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陰キャ失格 〜メンヘラに縁の多い生涯を送ってきました〜  作者: 文月らんげつ
文化祭 -Out of control-
22/124

22限目 他でもない

 厨房組である女子の方も大体の方針は決まったらしく、残った予算の使い道を考えていた。メイド服が買えたメンバーはお釣りを女子に回し、キッチンで使う食材に投じることになる。まだ買えてないチームもいるようだが、まだ時間はある…………と言いたいところだが、正直低身長組が不安だ。というのも、あのチームは陰キャの樋口くんがいる上、その他のメンバーも引っ込み思案で、誰一人として「買い物に行こう」などと言い出しそうにないのだ。手助けした方がいいのかな……い、いや落ち着け俺。そうやってすぐ助けようとするから今こんな状態なんだぞ。 いくら親しくしているからと言って、こんなことにまで手を出すのはお節介……だと思う。今まで樋口くんタイプの友達いなかったから知らんけど。


 そんなこんなで昼休み、いつものように樋口くんと漫研部室に行こうとしたところで、後ろから声をかけられた。

「あ、あのぅ……」

 振り向くと、樋口くんと同じくらいの身長の痩せた男子……確か名前は宮下くん。気が弱そうな男子だ。宮下くんは俺と樋口くんの顔を交互に見て、えっと、あの……となんて言おうか悩んでいる。このまま待ってると時間をかなり食いそうなので、俺が声をかけた。

「何? どうかしたの?」

「えっ……と、その……ひ、樋口くん……い、いつ、行く? あの……メイド服、買うの……」

「え? あー……」

 顔だけにとどまらず全身から「めんどくせー」と言いたげな樋口くん。せめてオーラは隠そうよ。

「あ、あのね、他の2人……木之本くんと金山くんは……土曜日にしようって言ってるんだけど……樋口くんはその日、どうかなって……」

 恐らく宮下くんが頑張って進めているんだろう、健気だ……樋口くんはこれにどう反応するのだろうかと思っていると、少しして口を開いた。

「……僕は予定あるから……三人で行ってきたら。それで良ければ着るし」

 うーん……陰キャの反応だ。宮下くんはオロオロとしている。

「で、でも……」

「木之本くんが着れれば僕も問題ないでしょ。じゃ……」

 樋口くんはそういうとスタスタと歩いていってしまった。俺も追おうかと思ったが、宮下くんが泣きそうなのでそれを放っておくのが難しい。

「…………」

「…………」

 俯いたまま動かない宮下くんをどうしたものかと思っていると、彼は恐る恐る顔を上げて俺を見た。

「あ、あの……ゆ、結城くん……」

「な、何?」

「樋口くんと仲、いいよね……?」

「……そ、それなりには……」

 嫌な予感がする。

「お、お願い! 樋口くんを説得して……!」

 やっぱりそう来たか……。少しの間悩んで、やがて俺の口からは、いや……という声が出てきた。

「それはちょっと……無理……だと思う……」

「でで、でも! 結城くんも樋口くんと同じ部活で、それに……い、陰キャでしょ? 心わかったりしないの?」

 ごめんな宮下くん、俺のこれは似非陰キャなんだ……そんなこともちろん言えるわけもないが。

「い……陰キャ同士だからって心がわかるわけでは……」

 田向くんたちがニヤニヤ笑いながらこっちを見てるのが目に入った。助けに入ったら俺の陰キャが崩れてしまうから助けに行けないけど、とりあえずどうなるか成り行きを愉しく見守っている。うん、確かに助けにはいられても困るけどさ……けどさぁ……!

「と、とりあえず自分でなんとかして。ごめんね」

 引き留めようとする宮下くんの手を振り解き、俺は樋口くんが行ったであろう部室へ向かった。酷い罪悪感を胸に。うう、ごめんよ宮下くん……でももう人に頼られて執着されるのは嫌なんだ……!!


 …………とはいえ。この低身長グループが来週の月曜日までに服を揃えていられなければ、クラス中からの糾弾は免れない。というわけで、多少なりとも話してみることにした。

 パンを食べながら見る彼の横顔は少し不機嫌そう、ということも無く通常運転だ。あぁして誘われたのを断るのは慣れているのか、なんとも思ってないのかもしれない。

「……樋口くん、さっきのだけどさぁ……」

「あー……宮下くんの? 結城氏は真面目ですなぁ」

「いや、絶対説得しようと思ってるとか、そういうわけじゃないけど……行った方がいいんじゃない?」

「何故?」

「……ほら、女子がさ、来週の月曜には色々揃ってるようにって言ってたじゃん? 宮下くんのあの様子だと、樋口くんなしで買い物は納得しないよ。それで来週の月曜衣装がないってなった時、糾弾されるの樋口くんだよ?」

「…………」

 樋口くんの動きは止まらない。なぜだ。それが平気だと言うのか、と思っていたら、樋口くんは弁当の蓋に当たり前のようにミートボールを1つ乗せて俺にくれた。美味しい。そして、不敵な笑みを浮かべる。

「甘々のあまちゃんですなぁ、結城氏ぃ……」

「えっ……!?」

 なんだ……なんだと言うんだ!?くつくつと笑う樋口くんの次の言葉を待つと、やれやれと言いたげに彼は言った。

「そもそも、ですぞ? 人は、それも拙者のような者は人の印象に残りませぬ。時間はまだある、とにかく拙者のことはほっといてもらえば、否が応でも残りの3人は服を買いに行かざるを得ない。衣装が揃いさえすればいい。それさえ終わればみんな忘れる。…………それに、お忘れですかな結城氏。そうした非協力的な拙者の10倍、1Aで目立っているのは、一体誰か?」

 ──非協力的で非難の的になるであろう樋口くんより、目立つ存在?橋本くん?平塚さん?田向くんたち?容姿が目立つ名倉さん?

 ……いや、その誰でもない。1Aで1番目立っているのは他でもない──。


 メンヘラ5人に引っ付かれたことで入学当初から噂になり、球技大会で熱中症で倒れ、しまいには変な噂を流された、俺だ。


「ッッッ……とっ……待て! それは君つまり俺の目立ち方が自分の悪目立ちの盾になると!? そう言いたいのか!?」

「デュフフフフ!」

 こんなところでガチな人間不信が起こりそうだ。俺たち……友達だったんじゃないのか!?

「っ……いや! でも!! もう周囲は俺のこんな状況には慣れてるはずだ! もう6月だし!」

「むしろ周囲の慣れになんとも思わんので? あと目立つのに関してはわざわざ拙者が盾を作ったのではなく結城氏が不可抗力で盾になってるだけでござる」

 何一つ言い返せない。俺は悪くないのにどうして……?

 というわけで、樋口くんの説得は失敗に終わったと思われた──が。

「……あ、じゃぁ結城氏ぃ」

「ん?」

「拙者1人が突然一緒に……も不自然でござるし……」

「う、うん……」

「どうしても行かせたいならば、一緒に来るならいいでござるぞ」

「……えぇ……?」

 樋口くんはゆるゆると首を振った。

「考えてもみてくだされ。1番積極的なのでも宮下くん1人。どちらかと言えば非協力的な3人。服など決まるとお思いか?」

 ……それは確かにそうだ。そんなんじゃ決まりそうにない。いや、それで俺が困ることは何も無いのだけど……でも宮下くんが可哀想だしなぁ……。

 とはいえ俺が行ってどうする……樋口くんがどこの中学かは聞いてないけど、恐らく電車範囲のどこかだ。最悪の場合、俺が行ったところで来ない可能性もある……てゆうか、そう、そもそも俺バイトがある。

「……!」

 俺は僅かに目を見開いた。ニヤけそうになるのを抑え、溜息を吐き出した。そっちがその気なら──こっちもこの気になってやる!

「……わかった、いいよ樋口くん。俺は行けないし、諦める」

「でゅふっ、いい判断ですぞ」

 来るなら来るでいい、だが来ないなら、非道だろうがなんだろうが俺は俺の使える手を使う。ククク……俺のことを優しいと思いすぎだよ、君は!

この話を最後に、多忙につき少しの間休載いたします。

7月の中頃くらいには再開したいと思います。

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