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陰キャ失格 〜メンヘラに縁の多い生涯を送ってきました〜  作者: 文月らんげつ
家で問題が起こるとは微塵も
108/124

108限目 チャンス!

「てことで、俺は誰と付き合えばいいんだ?」

『ホントのホントに根深いな!? そしてお前ほぼできることないのになんで巻き込まれてんの!?』「遠藤に言ってくれ……」

『なんつーかどんまい』

 馬渕の慰めが適当すぎる……。

『つか別に作らなくていいんじゃね? 死ぬような病気でもないだろ?』

「ないけど、高野さんが治療しないと姉ちゃんが元気にならなそうだし……あと遠藤姉に何されるか分からないし……」

『……それはそうか』

 その後も色々と考えを巡らせてはくれたが、やはりいいアイデアは出なかった。1番現実的なのは、たむたむが言った「死ぬような病気でもないし付き合わない」という案だ。姉ちゃんもいずれ立ち直るかもしれないとは俺も思ってるし、死なないなら別に……と俺自身が考えているのも事実ではある、が……遠藤姉に何を言われるか分からなくて怖いのは本当だ。何より、姉ちゃんは立ち直るだろうと言うのも確証はない。

『いっその事さー、付き合ってないけど付き合ってるって嘘つくのは?』

『あぁなるほど、ありだな』

『俺は反対だな。また球技大会の時みたいになりそう。それに、付き合ってる証拠を見せろとか言われそうだし……』

 たむたむの提案になるほどと思ったが、馬渕の冷静な反対に思いとどまる。球技大会と同じことは流石にやったりしないとは思いたいけどゼロではないな……。

『まぁ、なんだ……案ずるより産むが易しって言うしさ、1回実川さんと付き合ってみたら?』

 結局佐々木のその考えに、2人が同意してしまい……俺としてもこれ以上考えたら頭がパンクしそうで、冬休み入る前に実川さんに事情説明と告白を行うことになったのだった。

 ……そう、来週の火曜から冬休みで、告白するなら木曜《明日》、金曜《明後日》、飛ばして月曜しかないのだ……。この3日間で覚悟を決めろってか。実際日付は来年まであるが、冬休みがあるので実質7日あるかないかという程度。勿論実川さんの連絡先なんて知らない。知っていればSNSで細かく説明して絶対人に言わないで!と言った上で後腐れなくできるんだけどな……。




「善は急げってのにお前は!!」

「善じゃない!! 急ぐべきことなのは認めるけどこれは善じゃない!!」

 そして翌日の放課後、部活前の掃除時間に俺はたむたむと佐々木にどつかれていた。箒で突くな箒で。何があったかと言うと、当然と言えば当然なのだが実川さんに話しかけられないままに放課後を迎えてしまったのだ。

「第一他の女子の目もあるのになんて言えばいい訳!?」

「その辺の計算くらいしてこいよ!」

「ごもっともだけど!」

 そんな話をしていると、女子の典型的な「ちょっと男子ィ!」が飛んできた。まともに掃除してないのだから当たり前だ。

「ちゃんとやらないとお前ら来週3人で掃除させるからな! ……てゆうか何で騒いでんの?」

「甲斐田……まぁ色々あってな、結城が」

「えぇ? またぁ?」

 またでごめんよ甲斐田さん……またなんだよ。今年度入ってから問題に巻き込まれてない日の方が少ないんだ俺は。

「今度は何があったわけ?」

「それはこいつの家庭環境に関わるから詳しくは言えん。ただ実川さんに用事があるんだよ」

「……それなら無理に詮索しないけど」

 甲斐田さんがグイグイ聞いてくるタイプじゃなくて良かった。俺としてもこの話を他の人に無闇矢鱈言いたくは無い。というかモラル的に言えない。自分の家のこととはいえ流石に根と闇が深い。なんなら、高野さんと俺が父さんのせいで腹違いの兄弟関係にあるということに対して、まだ現実だと思えてない。何が悪い夢でも見ているような気分だ。

「はぁ……」

「……凄い疲れてるけど大丈夫なの?」

「全然大丈夫じゃない……とはいえ名倉さんの時みたいにクラスメイトの力借りるのも出来ないんだよ今回ばかりは……」

「……実川さんがどこにいるのか心当たりはあるけど、聞く?」

「えっ!?」

 バッと顔を上げると甲斐田さんは知ってることを教えてくれた。実川さんは最近よく図書室で見かけるらしい。

「甲斐田はなんで知ってんの」

「私が部活終わるまで彼氏が図書室で待ってるんだけど、最近よく見かけるんだよね」

 甲斐田さん彼氏いるのか……まぁ少し気は強いけど明るい顔でバドミントン部で1年のエースだと聞く。彼氏いない方が不自然な条件かもしれない。

「ま、絶対いるとは限らないけど」

「行ってきたら結城」

「掃除はもうすぐ終わるしさ」

「い、いいのか……」

「いいよ」

 言いながら佐々木が俺の持っていた箒を受け取った。俺は一言お礼を言うと、教室から出て図書室に向かった。どうか居てくれるといいが、居たら居たでなんて言えばいいのだろう……まぁその時はその時か。


 もう少しで図書室に着く、というタイミンで実川さんに鉢合わせた。チャンス!図書室から連れ出す必要がなくなった!

「実川さん!」

「! ……陽向くん、どうしたの?」

「ええと……頼みがあるんだけど、ちょっと移動出来る?」

「……いいけど……」

 こうして俺と実川さんは、あまり人が通らない通路へ移動した。さて、なんて切り出すべきか。家庭事情はやはり全て話した方がいいか?……いや、遠藤に巻き込まれた話でいいか。

「……ええと……F組の遠藤覚えてる?」

「……うん」

「俺も知らなかったんだけど、俺の親戚が遠藤の知り合いらしくてさ……その親戚が病気になっちゃったんだけど、どうやら治療を拒んでるらしいんだ。彼女と酷い破局をして、ヤケになってるみたいで……それで遠藤がその人に、ゲーム性みたいな条件を持ち出したんだよ……」

「……?」

 どうやら話を呑み込めてないようだ。当たり前だ、そのゲームに俺が、しかも自分まで組み込まれているなんて思うわけが無い。だがこれ以上説明の仕様がないので続ける。

「その内容が……俺が、実川さんか恩塚さんか良木さんか伊藤さんの、4人のうち誰かと付き合うことらしくて……」

「え!?」

「お、驚くのもわかる! 俺も驚いた! ……俺のその親戚には良くしてもらったし、何より姉ちゃんがその人を慕ってるから……あ、人としてね? まぁそういうわけで、治療はして欲しいんだ。俺と実川さんが付き合えばゲームには勝ったことになって、親戚は治療を受けることになる……ゲームに勝ったことさえ証明出来ればいいんだ、他に我儘は言わない! 行きたい場所には付き合うし、キスまでなら許容する! だから短い間付き合って欲しい!」

 言ってることは正直ハチャメチャだ。なんで遠藤が俺を巻き込んでいるのかとかなんで自分たちも巻き込まれているのかとか、言いたいことは山のようにあるだろう。断られることも十分考えられるが、幸か不幸か、俺からの告白なんてこの上なく嬉しいことなのだ。

「わ、私で……良ければ……陽向くんの、親戚のためだもんね」

「……はぁ、よかった、ありがとう。ほんと、すぐ別れることになると思うけど、大丈夫?」

「うん、いいよ。……でも、冬休み中はいっぱい楽しもうね」

 実川さんは仄暗く笑った。安堵、していたし、実川さんが1番マシだという考えも変わっていないが、それでも実川さんもメンヘラだ。これは早めに、バイト先に、イブとクリスマスは出られないと言った方がいいな……。

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