(転生者が)いっぱいいる!!
出オチ感ハンパないネタが浮かんでしまったので投下して昇華。
あ、死んだ。
崩壊した足場と一緒に落ちながら、俺はそんな事を思った。
来る、来ると言われ続けて数十年、そんな気配のなかった大地震が、前触れなく起きた。
最も被害が大きかったのは、起きたら大惨事になると叫ばれていた地域ではなく、震源地から数十キロメートル離れたビジネス街。
発端となった中部地方東側に位置する太平洋沖のプレート境界型地震から内陸型地震……いわゆる首都直下型地震が誘発されたためで、サラリーマンやアルバイターの多くが犠牲となった。
そこから程近い場所にある繁華街も例外ではなく、修学旅行に訪れていた中高生の一部もまた、死傷者に数えられた。
上下左右の分からない薄い靄がかった空間で目を覚ますと、死んだ時の状況が俯瞰図のように頭の中に浮かぶ。
昼過ぎに起きた地震は、国の行政機関を狙いすましでもしたかのようにぶち壊した。
世界有数の乗降客数を誇る某ダンジョン駅で班のみんなと迂闊にもはぐれて彷徨っていた俺は、それに巻き込まれた形だ。
「は? ど、どういうこと? っていうか、ここどこ?」
困惑する俺の目の前に、小さな光の塊がふわりふわり、寄ってくる。
文字、とも音、ともつかない、呼びかけが、五感いっぱいにわあんと響く。
思わず耳を抑えて目を閉じると、それは短い時間で調整を済ませて、意味を持つ声になった。
『コノ度ハ、ゴ愁傷サマデス』
「え、あ、はい、こちらこそ(?) ……え、誰?」
『私ハ、アナタガタノ言ウ、天使ニ近イモノ』
「それってあの、羽根の生えた赤ちゃんみたいな?」
粒子を散らしながら飛ぶ光の塊は、俺の疑問に、首を傾げるかのような動作で軌道を変える。
『ヨリ正確ニハ、世界ヲ形作ル“秩序”ノ一ツデス』
「は、はあ……」
分かったような、分からないような。
それで、そんな人知を超えた存在が、一体何の用があって俺にコンタクトをとってきたのだろうか。
『我々ハ、宇宙全体ノ監視・統治ヲ行ッテオリマス。
地球ハ、宇宙規模カラスレバ、ド田舎ニアル、云ワバ ポツント一軒家』
おい待て天使。
君テレビ好きだろ。っていうか実はそれ贔屓番組だろ。
『人間ニ限ラズ、知的生命体トイウモノハ、
様々ナ時、様々ナ場所デ生ジテハ消エル、宇宙ノ泡沫。
“秩序”デアル我々ノ関心ヲ引クモノデハ、アリマセン』
嘘くさいです。
『我々ハ依怙贔屓シマセン』
重ねて言うところが更に嘘くさいです。
『シマセンッテバ』
あっ、これ認めないと進まないやつだ。
『アナタノ死ヌ原因トナッタ災害ハ、
地球……引イテハ天ノ川銀河ノ軌道ニ変化ヲ生ジサセ、
ソレガ局部銀河群ノ膨張ヲ僅カナガラ促進サセ、
近傍ニアル乙女座銀河団ニ影響ヲ及ボシ……。
長ジテ、宇宙ノ歪ミを解消サセルニ至リマシタ』
情報量が膨大な上に壮大過ぎて理解が追い付かないぞ!?
まあ、だけど、要するに俺はあそこで死ぬ運命で、それは俺がどう行動したところで変わらなかったって事?
『過去ハ変更不可能。“アカシックレコード”ニ刻マレテオリマスユエ』
なるほど。じゃあ、未来は?
『未来ハ全テ白紙』
ふうん。もしかしたら、タラレバになっちゃうけど、行き先如何で死なずに済んだ可能性もあったって訳か。
まだやり残した未練あるし、死なない未来に変えられれば良かったなあ。
『未来ハ変エル、デハナク、創造スル、デス』
なるほどね。
っていうかさ、教えてもらってあれだけど、それ伝えられて俺はどうすればいいの?
輪廻とか信じてないし、ここは天国でもなさそうだけど。
まず、君に連れてこられたのかどうかすら分からないけど、どうしてここにいるのかな。
『“秩序”デアリ宇宙全体ノ監視・統治ヲ行ッテイル我々ハ、依怙贔屓シマセン』
うん、そうだね、さっき聞いたよ。
『デモソレガ、建前ダッタラ?』
うん?
『シャボン玉ッテ綺麗デスヨネ』
え、唐突に話変えてきた?
『直グニ消エテシマウノハ、勿体ナイト思イマセンカ?』
そりゃ、まあ。
長持ちさせるのに糊を使うとか、弱めに吹くとか、他にも研究だってされてるらしいし。
『ツマリ、ソウイウ……ショウユー事ナノデス』
もう、君、絶対日本のテレビ大好きだろ!
『アーアー聞コエマセーン。
ソレデハ、サヨウナラ、泡沫ノ一ツ』
はい???
死んでどうなるとか、小さな発光体の趣味嗜好とか、事態が何も納得できないまま、意識はブラックアウト。
また目を開けたら、俺は何と赤子になっていた。
地球と同じくらいの規模の星の、魔物がいて魔法もある世界の、とある新興国の貴族の嫡男に。
大都市の中心部、行政機関とビジネス街や最高学府その他諸々を崩壊させた震災の被害者が大量に、肩摩轂撃的な感覚で転生者として大量に送り込まれたため、なんの因果かエリートばかり勢揃いしてしまい……。
この新興国での暮らしは、何気なく非常に快適だ。
政治的・経済的にも貴族の肩書に恥じないエリート精神溢れる両親の許、悠々自適な生活を送っていた俺をちょっとした不幸が見舞う。
なにせ――
許嫁候補その1:同門貴族の娘、カズハ
「ワシにはなあー! 孫がいてなあー!
これがまた目に入れても痛くないほどで……ウゥッ(泣)」
……引退した元防衛省幹部!
許嫁候補その2:礼儀作法の講師(武家のオジサマ)の娘、ミクニ
「いやあ、陛下とは幼少の砌より友誼を結んでいただいていてね。
そんな訳だから今のぼくでも君にとって何かの役には立つと思うよ?」
……元学習院のなんかやんごとなき御方のご学友!
許嫁候補その3:叩き上げ官僚の娘、オフィーリア
「国を変えたいと狭き門を叩き、懸命に政界の崖を昇り……気づけば異世界ってやつか!
ハッハッハ! 再スタート大いに結構だ! こっちでも頑張るぞォ! なァ!」
……元国会議員(多分内閣)!
許嫁候補その4:大商人の娘、ミリア
「ウィー↑↑ッス! 今日はぁ、なんとぉ!?
かの有名な〇〇さんの邸宅に! やって参りましたァ~↑↑↑」
……〇ーチ。ーバ―!
許嫁候補その5:学園理事長の孫娘、アニェーゼ
「ワタシ、アニェーゼ、イイマスネ。ダケドネ、本当ハネ、グエンデス」
……多分コンビニ辺りで働いてた外国人!
「お母さん、俺、もっと普通の子と友達になりたい」
「あらあら……でもお母さんね、前世……あの、違うわ?
お友達がね、庶民の方と結婚して……いえ、差別じゃないわよ?
でも、家同士のギャップっていうのかしら? 軋轢が凄くて……
ううん、何でもないの。何でもないけど、お見合いが良いと思うの」
何故か転生者が自分だけだと思い込んだ母親(言動が過剰に女らしさを意識しすぎてて逆にオカマっぽい)の口から語られるドロドロな話題!
余りの悲惨な生臭さに耐えきれず家から飛び出した街で出会った可憐な少女も中身は恐らくおっさんだ! しかも恐らくバーコードだ!
「ええ……ケットシーって……ええ……?
犬……の着ぐるみ? なら演じた事あるんだけど……」
とかむにゃむにゃ呟く二足歩行の可愛い猫ちゃん(小学生低学年サイズ)がイケオジ俳優さんだなんて思いたくないんだけど!
そんな!
ホワイトカラーと肉体労働系アルバイターの転生者にまみれた!!
どこか加齢臭漂う脂っこい世界で!!
俺は! 冒険者になって!!
「……国外逃亡してやるぅーッ!!!」
「あなたぁ~、息子が反抗期よぉ~」
「ファーwww思春期ktkrwwwww」
……続かない!
でも評価は欲しい!
地に足を付けて賢く立ち回っているので主人公にバレていないだけで、(元)女性の転生者もそこら中にいます。
彼女らは尻尾出すような下手をこかないのです。