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陰キャ失格 〜メンヘラに縁の多い生涯を送ってきました〜  作者: 文月らんげつ
勘弁してくれ!おつきあい(誓約書付)
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93限目 笑かすな2人とも

 本日も全員歯ブラシ持参で、歯を磨いてから俺たちは勉強を再開した。本当は昼ごはんの後片付けを手伝うつもりだったのだが、佐々木のおばあさんに遠慮されてしまい、あまりしつこく手伝うと言うのも気が引けたのだ。

「さて、そんじゃとりあえず午後からは約束通り各々やりたい教科の勉強な」

「りょうかーい」

「わかんなかったら聞いていい?」

「まぁいいよ」

 黙々と各々勉強を開始する。つい最近授業でやったはずのことが、もう頭から抜けている絶望感に溜息。勉強をやればちゃんとできる、という評価はある程度貰っているし、馬渕にも飲み込み自体は早いと言われているが、やはり俺は地頭が良くないのだろうという自覚が拭えない。勉強が嫌いな訳では無いのだが、家事ばかりの人生が原因なのか、自分でやるということにあまり慣れていないのは事実だ。特に受験期なんか、必死こいて勉強しなきゃ合格できないような難易度の高校を選んでいないために、勉強に必死で取り組んだ覚えがない。だがさすがに高校は留年が存在する。一応赤点でも補習を受ければいいのだが、それはそれとして補習は面倒だし赤点は取りたくない。

 …………そうは言っても、成績の善し悪し関係なく全員そろそろ飽きが来るのである。3時前になって、ペンの動きが鈍くなっていた。たむたむなんかは、ふぅと息をついてペンを机に置いてるし。

「……飽きない?」

「佐々木、俺が言いたくても言えなかったことを……」

 俺の口からも溜め息が溢れる。疲れたのだから仕方ない。

「まぁまぁ、そうなると思って俺がいいもの持ってきたぜ」

「いいもの?」

 全員の視線がたむたむに向く。たむたむは持ってきていた鞄の中から、なんとポテトチップスとチョコレートアソートを取り出した。

「おお!」

「やたら荷物デカイなと思ったら!」

「これは嬉しい!」

「糖分は必須だし、ポテチは全員好きだろー? 勿論、食ったらちゃんと歯磨きな!」

「分かってるって!」

「いただきまーす!」

 俺は最初にチョコレートに手を伸ばした。別段甘党ということは無いが、疲れたからには甘いものだ。見れば、全員チョコに手を伸ばしていた。皆疲れていたから自然と糖分を求めていたようだ。

「んー、チョコうま!」

「疲れた脳に染みる……」

「たむたむの家ってチョコとか許されてんだな」

「歯医者だからチョコ禁止だと思われてる? ちゃんと歯磨きすればそのくらい許されてるっての」

 たむたむが笑いながら言う。それもそうかと俺達も笑いながら、ポテチやらチョコやら好きな方向に手を伸ばす。

「お前らなんの科目やってんの今」

「俺現社」

「現国ー!」

「いや佐々木はお前理系科目やれって……結城は?」

「俺は生物」

「結城を見習え結城を」

「そういうたむたむは何やってるの?」

「英語!」

「たむたむ前期期末世界史赤点スレスレじゃなかったっけ?」

「…………」

「世界史やれよ世界史」

 これといって苦手な科目がない馬渕と、ちゃんと苦手科目をやってる俺はこの中では相当真面目な部類なんだなと思い知る。まぁどの道一番ヤバイのは相変わらず俺なんだろうけど……。

「しゃーねぇな……佐々木見せろ、理系進んでないってことはわかんねぇところあるんだろ?」

「きゃー! 馬渕様ァー!!」

「ぶん殴るぞ」

「すんませんでした」

 耐えようとして、んふっと変な笑い声が出てしまった。笑かすな2人とも。特に無駄に裏声が上手い佐々木。

「結城笑ってんな。お前にもついでに教えてやるから」

「やった、ありがとう」

「ええと、まずここの問題だけど、授業で先生が言ってた通り──」

 気がつけばたむたむも手を止めて馬渕の説明を聞いていた。たむたむは文系ではなくどちらかと言えば理系だが、やはり馬渕の説明がわかりやすいからか、出来れば聞いておきたいのだろう。馬渕が完全に先生だ。

「──だから、この問題にはこの式を当てはめればいいってこと」

「おおー! なるほどな!」

「じゃぁ答えは……えーっと……こうか!」

「お、正解だ結城。その調子で問題集解いてみ?」

 馬渕に言われ、問題集を埋めにかかる。ちなみに、数学と理系の問題集には答えを書く欄しかなく、途中計算なんて書き込めるスペースがないためそれはノートに書くしかない。

「結城もやれば出来るんだから、大学目指さねぇの?」

「……俺ん家の経済状況で行けるとでも……?」

「……すまん」

「そうだよなぁ、原作バイト禁止なのにバイトしてるくらいだし……」

「家に金入れてんの?」

「いや、家に入れてない。ただ、ノートとか……学校に必要なものとか髪切るとかは、小遣いとか無しで全部自分で金出す感じ」

「なるほどね、小遣い貰えないし、ノート買うためとかで金が必要だけど小遣いがないから自分で稼ぐしかないのか」

「バイトって楽しい?」

「たむたむ興味あるの?」

「俺は大学行くかもだし、そうしたらバイトするかもしれないじゃん?」

「何? やっぱ歯医者になんの?」

「歯医者は別にいいかなー……兄貴が継ぐ気みたいだし?」

 ポリポリとポテチをかじりながらたむたむが言う。お兄さん、かなり愉快な人だったけど、やっぱり長男となると家業を継ぐものだと考えているようだ。


 そのうちチョコもポテチも空になり、俺たちは再び歯磨きをして、すっかり目も覚めたところで勉強を再開した、が……少ししてすぐに雑談しながらになってしまった。

「お前らは進路決めてる訳?」

「なんだよ唐突に」

「いやー、ほら、休み明けに三者面談あったじゃん? 俺専門に行くとか就職とかなーんも決めてなくてさぁ、それ正直に言ったら母ちゃんに大まかでいいから決めろって言われちゃって。結城は就職って決めてるけど、どんなのに就くとか決めてる?」

「えっ、俺? いや……全く。やりたいことも特にないしなぁ」

 三者面談は、特になんの問題もなく済んだ。母さんも就職させたいと考えていたし、俺も就職して家を出るつもりだと決めていたのだ。少し成績の点で教師に苦言を呈されたが、母さんは俺の成績は低くていいと考えているのでその点で何か言われることもなかったのだ。

「俺は一応大学だけど、学科は決めてないな……まぁ理系に行くとは思うけど、それを将来生かすかとかは……考えてねぇや」

「俺は佐々木と同じ、就職とかなんも決めてないけど……先生には成績いいからって大学を勧められた」

「うへぇ、やっぱすげぇな馬渕。母ちゃんとかになんか言われた?」

「親にも成績いいんだしって言われたけど……大学いってまでやりたいことねぇしなぁ……妹の学費のこともあるし……」

「馬渕はほんと妹思いだな」

 笑みを漏らすと、馬渕は自覚があるのか苦笑した。

「たむたむは理系に進むとして、その中でも何したいとかあんの?」

「思いつかないなー……佐々木と同じく、大学行くなら学部と学科は大まかに決めときなさいって言われたわ。大学行かずに就職はしないと思うけど」

 はぁ、とたむたむは大きな溜め息を吐き出した。

 高校に行くまでは、普通はレールがある。もちろん中卒で就職する人だとか、引きこもりになってしまうとかはいるだろう。でも現代日本、基本高校には行く。そういうレールが引かれてる。どこの高校に行くのかというルートの切り替えがあるくらいだ。だが、高校を出てからはレールがない。自分でなんとか行く方向を決めねばならないのだ。そう考えるととんでもない重圧だ。自分の選択で周囲の事まで決まるということは無いが、明日食う飯も自分にかかっているのだから。

「まぁでも、結城は家出るって決まってるわけじゃん?」

「? まぁ……うん」

「したら皆で新居祝い行くわ。お前ん家は高校にいる間行けないだろうし」

 たむたむがニッと笑う。それにつられて、俺も、佐々木も馬渕も笑った。

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