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逃がさないよ?  作者: 亨珈
大人のハロウィン目指してみました!
15/19

今度こそ遅刻しません!

 十月の最終日、今年はなんと土曜日。これはもうデートしろってことでしょ! 

 なーんてね、息巻いてますけど心臓はバックンバックン息もちょっと苦しい。頑張って履いてきたピンヒールは八センチですからね、絶対に走りませんよ!

 ちなみに今回は靴擦れ防止の踵と爪先クッション装備済みデス。


(大人になるって、いっぱい努力が必要だなぁ)


 からりと晴れた空には、うろこ雲がブワーッと広がってる。日中はまだ二十度を上回る日もあって、出歩いている人の格好も夏寄りの人と冬寄りの人と差が激しい。


(流石にダウンコートは暑くない……?)


 駅ビルを背にして道行く人を眺めて、ハンドバッグを握り直す。


(今日は早めに着いて髪も直したし)


 そわそわとスプリングコートを払って、足元をチェック。黒ストッキング、伝線してないよね。脚をちょっと曲げて、背後から覗き込むように裏側も確認。よしよし。

 コートが膝上まであるから、ぱっと見どんな服装なのか分からない。淡いピンクのコートでフェミニンな雰囲気にしてみたんだけどどうだろ……。

 髪はサイドからねじってハーフアップ。毛先はちょっぴり巻いてみた。


(瑛介さん、こういうの好きかな~)


 ドキドキとむず痒いのとでなんか居ても立ってもいられない感じ。うおーっ!って走り回ってた方が楽だよう……気分的に。

 バッグを持つ手を替えてみたり、後ろに回したり前に戻したり、体重かける足を替えてみたり。


 約束の時刻十分前に、瑛介さんは現れた。


「よう」


 軽く片手を上げて歩み寄って来る瑛介さん、今日は綿のシャツの上にアイボリーのジャケット、ボトムスはブラックデニムで革のショートブーツと綺麗めカジュアルですね。


「リアルではお久しぶりですっ」

「おー。夏も終わったもんな」


 気負った素振りもなく笑いかけられて、一人テンパってるのが恥ずかしい。

 昨夜もゲーム内では会ってるし、会話もしてるんだけどっ。やっぱりホンモノと面と向かっちゃうと緊張するっていうか。


「ん」


 って、前みたいに手を差し出されて、そうっと左手を絡ませる。それで良し、みたいに笑みを向けられるから、ぶわって顔に血が集まっちゃってる気がする。


「まずはランチからな」


 ゆっくり歩きだすのに合わせて、隣に並ぶ。

 今日は、引っ張られている感じもなくて、俺が合わせるからって約束を思い出した。


(なんかこそばゆい……)


 少し歩くらしいけど、歩調はのんびりのまま。温かな手のひらに包まれていると少しずつ鼓動も落ち着いてきた。

 ホッと安心していると、足を止めた瑛介さんがくるりと正面に立って、腰に腕を回して少し引かれた。


「ほぇっ?」


 胸に顔をぶつけそうになり、咄嗟にバッグごと抱き込んでクッションに。


(えっ!? 何!??)


 そんな私たちのすぐそばをシャーッと結構なスピードで通り過ぎていく自転車の音が聞こえた。


(あ、気付かなかった)


「あぶねーな」


 ボソッと毒づく瑛介さんだったけど、すぐに離れて顔を覗き込んできた。


「すまん、足捻らなかったか?」

「だ、大丈夫」


 コクコクと頷くと、「そか」って優しい笑みが。

 途端に鼓動がぶり返してきたのは、仕方ないと思う。


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