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陰キャ失格 〜メンヘラに縁の多い生涯を送ってきました〜  作者: 文月らんげつ
勘弁してくれ!おつきあい(誓約書付)
96/108

96限目 すげー!!

 そんなこんなで、翌週。約束通り金曜日のデートはなしになり、土日は今度は馬渕家にお邪魔させてもらって、俺たちは月曜日から水曜日に至るテスト期間を迎えた。

 一日目の1限目に来るのが、早速数学だ。勘弁して欲しいが、そんな言っても仕方ないことを口にすることも無く、テスト開始のチャイムが鳴る。──が、ここで俺は少し目を見開いた。

 最初に来るのは大体の場合基礎的な計算問題。それでも俺はここで時間を要することが多い。まぁケアレスミスさえなければ解けるような問題なのだが、そもそも基礎的な計算スピードが遅いのだ。そして更に、俺はこの基礎的な計算問題をより慎重にやることが多い。なぜならこの後点数を稼げる自信が無い。だからこそ最初の方を堅実に解くのだが……。

「…………!」

 解ける。いつもなら開始すぐに止まるシャーペンが止まらない。思い当たる節はある。…………名倉さんだ。名倉さんに散々、繰り返しやらされた計算問題の数々だ。同じ問題だって何周もやらされた。こんなことして何の意味があるのかと何度思ったことか分からない。だが、実際試験の問題に向かい合って初めて分かる、手応えが確かにある。あっという間に最初の計算問題が終わった。時計を見る。いつもより格段に早い。

 そして、次の問題に移る。ここからは少し複雑な問題が出て、俺は大体ここで悩んで、意味もないのに次の問題に飛ばして、その次も解けないみたいな悲惨というか無惨な状況になる。だがそんな昨日の自分にさよならバイバイしたかのように、解ける。ヒクッと口角が無意識に上がった。

 解けてる、俺凄い、頑張った、みたいな感情はそこに一切ない。今俺が抱いてる感情はただ一つ。いやもちろん先週の金曜日は俺一人で頑張ったが、それよりも。


 ──名倉さんすげー!!


 臨海学校での1件以降かなり敵視していたし、その後も平塚さんの件に関してだとかその上誓約書だとか散々好き放題やってくれているが、あの人すげーんだ!!

 好感度が上がったとかっていうことは無いが、ただ単純に凄いという感情が頭を支配する。この短期間で吸収した俺もまぁ頑張った方ではあるだろう、名倉さんのやり方が俺に合っていたという要素もあるとは思う。だがそれを抜きにしても凄い。


 暫くしてテスト終了のチャイムが響いた。かたんとシャーペンが机に置かれる音が一斉に鳴る。

「はい、それでは後ろの方から答案用紙の回収をお願いしますぅ。問題用紙は自分で持っていてくださいねぇ」

 テストを後ろから受け取る前に、今一度自分の答案を見る。……間違ってるところももちろんあるだろうし、埋まってない問題もある。…………だが数学の答案用紙を8割埋めたのなんて初めてだ。

 後ろの席の実川さんから答案用紙を受け取り、前の恩塚さんに回す。恩塚さんはどこか不機嫌そうに受け取った。俺は悪くない。……頭良いとはいえそれはこの学校での話。家族には成績のことで馬鹿にされてるのが恩塚さんだ。不機嫌なのも致し方ないのかもしれない。俺にはわからん感覚だが。何しろ、成績の差が気になり出す中学で俺がつるんでた奴は、どいつもこいつも同じような成績の馬鹿だった。その上兄弟は10個上の姉ちゃんだけ。母さんは俺の成績については留年しなければいいくらいにしか考えていない。勉強に厳しくない親で心の底から安心する。


 その後も、なんだかんだと勉強の成果が出たのか、テスト一日目は結構手応えのある結果となった。……解答欄を埋めるには埋めた、正解しているかどうかについては全く保証できないけども。でもいつもみたいに埋めるに埋められないよりはマシだ。

「よ、結城。手応えはどうだったよ」

「凄かった。いつもよりも大分あった」

 帰宅のために席を立った時話しかけてきたのはたむたむだ。勿論いつもの面子もその後ろにいる。

「お、良かったじゃん!」

「佐々木は現国以外やべーって言ってたのに」

「現国しかやらないのが悪い」

 ぐっ、反論できねぇと佐々木は心底悔しそうな顔をした。そんな顔をするくらいなら勉強してくれ。

「今日どうする? 誰かんち勉強しに行く?」

「うちはいつでもウェルカム」

「どっかで飯食ってから行こうぜ」

 そういうわけで、俺たちはいつも通りのファミレスでご飯を食べてから、飯は食べたら歯磨きしなきゃと真面目なたむたむの要望に応え、一旦帰って歯磨きしたら佐々木の家に集合で、となった。佐々木の家が1番集まりやすいのだ。


 ファミレスに入り、メニュー表を広げる。つい最近まで季節のメニューに掲載されていた冷麺の姿はすっかり消え去り、あたたかいメニューが代わりに載っている。

 お得なランチメニュー、という少しミニサイズな安いものも沢山ある。もちろんその安さに惹かれない、ということはないのだが……残念ながらこちらは食べ盛りの男子高校生なのだ。昼食に小さめのパスタなんて選ぶはずがない。全員そんなメニューには目もくれず肉を選んでいたし、俺もそうだ。ちなみに俺はこういうファミレスの肉系の時は、玉ねぎとかが入った和風のソース派だ。たむたむと佐々木は王道にデミグラス、馬渕はトマトソース派らしい。

 料理が運ばれてきて、運ばれて来た順に食べ始める。サラダなんて殊勝なもんはどれも頼まなかった。ドリンクバーはもちろん忘れずに頼んだけど。

「そういやD組のヤツらがさー、なんか明日の化学の山張りの情報入手したらしいんだよね」

「え、どこ?」

「つかどこ情報? Dの化学担任誰だっけ?」

「松部じゃないっけ? あの先生が山張る場所教えそうにねぇけど」

「情報源は2年生って聞いたけどな。んで、その2年も去年3年から聞いて山張ったら当たったらしいから今年もそうかもってことらしい」

「先生って意外とそういう縦の関係での情報漏れに疎いよな」

 にやにやしながら、佐々木が入手した山を全員で確認し、スマホにメモをする。ここさえ解ければ赤点は回避の可能性があるということなら、ありがたい。覚え切れる訳では無いと思うが、それでも化学は赤点スレスレだ。いつ補習になっても正直文句言えない。

「……馬渕セーターの肘ソース着いてね?」

「!? うわマジだやべっ!」

「そういう所抜けてるの可愛いよなお前」

「男が男に可愛いとか言い出したら終わりだって樋口くんが言ってた」

「樋口にそういうこと言われると笑えねぇな」

「やべーこれ落ちるかな……」

 幸いなのは馬渕が着てるのが紺のセーターというところだ。白やグレーより目立たない。ちなみに、制服のバリエーションがそれなりにあるため、俺たちは今日全員別のものを着ていた。俺は白いセーター、馬渕は先述の通り紺、タムタムがグレー、佐々木に至ってはセーター着てない。見てるだけで寒いんだが。まぁ健康ならいいけども……。

「結城はやっぱ明るい色似合うよな」

 俺と同じく各人のセーターに着目したらしいタムタムが言う。赤のセーターとかあればいいのにとか言ってるけど、俺は多分そんなの着ない。

「赤はどうかと思うけど、もう1色あっても確かに良さそうだよな。3種類しかないせいで俺がセーター着れないし」

「佐々木のセーターの有無は俺たちが原因だった……?」

「そうなんだよさみぃわ」

「嘘をつけ嘘を」

「セーターくらい好きに着てもいいんだよ佐々木」


 そんなどうでもいいようなことを話しながら、気づけばもう2時。このままでは勉強時間が全てお喋りに潰えてしまう。俺たちは慌てて店から出て、佐々木家に集合の確認をとり、各々一旦家に帰った。

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