表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャ失格 〜メンヘラに縁の多い生涯を送ってきました〜  作者: 文月らんげつ
文化祭 -Out of control-
21/108

21限目 どっちもペンギンだけど

 その日の夜、俺と一緒のグループになった3人はLINEでシフトを話し合ったが、元々漫研でやることがない俺と、文化祭ではやることがない運動部の3人。シフトはスムーズに決まった上、全員やることがないため誰かが急に都合悪くなっても他の誰かが埋められるだろう、という話になった。文化系ばかり集まってるグループなんかは大変そうだ。先輩との話し合いもしなければならないのだから。

 今年の6月20日からの3日間は木曜日、金曜日、土曜日に該当する。実質他校の学生が出入りできるのはほとんど22日の土曜日に絞られており、この日が激務になることが想定されている中で、俺のシフトは3日全てが13時から15時半というどう考えても繁忙すぎる時間になった。理由はビデオ通話のじゃんけん負けたからだ。ちなみに次点で嫌なのが15時半から18時で、そこのシフトは田向くんになった。


結城【てゆうか田向くんと佐々木くんはなんで女装にノリノリなの】

たむたむ【女装楽しそうじゃね?】

佐々木晴也【同じく】

まぶち【俺は女装経験者だからもうやりたくない】


 馬渕くんのサラッと入ってきた衝撃告白に思わず吹き出した。どういうことなの。


たむたむ【まってwww詳しくwww】

馬渕【そのままの意味だけど】

佐々木晴也【そのままがさっぱりわからん……】


 馬渕くんによると、馬渕くんには5歳と6歳年上のいとこ姉妹がいるらしい。その従姉妹2人が近くに住んでいたこともあり、馬渕くんは小さい頃その2人とよく遊んでいた、らしいが……その2人が好きな遊びが、男子の大半が興味はないような着せ替え遊びだったのだ。

 馬渕くんは今でこそ背が伸びたが、小学生くらいまでは背丈が同い年の男子の平均に届いていなかったらしく、その頃は従姉妹たちの着せ替え人形状態だったらしい。既に高校生だった2人は中学の頃の制服を着せたり、ワンピースを着せたりと好き勝手やっていたようだ。中学に入って背が伸び始めてからはそんなこともなくなったようだが、まぁつまりそんな経験があるのでもう女装したくないらしい。


たむたむ【でもそれ慣れてるから逆にいいんじゃね?】

まぶち【嫌だが????】


 そんなことを話しながら、夜は更けて行った。




 それからも、授業を受け、話し合い、メンヘラを避け、日が暮れるまで図書館で課題や自主勉強をし、帰って色々家事をして、翌日また授業を受け……という日々を繰り返し、文化祭までは残り2週間を切った土曜日。

「文化祭かぁ、それ陽依ちゃんに教えたの?」

「いえ、姉ちゃ……姉には教えていません。忙しいところにそんな連絡して、行けなくてごめんとか言われたくはないですし」

「しっかり者だなぁ。ほんと、そういうところ姉弟そっくりだねぇ」

 ケラケラと麻衣さんが笑うのに、俺も笑い返したが……もちろん、それは表向きの理由だ。本心は、姉ちゃんにそんなメンヘラに囲まれた生活と女装姿を見られたくない、というところにある。いや、女装はまだいい。だがメンヘラに囲まれているなんて知ったら、姉ちゃんは俺のために仕事を後回しにしてでも俺のために何かしようとするだろう。高校を出てから就いた仕事を辞めず、結構いいポジションまで昇格しているはずだ。だが最悪の場合俺のために辞めるとまで言いそうなので、現状を話すことは出来ない。自意識過剰だと思われそうだが、俺はそのくらいの愛情を姉ちゃんに注がれて育ったのだ。そうでなければメンヘラなんて釣ってない。

「陽向くんのクラスは何やるの?」

「……女装でメイド喫茶やります……」

「女装! あっははは! まぁ女装は高校の文化祭の醍醐味だよなぁ!」

 誠一さんがゲラゲラと笑う。彼も経験者なのかもしれないが、こっちとしては笑い話ではない……などと考えていると、バックヤードのラジオから1時を知らせる音がした。

「あっ……もう1時だ。すみません、朝言った通りで……」

「あ、そういえば今日は早上がりだったね」

「すみません予定があって……」

 俺は急いで更衣室で着替えて、鞄を持った。

「お先失礼します! お疲れ様でした!」

「お疲れ様ー!」

「また明日なー」

 ペコッと頭を下げ、俺は店の裏口から出ていった。


 この店は目の前に公園がある。公園と言っても遊具なんかはなく屋根付きのベンチが点在する程度だけど、一応公園と名前がついているし、たまに小学生がバドミントンとかをやりに来ているのをたまに見る。

 公園の入口の1番近いところに、3人は座っていた。田向くん達だ。

「お、結城」

「おー、バイトお疲れさん」

「待たせてごめんね」

「んや、そんなに。じゃ、行こうぜ」

 行くというのは買い物だ。一昨日文化祭委員会から予算が配られ、それをクラス委員たちがメイド服4着分と材料費などに振り分けて、昨日その分の金が与えられたのだ。というわけで俺たちはメイド服を買いに向かっている。店で別のチームに出会うだろうな……。


 俺たちが向かうのはディスカウントストアだ。そこに行けば面白い服とかは大体なんでもある。1階は青果などの食品が安く売っているだけだから2階に上がる。……今日の飯の材料を買うこと前提で生活費持ってくればよかったな……。……いや、この面子を買い物に付き合わせるのも悪いし、いいか。

 2階には、ぬいぐるみとかの玩具に、家に置くプランターやそれの世話のための道具、美容用品や電子機器まで、幅広い雑貨が所狭しと並んでいる。目当てのものを探している途中で通った人気ゲームのぬいぐるみコーナーでは、本来そこにはペンギンをモチーフにしたモンスターがいるべきところに、店のマスコットキャラクターのぬいぐるみが置いてあった。いや、うん、確かにどっちもペンギンだけど。


 やがて、コスプレコーナー的な場所に辿り着いた。やっぱりメイド服というのは定番らしく、バリエーションとサイズが多い。ちなみにこの面子《チーム長身》、背が高い順に、田向くんが181cm、俺が177cm、馬渕くんと佐々木くんが175cmと、上下の差は6cmになる。170〜180の服になるということだが、そんなでかいのあるのだろうか……と思っていたら、「おや」と声が聞こえた。振り向くと、そこには橋本くん率いるチーム中背の面々がいた。身長は、170〜174と言ったところか

「君たちもメイド服を買いに来たのか。いいのは見つかったかい?」

「今着いたところだからまだだ。互いに女子の背丈じゃねぇからサイズが会うの見つけるの大変だな」

「あ、おいこっちじゃね?」

 田向くんと橋本くんが話している横でメイド服を探していた佐藤くんが声をかける。ぞろぞろとその場へ向かうと、たしかに男女兼用メイド服と書かれていた……けど、田向くんが着れるほどのサイズではなさそうだな……と思っていたらその横にもうワンサイズ大きいのがあった。俺たちはこっちになるかな……。

「男性が着れるものはこの二種類だけみたいだな」

「とりあえず試着するか」

 試着とか嫌だが、そんなことを言っても仕方ないし、サイズが合わないとかあると困るため、とりあえず1人ずつ着てみることになった。ファッションショーみたいになってしまったな……。

 何故か橋本くんたちが最初に1人ずつ試着し、その後俺たちが1人ずつ試着し、一人一人を全員で見るという地獄のような空間を生み出している現状、多分他のお客様は「なんだあれ……」みたいな目で見ていた。なんかすみません。

 ともあれサイズに問題はなく、配られた予算で払って俺たちは店を出た。橋本くんたちとは途中の道で別れ、俺たちは最初集まった公園で解散になった。

「じゃぁこれは俺が持っておくわ」

「おう、よろしくたむたむ」

「また月曜」

「たむたむそれ無くすなよ」

「無くさねーわ」

 そんな感じで、充実しているのかしていないのかよく分からない土曜日。俺たちはそれぞれ帰っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ