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遊柔排球  作者: なり
6/7

信頼


試合が始まった。

2対1というハンデ付き。

元村、八城ペア対中寺先輩。


これは勝たなければならない。

ルール的にも。


ソフトバレーはまずサーブから始まる。

サーブは譲ってくれた。


まだ初心者だからね。


そうは言っていたが、サーブも中々難しい。

ただボールを打つというだけかもしれないが、強いボールを打たなければ取られてしまう。せっかくの攻撃が意味をなくしてしまう。


とは言え初心者。

入れば良し。


俺の上から打つ入っとけサーブから試合が始まった。


中寺さんは簡単にボールを返してくる。


ルール上は3回で返せばいいらしいが、今回に関しては特別ルール。

中寺さんは1回。俺らは3回。


コート奥、ギリギリに返してきていた。


1人とは言え侮れない。


そこは守備範囲内。

俺はボールを上げる。

後は士があげてくれるかどうか。


士はボールの落下地点に素早く移動し、綺麗にあげて見せる。


腕を使うのではなく、両の手のひらで。


授業で習ったことがある。

オーバーハンドパス。トス?


ボールは助走の入った俺の方向へ上がった。


中寺さんのいない方向に打てばいい。

右に位置取っているから今は左。


ボールを打つと中寺さんはボールの正面に移動していた。


ネットの前ギリギリ。

ボールは自陣へ返り地面に落ちた。


俺もそれなりに反応はいい方だと思うが、

中寺さんも負けてはいない。


「バレバレだよー!」


明るい声が響き渡る。


「バレバレですか…」


「目線、体の向き、腕の振り方、

どれも正直だね!スパイクは上手!すごい!」


一瞬の攻防の中、分析をしっかりとこなしていた。

そして最後には褒めてくれた。


「よくそんなに見えますね。俺だったら感覚で飛びついちゃってますよ。」


「あっははー!ま!経験の差だよね!」


元気が良い。


「先輩が強いことは分かりました。」


冷静な士。

試合は熱くなるモノだが、士に熱量を感じない。

あの時の本への熱量はどこへやら。


0-1

中寺さんのリード。


次は中寺さんのサーブから始まる。


ボールを宙に上げ、まるでスパイクの様なサーブが士へ向かう。


1回目が士の場合、3回目も士。

なるほど考えて行動している。


士はボールを上げた。

俺よりも上手いよね。レシーブというやつ。


負けじとトスをする。

もちろん対抗してオーバー。


士はボールを打つ。と思わせコートの前へ落とした。


中寺さんもさすがに取ることはできなかった。


熱量が見えないからこそ、相手に読まれにくい。

体の向きや、腕の振り方、表情も分かりにくい。


「これで同点。すぐに追い抜きます。本のため。元村さんにも点とってもらわない困ります。」


言葉は冷たかった。

しかし目は燃えていた。


熱くなっているんだ。大好きな本のために。

しかしプレイは冷静にこなす。


クールだ。女子だがカッコよく見えてきた。


1-1


士のサーブ。

下打、アンダーサーブ?


ボールはコート右奥ギリギリに落ちようとする。


「いいところ狙う!」


中寺さんは嬉しそうにボールを返す。


「元村さん!」


士の声で自分が1回目に行くと言うことに気付かされる。


ボールは綺麗に俺の出番まで回って来た。


普通に打つだけでは中寺さんには勝てない。

前に落とすのはさっき司がやったから…


右手で打とうとしていたボールをわざと空振り、左手で打ってみせた。


中寺さんは驚き、一歩も動いてはいなかった。


前回の寧捻さんたちと試合した時も右手で打っていた。

そこまでも予測の素材になっているのであれば、新しい素材を提供すればいい。

少しの動揺でも隙にはなる。


「いやー、驚いちゃったよ…八一くん左でも打てるんだ。」


「何となく右手で打ってましたけど、左は反則とかありますかね…」


前回のオーバーネットの事もある。


「いやいや!体のどこで返してもバレーはOK!右で合わなかった時に、咄嗟に左で返す人もいるよ!でも八一くんはまぐれでも、反射でもなかったよね!」


点を決めたのはあくまでこちらのチーム。

しかし、作戦は見事に見破られた。

上手くいったはずなのに、何か嫌な感じだ。

次からこの手は決まりにくいだろう。


2-1


続けて士のサーブ。

次は左奥を狙う。


「じゃあこれならどう…かな!!!」


中寺さんはボールを高く上げて返す。


ここの体育館は広い。故に天井も高い。

柔らかいボールでもここまで高く上げる事ができるのか。そう言う高さ。


ボールは士に向かう。


レシーブは士の方が上手い。

緩やかなこのボールは任せておいてもいいだろう。


落下地点に入りオーバーハンドで取ろうとするが、ボールは手を弾き、地面へと落ちた。


「眩しい…」


士は眉間にシワを寄せる。


この広さの室内を満遍なく照らすには数多くの照明が必要となる。


高く上がったボールを追うには、長時間天井を見る事になる。

だからこそ照明も目に入る。


「さっきのお返しだよー!つかちゃーん!」


この人は可愛い顔して、怖いんだから。


士も可愛らしい顔が台無し。

なんかすごい怖い顔してる。


ここは何か声をかけてあげなければ。


「士、上手くあげなくていいよ。ボールが高く上がればいいから。」


「上手くあげないと、元村さんが私にまで繋いでくれないじゃないですか。」


信用されていなかった。


「…まぁ、どうにかして士まで上げるからさ。あんま怖い顔するなよ!」


「分かりました。」


2-2


「もういっぽーーーーーーっん!」


同じ軌道でボールが士に迫る。


士は眉間にシワを寄せ眩しそうにしている。


「上がればいい!」


俺が声をかけると手のひらではなく、腕でボールを上げた。


ボールは俺には返らずあらぬ方向へ飛んでいく。


「元村さん!」


上がれば追いつける。


コート外に飛んでいくボールを瞬発力で反応。後は上手く上げる事。


「八一くんすごい…ボールが上がる前に動き出した…」


「士!打てよ!」


「な、何を…!」


「ボールだよっ!」


相手コートは背の方向。

振り向いて手であげてたら中寺さんにまた取られるか?

だったら…


士の様に腕でボールを上げる。

腕はフルスイング。しかしボールは士が打つ場所へ。


攻撃の様なスピードでボールは士ヘ向かう。


「…!」


士は上手く打ち、相手コートに叩きつけた。


「こ、こんなの!上手く打てません!」


士は少し怒り気味で声を張る。


「でも、この速さがあれば中寺さんには取られない。」


「でも…」


「士は上手く打ってくれたじゃないか。

さ、後2点だ。」


3-2


試合は後半を迎える。

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