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陰キャ失格 〜メンヘラに縁の多い生涯を送ってきました〜  作者: 文月らんげつ
血と(冷や)汗の球技大会
13/124

13限目 メンヘラとはいえ女の子

「ほら、早く上がって。パパとママには言ってあるから」

「お……お邪魔します……」

 翌朝、俺は実に小学生の頃ぶりに愛の部屋に上がった。愛が提案したのは、「学校に行った振りをして愛の部屋で休む」というものだった。……いい匂いがする……思わず鼻と口を手で覆ってしまい、愛は心配そうに見てきた。ごめんな愛、吐き気じゃないんだ。緊張なんだ。

「じゃぁ私は学校行くから、安静にしててね」

「う、うん……ありがとう」

 愛は手を振って部屋から出ていった。……いい匂いがする(2回目)……なかなか寝付けそうに無いぞ、これは……。


 愛の母親である弥生やよいさんと父親である健一けんいちさんもちろん仕事で、2人とも俺に一声かけてから職場に向かった。弥生さん、俺の家庭事情を汲み取ってくれるのはありがたいけど、幼馴染とはいえ男が娘のベッドを使うのを許すのは、危機感がないと言うべきか、なんなのか。ちなみに健一さんには「仕方がないとは分かっているけど……!!」みたいな渋い顔をされた。


 ベッドでぼんやり過ごし、まだ体調の悪い俺は結局寝たり起きたりを繰り返し、昼。弥生さんが仕事に行く前に、「林檎の摩り下ろしが冷蔵庫にあるから食べてね」と言っていたので、起き上がってリビングに向かおうとしたところで、LINEの通知が来た。樋口くんから。しかしメッセージでなく……通話?

「……もしも」

『結城ィーーーー!!! 体調大丈夫か!?』

 今の爆発音量で悪くなりそう。主に耳が。てゆうか樋口くんじゃないな。

「えっと……何? ……ほんとに何?」

『あ、悪い! 俺バスケで一緒だった田向たむかい! 樋口に許可取って連絡中』

 良かった許可済みだった。

『おいたむたむ! そんなことより本題!』

『あぁそうだった! えっと……すごく聞きづらいんだけどお前今体調どんな感じ?』

 嫌な予感がする。

「ね、熱は下がったし……もう吐き気もないけど……」

『今から来れたりしない!?』

 無茶言うなぁ……。

『……ええと、とりあえずどういうこと?』

 …………曰く。昨日、1Cと1Dのバスケの試合で勝ったのは1Dだったそうで、運動部揃いの強豪クラスだったようだが、今日の1Aとの試合でなんと時間を間違えたために失格負けとなり、決勝進出は現役男子バスケ部のいない1Aと男子バスケ部数人の1Fになったらしい。ここまで来たからには勝ちたいのかと思ったが、理由は別にあるらしい。

『F組の連中さぁ! 昨日のドッジボール2回戦で当たってこっちが勝ったんだけど、そしたらそれ知った男子がわざとサッカーボールを女子目掛けて蹴って怪我させやがったんだよ!』

「えっ……誰を」

『お前にいつも引っ付いてるうちの一人……あぁそうだ、実川っていう細い子!』

「だ……大丈夫だったの?」

『大丈夫みたいだけど、許せないのがさ、明らかにわざと蹴ったのにわざとじゃないって言い張ってんだよ』

 どうやらそのF組の男子は、中学時代から教師に目をつけられているいじめっ子らしい。気に入らないことがあれば暴力に訴え、今のクラスでもリーダー的存在だそうだ。またF組も男女共に運動部が多く、サッカー、バスケ、バレー、ドッヂのどれも2回戦を勝ち抜く予想が立っていた。それなのにドッヂが2回戦で負けたのが気に食わず、弱気そうで体の細い実川さんを狙ったのだろう、とのことだった。

『で、それがドッヂ面子だけじゃなくてバレー面子もやられてさ。それでやっぱりうちのクラス1人怪我して負けたよ。先生に訴えたけど、本人がわざとじゃないって言うなら先生も言及はできないよな……』

「そんな……2人もやられたんだ」

『そう! それがやっぱりお前の取り巻きの伊藤さん!』

 …………言ってしまえば、知ったこっちゃない。メンヘラが2人、偶然狙われただけ。恐らく俺を引き出そうなんて相手は考えちゃいないし、実際、むしろ少し大人しくなってくれるかもしれないと思うとありがた…………いや、全然ありがたくない。むしろその怪我で俺に引っ付く時間が長くなりそうだ。いやそんなことよりも、だ。

 気に食わないからと言って、自分の試合とは関係ない女の子を、わざと怪我させて鬱憤を晴らして、勝って、嬉しいのか?

『で、そいつはバスケの試合に出る』

「!」

『お前はいつもあの5人に困ってるし、取り巻き2人が怪我させられたって知らんがなって思うだろうけど……それはそれとして腹が立たないか?』

「…………」

『図星だったら、来ないか? 無理強いはしない、でもなんなら、来るだけ来て、指示を出して欲しい』

 俺のスマホを握る手の力が強まった。

 その通り、メンヘラが怪我したからってどうでもいい。でも、メンヘラとはいえ女の子だ。自分のために弱者を傷つけるのはクズのやることだ。バスケが大好きで、強くなくても大好きだからやり続けた俺にそんな、スポーツマンシップの欠けらも無い行為を許せるなんてことはない。

 だが、正直昨日の今日では、試合への参加はおろか、学校に行くのも考えるだけでしんどい。そんな俺でもできることは……。

「……何時から?」

『え?』

「バスケの試合。何時から?」

『2時半!』

「……そっか。……多分俺は行けないし、そもそも校門が開いてないよな。わざわざ校門を開けるために職員室行くのも手間だろうし……だから、カメラ通話で状況を見せて欲しい。そしたらそれを元に指示は出せる」

『本当は来て欲しいけどさすがにまた倒れても仕方ないしな……わかった! それで頼む!』

 じゃぁ試合前にまたかける、と言って相手は電話を切った。

 今の俺にはせいぜいそれが限度だ。それで勝てるかどうかはもちろん現場次第だけど。




 2時間ほどして、試合は定時通りに始まり、樋口くんがカメラを回してくれている。サッカーの試合に出てた奴が俺の指示を回してくれるらしい。

 相手とこちらの選手の身長、体格、動き方を見る。

「橋本くんゼッケン5番をマークして。田向くんと斎藤さいとうくんは誰マークと言うよりは中を固めつつ7番に注意」

『橋本5番マークしろ! 田向と斉藤はゴール前のディフェンスに入れ7番に注意しろ!』

馬渕まぶちくんは6番、渡辺わたなべくんは4番マーク。センターより前に行かせないようにして」

『馬渕は6番! 渡辺は4番! センターより前に行かせるな!』

『センターってどこだ!?』

『中央の縦線!!』

 何とかディフェンスは成り立ってる。だがこのままでは防戦一方、打開策は作れることには作れるが、大声で伝える方法では成り立たない。作戦が知られれば相手がそれに対する対策をしてくるはずだ。話すなら第2クオーターが終わった時のハーフタイムしかない。

 やがて防御姿勢のままで前半が終わった。10点差。F組は第2試合、第2クオーター終了時点でG組相手に20点差をつけていたらしいので、そこを考えれば十分な成果と言える……が。

「正直ここから勝ちに行くのは厳しいと思う。誰もフェイントとか使えないだろ?」

『なんともならないか?』

「……うーん……一応作戦を練るなら、あえて隙を作るしかないと思う」

『どういうことだ?』

「防御姿勢は同じままでいい。ただ、6番か4番、どっちかのマークを少し適当というか……ずさんにする。他のメンバーはほぼ全コートマンツーマンだ。となると、マークがずさんなチームにパスを回すことになる。で、パスが出たところをすかさずカット、カウンターを狙う。相手は攻撃姿勢に出てるから、センター前後でカウンターを決められれば多分弱い。あと、橋本くんは今度7番マーク入って。あいつが1番シュートを決めてるから、背が高い橋本くんに妨害してもらう。それで、出来ればリバウンドを斉藤くんにお願い」

『すげー不安なんだが』

「倒れたのはほんとにごめん……でも、勝ちたいなら頑張って」

 この程度の指示しか出来ない。あとは現地組に賭けるだけだ。

「……ただ、1ついい?」

『ん?』

「もしかしたら相手がこっちの動きを読んで、後半戦では点差を守りきるために防御姿勢をとってくるかもしれない。その場合今の作戦は使えない」

『じゃぁどうするんだ?』

「その時は──」

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