表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃がさないよ?  作者: 亨珈
もっと聴かせて、あなたの声
1/19

突っ込みます!

 パルスに追われたチームが、斜面下で二の足を踏んでいる。ここに辿り着くまでに、仲間二人が銃弾に倒れた。年上らしき男性と、いたいけな女子高生の私がどうにか生き残っている状況だ。


 私と彼のいるこの丘は、家屋を入れても頂上が五十メートル四方もない。黒ずくめの彼が巧みに射線を切りつつも眼下にパラベラム弾を撒くのを背にして、私は二階建ての小さな建物内を索敵した。

 次の収縮で、反対側の崖下に移動しなければならない。ゴーグルのスクリーンに表示されたマップを確認して、二階の窓からそちらを覗き見る。

 こちらと同程度の二階建ての建物と、こちらから見て左にもう一つ平屋の建物がある。平屋に一人、それと二階に一人視認。


 モニターの隅に、チームメイトの男が次々と確殺していくログが流れていく。圧倒的有利な地形からの虐殺だ。勿論、だからといって油断していればこちらがやられることもあるわけだけれど、今日初めて戦場を共にしている彼は、ここまでも卒のない動きをしていた。味方でいる間は頼もしい。


 窓際に身を隠しつつ、ちらちらと確認する。下の建物までは百メートルほど。

 なんとかなるか。


 ――いや、なんとか、する。


 パリンと窓ガラスが割れて、平屋の窓から牽制が入る。米製の小口径自動小銃か。

 私はウッドストックを右肩で支えつつ、スコープ越しに先ほど撃ってきた相手に向けて引き金を引く。既に五発装填済みなので、コッキングしながら目標を変えて今度は右側の二階に向けて撃ち込む。平屋の相手からは手ごたえを感じたが、スクリーンに何も出ないあたり致命傷にはならなかったようだ。


 二階の相手は外した。でも影が移動したので、そちらへと銃口を移動させながら続けざまに三発。一発かすった。すかさず手榴弾のピンを抜いて軌道を予測。

 いち、にい、さん。思い切り投擲し、踵を返して階段を駆け下りる。

 あっちからは死角になっているから、弾込めしていると思ってくれるとベスト。


「Follow me」


 マイクに向かって告げると「Got it」と低い声が返ってくる。


 ――いい声だなぁ。


 耳元で、本当に囁かれているようで、胸が高鳴る。

 そんな場合じゃないんだけど。


  邪魔な長銃は既に放ってきた。辿り着いた建物に侵入しながら構えたのは毎分千二百発の発射速度を誇る近距離に特化した銃だ。


 二階に到着したとき、缶が転がる音がした。エネルギー剤を服用したところと察知した瞬間に、開いたままのドアから銃身を覗かせて弾をばらまく。向こうからもショットガンで撃ち返されたが、二発外したのを見てそのまま前進して確実にボディに当てていく。蜂の巣になった相手がくずおれるのとキルログが表示されたのは同時。まだびくんびくんとのたうつ相手から体を反転させて、また階段を駆け下りた。


 どうやら索敵をすませたらしき彼が、こちらの建物に身を隠しながら、最後の一人と応戦中だ。お陰で相手の位置がもろばれだ。

 私は彼の背後から、左側に向けて発煙筒を投げると、煙が拡散し始めるのを待って、右から回りこむように平屋に向かう。


 このまま彼が倒してくれれば一番なんだけど、長引かせたくない。次の安全地帯がどうなるかによって、一方的にこちらが不利になるかもしれない。

 二人いるのは判っているだろうけれど、スモークで視線を誘導した上、彼の牽制が効いている。最後の手榴弾のピンを抜くと、ぎりぎりまで待ってから、敵のいる位置に向けて窓から投げこんだ。


 どうん、と落下と同時に爆発。

 やったぁとつい口を突いてしまった一瞬後に、『you win』の文字がスクリーンに浮かぶ。

 野良スクアッドで、初めての優勝だ。

 やりぃ、と拳を握りしめる。


「Good game」

「Thanks.GG」


 彼の声がして、慌てて返答した。


 ――そうだった、まだボイチャ繋がってたんだ。


 とはいえ、試合が終了したらじきにチームは自動解散になる。

 得意ではない英語を駆使してなんとか意思疎通を図っていた私は、気が緩んで椅子の背もたれに倒れるように身を預けた。その時。


「おつかれさま」

「え?」


 ま、の途中でぶつんと通信が切れて、私は茫然と液晶を見つめてしまった。


「え……? 日本語、だったよね」


 ――しかも、なんかどこかで聞いたような。


「ええー?」


  脳内をクエスチョンマークでいっぱいにしながら、いつの間にかロビーに戻っていた画面の前で、私は首をひねり続けたんだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ