表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャ失格 〜メンヘラに縁の多い生涯を送ってきました〜  作者: 文月らんげつ
家で問題が起こるとは微塵も
107/124

107限目 重量が半端ないな

「母さん、父さんが居なくなった理由が不倫って聞いたんだけど、ほんと?」


 俺は帰ってから母さんにそう電話した。母さんは何も言わず、やがて溜息を吐き出した。

『……誰に聞いたの』

「姉ちゃんの彼氏の従弟が同学年なんだよ……その経由で聞いた」

『そう……じゃぁ全部聞いたのね』

「父さんの居場所以外のことは大体知ったよ」

 それももう少しで知れそうだが、まぁ今はいいか。それに母さんの反応的に、とりあえず父さんのことについては本当のようだ。

「……とりあえず顔合わせて話したいんだけど、帰るのはまた後日にするから明日の放課後家に行っていい?」

『……わかったわ。お姉ちゃんは同席するか分からないけど……』

「わかった」

 電話を切る。普段なら友達やら愛やらに話して発散しているところだが、さすがに今回はそんな気になれない。情報量が多すぎて疲れたし、こんな根深い問題を愚痴られたって相手も困るに決まってる……と思っていたら、通話の通知が来た。たむたむが始めたグループ通話だ。出ようか否か迷っていたら、佐々木も馬渕も参加し始めたらしい。どうしようかな……気付かないふりでもしておくか……と思っていたのだが、普通に文章の方で「結城ー?」「風呂かな?」と俺の安否を心配するような文章が送られてきている。心配をかけるのも悪いので、結局俺は通話を繋いだのだった。

「……トイレ行ってた」

『おーそうか。無事で何よりだ』

『無事かぁ? すげぇ疲れてそうだけど』

『あの3年との会話終わらせて帰宅出来てるなら無事だろ』

「えーと……要件としては俺とあの3年との会話内容聞きに来た感じ?」

『いや、というか……何かあったなら愚痴通話させて欲しいって来そうなのに今回それがないからさ、大丈夫かなーと思って』

『まぁ言いたくないならいいけどさ、溜め込むのも良くないじゃん?』

『そー。昼にお前が席外してる間に、何も言わなかったら聞いてみようって話してたんだよ』

 うっ!陽キャの後ろから差す太陽光に焼かれる……!俺の名前陽向なのに3人の気遣いが直射日光で耐えきれない……!

「言いたくないって……訳じゃないんだけど、俺としてもちょっと……根が深すぎて……それはもう全ての始まりが俺が生まれる前にまで遡るような話で……どこから話せばいいのか……」

『お、おう……』

『そんなに?』

「そんなに。……まぁ明日家に行ってそのことについても話すつもりだからさ、その後にまた……気力あったら報告する」

『ほいよ、了解』

『無理すんなよー』

「ありがとう」

 プツと電話を切る。あー、もう、宿題あるのにやってられるほど頭が働かない。何とかならないかな、これ……。




 翌日、部活には行かないと樋口くんに言って、直帰。おじいちゃんおばあちゃんの家でなく、実家に。制服のまま、鞄も置かずに。

 インターホンを押すと、母さんが出た。もう昼から居ないことが多い母さんだ。普段ならもう仕事に行ってるような時間だが、姉ちゃんを1人で放っておけないのか、まだ仕事に行く支度もしてないようだ。姉ちゃんは同席していない。

「ええと……俺がその人に聞いたのは……」

 俺は、遠藤姉から聞いた話を聞いた。勿論、遠藤弟が性病治療のついでに俺への嫌がらせをしていることは隠して。母さんは大きく溜息をついた。

「………その人が言ってることは本当よ。お父さんは陽依が産まれる前に不倫をしていて……バレたのは貴方が4歳くらいの時。それで出ていったの」

「…………」

「私もびっくりしたわ……まさか陽依の恋人が、不倫相手との子供だったなんて……」

「……それ、何がきっかけでバレたの?」

「高野さんのお母さんが、陽依の顔を見てまさかと思ったそうよ。それで、互いに父親の話をして……遺伝子検査をしたんですって」

「姉ちゃんはそれで……高野さんが性病感染しちゃったことも相まってショックで寝込んじゃってる感じ……?」

「ええ、そう……もう、どうしたらいいのか……」

 母さんは悲痛そうな顔でまた溜息を吐き出した。当面の問題は……俺の優先順位としては、まず姉ちゃんをどうするか、次に高野さんのために彼女作るとしてどうするべきか……あとはついでに遠藤弟を本当に1発くらいは殴っておきたい、という感じだ。父さんのことは一旦置いとこう。うーん、並べてみればおまけも合わせて3つだが、一つ一つの重量が半端ないな……。

「……まぁわかった、俺にはどうしようもないけど……色々わかってスッキリしたよ、ありがとう」

「ごめんなさいね……陽向ももう高校生だしと思ったんだけど、陽依がどうしても陽向は巻き込みたくないって……」

 姉ちゃんも少しくらい、歳が離れているとはいえ俺は男なんだから頼ってくれたっていいのに……とりあえず俺がやるべきことは、メンヘラの中から彼女を作ることに決定したわけだ。

 俺は実家を後にし、祖父母宅へ戻った。机に向かい合い、ルーズリーフを取り出す。伊藤さん、実川さん、恩塚さん、良木さんの名前を書き、縦線と横線を引いてメリット・デメリットを書き出す。どうしてこの集中力というかこの方法を俺は勉強に使えないのか。そして困ったことに、全員まとめてメリットがない。デメリットのことと、付き合う理由を教えた時のことを考えるなら実川さん一択なのだが……実川さんが1番良識的な分、それを知った周囲の反応が怖いのだ。名倉さんはもう考慮外として、伊藤さんの刃物持ち出し率が高い。名倉さんと付き合ってた時に刃物が出なかったのは、菊城による牽制のおかげだ。菊城が絡まなければ容赦なんてないだろう。いっそ、あの4人集めて事情を説明した上で、ジャンケンでもさせるか?……いやいやいやいや、落ち着け俺、面倒だからと思考を放棄するな。

 その後も考えに考えた。全員に事情を説明して、口外するなと釘を刺したとしてメンヘラは口が軽い。間違いなくどっかから漏れる。そして話がねじ曲がって変な噂になりそうだからだめだ。やはり密かに付き合うしかない。

 恩塚さんは……付き合ったら最後、多分物理的に離して貰えないし、俺に振られるとなったら大暴しそうな感じがある。というか実際、中学の時のまだクラスメイトでなかった頃、彼氏に振られて大暴れしたという話を聞いたことがあるなと、こんな嫌なタイミングで思い出してしまった。

 良木さんは……正直に言えば危険度は低めだ、良木さんだけの事なら。だが彼女の両親は若いヤンキー夫婦で、正直だらしない雰囲気がある。その両親に、俺と付き合ってることを、ひいては俺がバイトしてるなんて知った時の反応が未知数だ。流石に娘の彼氏に金をせびる親なんて居ないだろ、と思うかもしれないが、人は金の問題になると人格が変わるとか常識を逸脱するとかあるのだ。というか、俺に直接貰おうとしなくても、彼女になった良木さんに「金をねだってこい」と言い出す可能性はとても高い。嫌すぎる。

 伊藤さんは…………1度付き合ってるが、その間はまぁまぁ大人しかった。しかし俺から振ってるので、また俺から「付き合って欲しい」なんて言えない。言えるはずがない。

 実川さんは……親も基本まともな部類で、刃物も持ち出さないが……他の3人が暴力に訴えてきそうで怖い。くそ、こちらを立てればあちらが立たず……!

 …………陽キャに聞くか。何か画期的な方法を思いついてくれる可能性が、可能性としては低いがあるかもしれない……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ