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逃がさないよ?  作者: 亨珈
見つけちゃった!
4/19

おやおや

 数回降下して、一度だけトップテン入り出来た。ほかの回では一度目のエリア収縮しかクリアできていないので、時間的には大してかかっていないのが悲しいところ。

 でも気分良く終われるかなぁとチェアの上で伸びをしていると、メッセージアプリの通知音がした。

 キーボードの左に置いている携帯端末を手に取ると、センセイからだった。


『一緒にやるか?』

って、一言だけ。

 愛想もなんもないなぁ。


『やります!』

 こちらからも簡単に返信。

 スリープした画面には、口角の上がった締りのない自分の顔が映っていた。


「インしてるの分かってるのに、なんでこっちから招待しないんです?」


 パーティーを組んでデュオで出撃しながら軽口を叩く。

 私とセンセイはフレンドになっているから、誰が今ゲームにインしているか、待機中なのか試合中なのかも判るんだよね。

 まあ、配信中だったらフレンドIDが画面に映らないようにはしてるだろうから、終えたとこなんだろうけど。


「なんとなく」

「ふぅん」


 センセイの口癖なのかな、なんとなく。


 降下先に病院をポイントしてくるセンセイ。


「ひどい」

「ビシバシいくぞ」

「スパルタはんたーい!」

「へえへえ」


 どうして過疎ったとこのファーミングから始めてくれないのか。腕に自信のあるガチ勢が大好きな地域を指定してくるサドである。


 索敵するまでもなく、周囲は敵だらけ。パラシュートを広げてから、確実に武器があるところを目がけつつも警戒。

 うん、同じ屋上目指してる人がいるー! 早く弾込めしたもん勝ち。

 着地点、目測ぴったりに降りて即アサルトライフルと弾を拾い、マガジンをセットしながら敵に向かう。

 あっちは短機関銃か。これはヤバい。

 だけどコンマ差、ひと呼吸よりも短い時間差で私の方が弾込めが速かった。

 フルオートで相手の胴体に撃ち込む。向こうからもやり返されたけど、削り切るのはこっちの方が先だった。一発の威力が違う。


「Nice」

 ふうーっと肩の力を抜いたとき、センセイの声。

 周囲はあちこちで銃撃戦が行われている。あっ、手榴弾の音、この棟の下だわ。

 キルログ、センセイもう二キルしてるし……。

 警戒しながら、物資を集めていく。降りていく間にあちこちに死体が転がっていたけど、私が出会ったのは一階で一人だけだった。

 物資漁るときにドアに背中向けちゃ駄目ですよ。


 混戦を極めた病院を制したのはセンセイ(とおまけの私)で、無事に車をゲットしたときには、センセイのキル数が二桁にのっていたっていうね……なんか凄いことになってたんですけどね。

 足手まといにはなってなくて良かったよ、私。


 収縮するエリアに追われながらの車中。



「センセー、私いいもん拾った!」


 ジャジャーン!と言いながら、助手席でミニガンを構える。どや! レア武器だよ!


「お前なぁ……それで何やらかす気だ。あと、もうお前の先生じゃないんだからセンセーって呼ぶな」

 呆れたような声。


「何って、ぶちまけながらの近接」

「取り回しが難しいだろ。遠距離は?」

「センセにお任せします」

「だからー」


 はぁって溜息吐かれてもですね。


「師匠!」

「却下だ」

「だってInspireって呼びにくい」

「mamemameだって呼びにくい」


 呼ぶときにはマメって略すかお前呼びのくせに!


「そういや、なんでマメはmamemameなんだ? そんなに小さくねぇだろ、背」


 小さいって意味のマメじゃないんだよねー。


「まめまめしい、のマメですー!」

「豆が好きなわけでもなかったのか」


 予想外だったらしく、ヘッドホン通してセンセーのくつくつと笑う声が聴こえてくる。

 ――あー! もう! イケボだからって許されると思うなよ! 許すけどっ!



「InspireはなんでInspireなんです?」

 ふと、さっきの配信で耳にしたばかりのことを尋ねてしまった。

 なんかこう、つい、ポロっとね。口から溢れちゃったんだ。

 答えなら、知ってるのにね。


「あー」

 センセーは一軒家の壁にピタリと車を付けて、ドアが開いたままの建物へと駆け込んで行く。

 車を走らせながら無人と踏んでいたのか、クリアリングしながらも迷い無く屋上へと向かっている。


 センセーはボルトアクションのスコープで索敵しながら、また口を開いた。アバターの足は止まることなく、うろうろと屋上を彷徨っている。

 私は縁に沿って腹這いになったまま、そんなセンセーを見つめていた。


「たぶんマメは知らねぇだろうけど、昔スポーツタイプの車でInspireってのがあってな」

 おや?

「そのCMがまためちゃくちゃカッコ良かったんだよ。今は売ってないけどな」

 おやおやー?


「で? Inspireにした、と」

「そう」


 こころなしか、センセーの声が恥ずかしそうに聞こえる。

 え? これもしかして、赤面してたりしない?

 うわー、面と向かってないのがこんなにもどかしいの初めてなんですけど!

 口元が緩む。緩むっていうかもう、にちゃあって感じに変になってる。

 やっぱり面と向かってなくて良かった。


「マメ? お前笑ってんだろ」

「いえいえ、そんなまさかまさかそんな」

「絶対笑ってる」


 ちょっ、銃口で頭突付くのやめてくださーい。


「Inspireは長いので、イアにしますね」


 笑いを堪えての返答は、声が震えていて。

 うーっと唸ったあとに、ようやくセンセーは「それでいいか」と吐息混じりに囁いた。




     了


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