押し出しなんてあり!?
最後の強壮剤を飲み干し、私は木陰から顔を出してすぐに引っ込めてみる。チュイン、と木肌を削って弾丸が飛んでいく。狙いは若干上に逸れていたけど、次は修正してくるだろう。
(でも)
ぐいと握り直したミニガンを晒して、起動。
「行きますっ」
一発くらいは喰らう覚悟で、前に進む。現実なら到底持てるはずのないデカブツだけを頼りに、先刻飛んできた弾から逆算して割り出した傾斜に向かって。
いま私に出せる、最高速度で。
敵からの発射音と同時に、グリップを握る手に力を込めた。もう後戻りは出来ない。
ボウっと銃口が火を吹き、連続して奏でられる硬質な音が地面を抉り、射線の通った敵二人を蜂の巣にしていく。
エリア収縮が始まったのを確認し、私はそのまま左方向へと銃口を向けた。
伏せていた敵が、巧みに避けながら私の右に回り込んでくる。アサルトライフルから放たれる弾丸を僅かなステップで躱しながら、その身体を捉えようと懸命に銃身を支える。
瞬間、相手が空撃ちした気がした。
(弾切れ? なら、チャンス!)
こっちも残り僅かと知りながら、詰め寄る。
イアさんと同じく黒づくめの敵が、銃を放して背後に手を回したのが見えた。
(武器変更は、間に合わない!)
正面から、最後の数発を撃ち込む。
カンカンカン! 黒い物体に阻まれて、弾は左右に跳ね返された。
「え」
キュルキュルという尻すぼみな音と共に、立ち昇る硝煙が薄れていく。
束の間あっけに取られていた私の前には、フライパンを振りかぶった敵が迫っていた。
「わわわっ」
反射的に、ミニガンの銃身でそれを受け止める。
銃よりダメージは少ないとはいえ、バールやナイフ、そして勿論フライパンも立派な武器だ。ミニガンを振り回しても余裕で避けられるだろうし、ここは盾にするしかない。
(これはヤバい。あとはもう、先に収束地点に辿り着くしか)
腰を落として、ジリジリと移動していく。相手も同じ速度で収束地点に向かってる。
互いに目が離せない。一瞬でも防御が遅れたら殴られる。
バイザーの端で、最後のカウントダウンが始まった。
回を重ねるごとにスピードと威力を増した電磁波が二人を包囲し、その円を狭めてくる。
最終的に点になるまで、あと数秒。
その時、敵が私に向かって跳びかかってきた。
中腰で構えた銃身で、頭をガードする。ガン、とその銃身を踏み台にして相手は真上に飛び上がった。
(う、え)
つい顔で追いかけて、しまったと思った時には遅かった。落下しながらのフルスイングが側頭部に叩き込まれる。
よろけた私は、電磁波の中に倒れ込んだ。
「いだだだだっ」
液晶に表示される『二位』を目にした途端、私は立ち上がってしまっていた。
「にゃーっ! 押し出しで負けるなんてー!」
ガッデム!と戦慄いていると、隣から腕を掴まれる。
「マメ! Sit down!」
(だからなんで英語ー!?)
がるるる、と唸りながら、私はチェアに腰を落としたんだった。




