これってもしかして
「なあ、次の週末空いてるか?」
デュオで三戦遊んだ後、ロビーに戻るや否やセンセ、いやさイアさんの言うことにゃ。
「ふぉ?」
いつもこうやって夜更かしして遊んでいるのは金曜の夜だ。まあ、土曜のこともあるけど、週末ってどっちやねん。
首を傾げながら、ヘッドセットの位置を直して確認する。
「金土、どっちのことです?」
新しくゲットしたエモートで空手の型など演舞しながらマイク越しに問うてみると、
「あー……」
言葉を濁してる。頭でも掻いてそうな間に、私は反対側に首を傾げた。
そもそも、いつも直前に「これからやるか」みたいな感じでメッセージの遣り取りをして遊んでいる。こんな風に前もってお伺いを立てるなんて初めてのことだ。
画面のイアさんは、紳士的にお辞儀をした。
(おぉ素敵)
「実は隣町のショップでな、カスタムマッチがあるんだ」
「ほうほう、もしやそれに参加しようと?」
「そういうことなんだが……」
(ぬ? 歯切れ悪いのね)
私は演舞に飽きて、イアさんのアバターに向けて花吹雪など撒いてみる。
未だにイアさんと親しくなれたとは言い難い。
ゲームは一緒にプレイしているものの、そんなに会話が多いわけでもない。仕事には慣れたかとかそんな当たり障りのない世間話でとどまっている感じ。
「時間帯はどのくらいなんですか。家から接続できるんですよね」
仕方ないので、こっちから話を繋いでみる。
「土曜の午後一からなんだ」
「なるほど。大丈夫ですよ~」
たまに友人と買い物に出かけたりはするけれど、来週末は特に約束がない。画面越しに頷きながら、アバターで拍手した。
「で、だ」
「はい」
「駅前で、待ち合わせしないか?」
「ほわぃ!?」
(いまなんか幻聴聞こえた!)
「Whyじゃねえよ。ショップのPC使って参加する。キーボードとか機器も全部現地のだ。手ぶらでいいからなっ。一二三○に隣町駅前集合! 申し込みしとくから。んじゃ、おやすみ」
「はぇっ……?」
私があんぐりと口を開けている間に、イアさんは早口で告げてログアウトしてしまった。
「ちょっ、センセっ、イアさん、待って」
呼ばわれど時すでに遅し。
(えっと……つまりなんだ、十二時半に行けばいいんだよね。隣町の駅前に。うちからだと自転車の方が近いな、うん)
マウスから手を放して腕組みをする。んでもって、復唱、これ大事。
(ていうか)
「ていうか! これってデートのお誘いってことでいいんですかーっっ」
腕を解いて、頭を抱える。
(だってだって、卒業以来リアルでは会ってないし! あそこのショップ、そんなに座席数多くないからカスタムマッチはリモート参加ありだしなのにわざわざ現地で参加するとかちょっと意味不明だし? 言い淀んでたのって恥ずかしかったりするからで言い逃げみたいに接続切るなんてスマートじゃないことセンセらしくないというかだからつまり)
こほんと咳払いをして、チェアに座り直して背筋を正す。
「つまりこれは。石井明里、生まれて初めてのデートってことでよろしいですね?」
液晶画面では、一人取り残された私のアバターが所在なげに肩を竦めていた。