今度こそ遅刻しません!
十月の最終日、今年はなんと土曜日。これはもうデートしろってことでしょ!
なーんてね、息巻いてますけど心臓はバックンバックン息もちょっと苦しい。頑張って履いてきたピンヒールは八センチですからね、絶対に走りませんよ!
ちなみに今回は靴擦れ防止の踵と爪先クッション装備済みデス。
(大人になるって、いっぱい努力が必要だなぁ)
からりと晴れた空には、うろこ雲がブワーッと広がってる。日中はまだ二十度を上回る日もあって、出歩いている人の格好も夏寄りの人と冬寄りの人と差が激しい。
(流石にダウンコートは暑くない……?)
駅ビルを背にして道行く人を眺めて、ハンドバッグを握り直す。
(今日は早めに着いて髪も直したし)
そわそわとスプリングコートを払って、足元をチェック。黒ストッキング、伝線してないよね。脚をちょっと曲げて、背後から覗き込むように裏側も確認。よしよし。
コートが膝上まであるから、ぱっと見どんな服装なのか分からない。淡いピンクのコートでフェミニンな雰囲気にしてみたんだけどどうだろ……。
髪はサイドからねじってハーフアップ。毛先はちょっぴり巻いてみた。
(瑛介さん、こういうの好きかな~)
ドキドキとむず痒いのとでなんか居ても立ってもいられない感じ。うおーっ!って走り回ってた方が楽だよう……気分的に。
バッグを持つ手を替えてみたり、後ろに回したり前に戻したり、体重かける足を替えてみたり。
約束の時刻十分前に、瑛介さんは現れた。
「よう」
軽く片手を上げて歩み寄って来る瑛介さん、今日は綿のシャツの上にアイボリーのジャケット、ボトムスはブラックデニムで革のショートブーツと綺麗めカジュアルですね。
「リアルではお久しぶりですっ」
「おー。夏も終わったもんな」
気負った素振りもなく笑いかけられて、一人テンパってるのが恥ずかしい。
昨夜もゲーム内では会ってるし、会話もしてるんだけどっ。やっぱりホンモノと面と向かっちゃうと緊張するっていうか。
「ん」
って、前みたいに手を差し出されて、そうっと左手を絡ませる。それで良し、みたいに笑みを向けられるから、ぶわって顔に血が集まっちゃってる気がする。
「まずはランチからな」
ゆっくり歩きだすのに合わせて、隣に並ぶ。
今日は、引っ張られている感じもなくて、俺が合わせるからって約束を思い出した。
(なんかこそばゆい……)
少し歩くらしいけど、歩調はのんびりのまま。温かな手のひらに包まれていると少しずつ鼓動も落ち着いてきた。
ホッと安心していると、足を止めた瑛介さんがくるりと正面に立って、腰に腕を回して少し引かれた。
「ほぇっ?」
胸に顔をぶつけそうになり、咄嗟にバッグごと抱き込んでクッションに。
(えっ!? 何!??)
そんな私たちのすぐそばをシャーッと結構なスピードで通り過ぎていく自転車の音が聞こえた。
(あ、気付かなかった)
「あぶねーな」
ボソッと毒づく瑛介さんだったけど、すぐに離れて顔を覗き込んできた。
「すまん、足捻らなかったか?」
「だ、大丈夫」
コクコクと頷くと、「そか」って優しい笑みが。
途端に鼓動がぶり返してきたのは、仕方ないと思う。




