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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第六章 ダンジョン 魔人交戦編
109/224

第109話 まっ、何とかなるでしょ!

八層

「やべー。まさかこれ全員ばらけたってことか? 流石にやべーって」


 害虫ふわふわのままシーザはその場でじっとしていた。害虫ふわふわは無害とみなされ、魔獣たちに襲われることなく存在を認知されない。

 前方からゆっくり歩いてくるゴブリンをシーザは固まったままやり過ごし、見えなくなったところで緊張を解く。


「アラン……あいつがロキドスなのか?」


 シーザは独自に全員のことを徹底的に調べていた。その中には当然、アラン・ガザードのことも含まれる。だが、アランという男を調べていくうちにシーザはある人物と重なって見えていた。


「逸話だけ聞くと……エルマーみたいな奴なんだよな」


 ディンの前で口に出さなかったシーザの印象だ。魔術師団で誰もやりたがらない汚れ仕事や運営のための地味な仕事も率先してこなす。

 戦う団員だけじゃなく戦わない運営側の人員からも信頼は厚い。


 ユナの事故の時もアランは魔術師団代表として謝罪をしていたし、嫌われているタンタンと周囲の軋轢をなくすために裏で働きかけていたことも判明している。

 圧倒的な強さはなくても、魔術師団にとっていなくてはならない存在だ。


 魔術師団のために骨身を惜しまず働く男が魔王ロキドスなのか?

 拭いきれない疑問や違和感をシーザは一度完全に消した。

 重要なのは敵の罠にはまったという事実だ。


「ディンは瞬間移動の魔道具を持っているからいざってとき、脱出できる。あいつなら大丈夫のはずだ」


 よってシーザはディンのことも頭から切り離した。

 今は自分のことだけを考えていい。そして、やるべきことはダンジョン内で生き抜くこと。その一点のみ考える。


 岩肌の通路は人間二人が通れる程度の狭さで、前方も後方も左右に枝分かれしており、複雑怪奇な迷宮だ。レンデュラの灰色の土は発光しており、暗闇でないのは救いだが、均一に整えられた作りとなっており、大きな岩や特徴的な目印となりそうなものがない。

 地図がなければ、延々と同じ道を行ったり来たりする可能性がある。


「かなり深部に飛ばされたな。だが、幅の狭い通路が続くならやばい魔獣はいないはず」

 

 シーザは変身魔術により害虫ふわふわになることができる。

 ふわふわのままなら魔獣から襲われる可能性はないが、機動力がなくその場からの移動が遅い。


 このままじっとしているという選択肢はなかった。

 シーザは誤解されがちだが、ダンジョン内にいる魔術師の中で最も前線で戦ってきたエルフだ。想定外や危機的状況をくぐりぬけてきたのは一度や二度じゃない。

 戦闘能力は低くても、己の命を守る術は最もシーザが持っている。


 そんなシーザの経験上、この窮地に必要なものは何なのかわかっていた。

 試されるのは勇気ある決断。

 シーザは思い切って変身魔術を解いた。


 現代の魔術師は自分にあった専門的な分野の一つのみを極めて、足りないものは魔道具で補うのが基本だ。


 が、古い魔術師であるシーザは違う。広く浅く色々な魔術をかじって、使えるようにしておく。伝説の勇者一行の中でも使い走りのような立場だったシーザは、探索調査系の魔術も習得済だ。

 

 地面に魔術印を描いていく。

 冒険者であったため、ゼゼ魔術師団の秘儀である魔術解放はできないが、魔術印を描き、適切な魔術語を正確に唱えることで確実に魔術は展開される。


「暗夜光路」


 透明な丸い球体が出現し、その中に小さな灯りがともる。近くにいる人間に対しその灯りは反応し、球体の中で動く。ダンジョンなどで行方不明になった人間を探すための古典的な魔術だ。


 ソフィの探知魔術に比べれば、はるかに劣る魔術であるが、シーザには他の選択肢がない。球体の中の灯りは下に反応していた。


「下が近いか……」

 

 この魔術はあくまで対象との直線距離を示しており、複雑な迷宮を考慮していない。下に行けばさらに複雑な迷宮となっている可能性が高く、脱出なら迷わず上だ。


 だが、仲間と合流することこそ生き残る可能性が高いとシーザの勘が告げていた。ただ待っているのは誰なのかシーザにはわからない。

 アランの可能性もあり、魔人がいる可能性もある。


「行くしかねぇな」


 声を震わせながら、下の階層に行くことを決断し進む。

 吉と出るか凶と出るか、しかしシーザはいつだって吉を引いてきた。

 自分の強運をシーザは信じていた。 

 




五層

 その邂逅は必然だった。

 五層の真ん中には二十歩分の幅はある回廊のような通路が左右を分断している。

 ダンジョン内を暢気に歩く二つの影はお互いの存在をほぼ同時に察知した。


 そして、当たり前のように特に躊躇することなくゆっくりと相手に向かって進んでいく。

 やがて左右を分断する回廊の通路でお互いの存在を視認する。


 そこにたたずむのは小さな少女の体形。まるでユナを思わせるあどけない感じで、見た目は人と変わりがない。だが、発する魔力で人間でないとわかる。


「おっ! やっぱり魔人だ! 僕、はじめてみたかも」


 タンタンは素直な言葉を口に出す。一方のアネモネはタンタンを見るなりうんざりした顔つきに変わる。


「つまんなっ。まーたモブっぽい奴が出たわ」

「小物ってよく言われるー」


 ふふんと暢気にタンタンは笑う。


「あー? まさかその爆発したような変な頭……きっしょ。お前がタンタンか?」

「おっ! なんで僕知ってるの? 僕って有名人なのかー」

「あー、緊張感ないやつ。もっと怖がりなさい。ワタチはアネモネ」

「ワタチだって! はははっ。魔人って言葉遣い変なんだぁ」


 縦に長い斬撃が飛び、タンタンは横にひょいとかわす。


(今、起こりが全くなかったな)


 事前にアネモネとの戦闘について聞いていたので驚きはない。魔力探知で瞬時に飛んでくるのは察したが、予備動作がないのはやはり厄介だ。

 両手を合わせて魔術解放。

 分析しながらも即断して久々に百%の力をタンタンは開放する。


――アネモネと単独で戦うのは極めて危険。昔からこいつは魔術師や戦士の強者をことごとく沈めている。単独で遭遇したら、即撤退しろ


 六天花に対するゼゼからの警告。シーザからも戦えば死ぬと言われたことを思い出す。

 最悪の魔人。その強さは闘技場で暴れたハナズすら軽くしのぐと言われる。


「まっ、何とかなるでしょ!」


 警告を無視してタンタンはいつも通り笑う。

 未だ不敗の男は魔人相手にも撤退する気は毛頭ない。


「きっしょ。きっしょ。眼球腐るから、お前ズタズタの刑確定」


 アネモネの両目が大きく見開かれる。


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