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遊柔排球  作者: なり
7/7

悪女

「元村さん…」


士は飽きれていた。

無理な配球に嫌気がさしたのだろうか。


「勝つ為には、安定も確実性も捨てなければならないという事ですか…分かりました。」


ぶつぶつと独り言を言ってはいるが、

やる気は十分にあるみたいだ。


3-2


こちら側がリードする展開。

ここから一気に点を取り勝ちたいところ。


サーブ、俺。

中寺さんみたく高くあげることも、士みたいにコースを狙うこともできない。

上からの安定サーブ。

とりあえずコートに入ればいい。


打ったボールは見事コートに入る。


中寺さんはオーバーハンドで士にボールを返す。


士が1回目に触れば最後も士。

男の俺よりは攻撃力的には低くなる。


まぁボール返すのは司の方が上手いとは思うけど。


士はボールを上手く上げる。


相手コートに背を向けていたが、

振り返りボールを強打した。


ボールは相手コートに叩きつけられる。


「わお!大胆!」


中寺さんは驚いていた。


「元村さん!!!」


「は、はいっ!」


また要らぬことをしたから怒ってる?


「…ナイスです。」


帰ってきたのは鼓舞する一言。


だったらそんな大きな声で呼ばないでください。


4-2


マッチポイント。

これを取れば勝ち。


サーブは続けて俺。


安定な事をしても点は取れきれないことがこの2本で分かった。


最後に安定を崩せるところ、それはサーブ。


参考にするのは寧捻さんがいいかな。


ボールは縦回転をかけて上げる。

そしてラインを超えないように踏み切り、強打する!


振り返りながら頭でイメージした通りに打つ。

打ったところは少しボールの芯から外れたが、ボールはコートに向かう。


「…!」


中寺さんの顔はいつもより真面目だった。


コート右奥ギリギリに落ちようとする。

軌道的にはアウト。

しかしボールは縦回転がかかっている。


「ア……ウトッ!」


ボールはアウトラインギリギリに落ちる。

こちら側からはアウトにも取れるしインにも取れる。


素人の俺らよりかは中寺さんに判定は任せよう。


「んんん〜〜!!!インッッッ!!!」


ボールは入っていたようだ。


5-2


勝利したのは元村・八城ペアだった。


「やった…やったぁぁ〜〜!!!」


喜びの声を上げたのは士だった。


居場所を守ることができた。

嬉しいというか、生き延びることができたというか。


「いや〜負けた!負けた!2人ともやっぱり強いんだね〜。」


ボールを拾い、中寺さんが歩み寄ってくる。


「いえ、2対1ですので…勝てて当たり前というか、勝たないといけないというか…」


「謙遜しないでよ!わたしに取られないよういろいろ工夫してたじゃん!わたし知ってるよー?」


何もかも見透かされてる気分。


しかしこれで、中寺さんとお付き合いをすることができる。

あー、なんていい気分なのだ。

俺にもついに春が来たか。

士には悪いが、俺は中寺さん派だ。

士も十分に可愛い。

しかし、ビジュアル良し、天真爛漫な明るさ良し、誰にでも気さくに話しかけるフレンドリーな人、中寺さんには負ける。


さて、本題を切り出そう。


「中寺さん。」


「はい!なんでしょう!」


「勝負に勝てば付き合っていただけると。」


「また今度ね!」


また今度ね?


「という事で!どうですかこの2人はーーー!合格ですかねーーー!」


中寺さんは2階席に呼びかけている。


そこには黒服の大人たちがいた。

黒服たちは何も言わずにその場を立ち去っていった。


うんうんと頷く中寺さん。


どういう事だろう…


ま、まさか!中寺さんはどこかの御令嬢で彼氏の俺を見定める為に?!


「委員会の人たちは認めてくれたみたいだね。これで入部できるね!」


「入部?」


士の頭にははてなマークが浮かんでいる。

様に見える。


「古都波学園はどの運動部も強豪校なんだよね。見込みのない人を運動部に入れないように部活動推進委員会ってのがあるのよ。それに認められない限り、部長が認めたって入部はできないの。」


「いや、俺たち入部しないっすよ!」


「コート借りることができるのはね。部活動に入っている人、もしくは今回の様に適正試験を受ける人。それ以外の人が使うと罰則で、退学になっちなうかも!なになに!2人ともわたしを退学にさせたいの?!本も廃棄申請出したままだし、もう元村君とも会えないの?!うえーーん!」


中寺さんの掌で転がされている。

この人は負けても、勝っても俺たちを部に入れるつもりだったんだ。


「でも前に島さんたちと遊んでたのは…」


「彼らもわたしのおかげで入部できた人たちなのである!」


被害者は他にもいた様だ。


「士、逃げよう。」


「元村さん。諦めましょう。」


こいつ。本の事しか考えてねぇ。


いや、帰ろうとしている黒服たちを呼び止めればいいのか!

そうと決まれば出口へダッシュ!


「あのーー!すいませーーーーん!俺、部活や…フゴゴ….!」


言葉の途中で口を押さえられた。

その手は小さく、少し冷たかった。


「元村さん…軽はずみに辞めるなんて言ったらダメですよ…進学や就職ができなくなります…」


「なんだね。何か用かね。」


黒服はギロリと睨む。


「あ…部活……やります!張り切って!」


「精進したまえ。くれぐれも学園の名を汚さないように。」


黒服は帰っていた。


「進学できないとか、どゆこと?」


「さっきも言ってましたけど、学園の名を汚さない為に、何かを挫折する様な学生には容赦ないんです。」


「学園と挫折、何か関係ある?」


「将来、仕事を辞めたり、進学先で中退したりいろいろとありますが、この学園は卒業生にそんな学生が出ない様、卒業する前に退学させるんです。噂ですけど。」


士は淡々と説明した。


本の為だけではなかった。

将来の為にも部に入る決断をしていた。


と言うことは…

こんな人生かかっているようなことを半分強制で入部させた中寺さん…


彼女は俺が思っている程、

優しい人間ではなかった様だ。


体育館近くの桜は、すでに緑一色に染まっていた。

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