果解」


 違う結び語ながら同じ効力を持つ魔術と魔力の無力化。ほぼ同時に触れた結果、お互いの魔術と魔力が一時的に無力化される。お互い魔術が使えなくなったが、ディンには魔道具がある。


「遠隔展開・槍の形」

「くそっ!」


 マゴールがはじめて動揺する。マゴールは反射的に己の背中を振り返るが、遠隔展開したのはディンの後方。

 ディンは即座にうずくまり、長い槍の魔弾をマゴールに向かって高速射出。受ける間もなく、それはマゴールの心臓部に突き刺さった。


「流石に死んだろ!」


 マゴールは苦悶を浮かべながら、ふわふわの海に落ちていった。

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