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遊柔排球  作者: なり
4/7

因循

終えてみれば見事完敗。


寧捻先輩のボールも上げられたのはたかが1本。

それも七三先輩がカバーしてくれた1本。


カバーね。

こうやって助け合える仲間が居れば変わっていたのかもしれないな。



評価は周りより高かった。

そして評価の高い奴はそこが基準になる。

それ以上の活躍をしなければ、現状維持か下がるだけ。


そこからはよくある展開。

勝手に期待して勝手に落胆。


俺は俺が気持ちいいプレイをしていた。

そのプレーに周りは何も言わなかった。

俺より上手い奴がいなかったからだ。


しかし、次期にチームとして邪魔者扱いされ始める。

チームスポーツは協力することが大切。そう言う事らしい。


チーム方針に合わせないやつはどうなると思う?

練習からは外され、個人で練習する場所すら与えてもらえない。

それでも技術を上回る奴はほとんど現れなかった。

その為、試合には参加させられる。

得点すれば当然だと言わんばかりの態度。

失敗には叱責。

敗北すれば俺だけのせいにもされた。


そして個人としての技量は底をつき、スタメンからは外されることになった。



またこの記憶だ。

思い出したくない記憶。


俺が抜けてからのチームというもの。

勝てる試合も勝てなくなり、弱小校と成り下がっていた…らしい。


また影で俺は責められていたのだろうか。



「しかし素人2人もいるのに、結構点とられちゃったなー!」


素人って言葉、意外と刺さる人には刺さりますよ?


「まぁ?内田さんいるんだししゃーないっしょ?」


「確かに!でも八一くんの咄嗟の動きも凄かったよね!ねねなんて得意のサーブ取られてたもん!」


「はぁ〜〜???練習で本気出すわけねぇじゃん!」


「またまた〜!」


寧捻さんは苛立ちながら中寺さんに向けて近くのボールを投げた。

綺麗に宙に上げて見せる中寺さん。


向かいコートではプチ反省会が開かれている中、こちらのコートは静まり返っていた。


「すまない…2人を勝たせてやることができなかった…」


七三先輩が静かに反省する。


「あの時、もう少し早く動いていれば…あの時、もう少し簡潔に伝えられていたのでは…あの時の上げ方はもう少し高く…」


あの時…どの時だろう。


七三先輩は徐々に暗くなっていく。

試合中の明るさがまるで嘘のようだ。


「ま〜たなってらぁ。」


「うっちー先輩負けるといつもこうなるから気にしないでね。」


気にしないでと言われてもここまで落差があると気になって仕方がない。


窓の外は暗く染まり始めていた。

簡単な試合は終わり高岩さんと島さんは帰っていく。


で、なぜ俺は残されているのであろうか。


「で、なぜ俺は残されているのでしょうか。」


大事なことなので。


「単刀直入に物申す!ソフトバレー部に入ってくれるかなーーー!!!???」


良くないとも。

流れで返事すると思っているのか。


それにしても単刀が直入してきた。

こうぐさっと。


「いや、俺は運動部に入らないんで…」


「なんで!?あんなに動けるのに!

もったいないよ!…もったいないよ!」


大事なことなので?


「いや、でも俺…」


「何渋ってんだよ。動けるんだからいいじゃんかよぉ。こっちは人数中途半端なんだよなぁ。助けてくれよぉ。なぁ?ほらこの通りっ。」


寧捻先輩は懇願してくる。

但し、頭を下げなければ、手を合わせる訳でもない。言葉だけの身も心も入っていない懇願。実に不快。


「俺のことは放っておいてください…。何言われても入りませんから。」


「みかっちゃんが付き合うって言っても?」


「え?」


少し揺らぐ。


なぜ中寺さんをご指名なのか。

少し気があることに気がついて…?

くそっ、この金髪やりやがる。


「中寺さんはそれでいいんですか…?」


「ん?いいよ?…いいともー!!!」


自問自答になってますよ。


しかし、中寺さんと付き合えるというのは大きい。こんな可愛い人と付き合えると言うのは中々にない…しかし……。


「この案件、一旦持ち帰ります。失礼します…!」


営業マンのようなセリフを残し、

急ぎ足で体育館を後にした。


「あまり無理強いをするものではない。人には人のやりたい事がある。自分たちの勝手で人の人生を決めてはいけない。……2人とも聞いているのか?」


「「はーい。」」



次の日。


チャイムが校内に鳴り響く。

周りは帰り支度をしている。


家に持ち帰った案件だが、

結論を出すことはできなかった。


会社なら先方に大迷惑をかけているところ。

上司に怒られてしまう。


あれから24 時間が経とうとしている。


まだ迷っている。

あの思いをまたするかもしれない。


「あ〜…ああぁぁぁ〜〜……。」


机にうつ伏せ考え込む。


あれほど嫌いになったスポーツと可愛い子と付き合える権利が天秤に掛かっている。


俺のトラウマらしいこの思い出って意外と安いのか?それとも中寺さんというのが希少なのか?トラウマ以上にいいものと言うことなのか?


まぁしかし、実際迷っている。

華の高校1年生。青春してんなぁ。


「あのー…すみません…。」


耳元で優しく声を掛けられる。


伏せていた顔を横にすると、そこには小柄な眼鏡女子がいた。

黒髪ショートの眼鏡女子。

おさげ髪なら図書室の隅で本を黙々と読んでそうな女子が。


「なに?」


しかしこんな子クラスに居たっけ?


「ソフトバレー部に…入りませんか?」


この子もソフトバレー部か。

しかしこの子、昨日いなかったしな。


「入って…くださいますか?」


「迷ってる感じかな…」


「そうですか…」


「君はなんで入ったの?ソフトバレー部。」


体制を立て直して問う。


「あのぉ…」


眼鏡女子は戸惑っていた。


「どした?」


「ぼく、ソフトバレー部に入ってません…」


え?まさかの僕っ子?

いや、そこじゃない。


「ソフトバレー部じゃない?じゃあバレー部とか?」


「いえ、帰宅部です…」


意味が分からん。

ふと眼鏡女子の後ろを見てみると見覚えのある姿がそこにある。


「廊下で『こっち見てー!』ってアイドルうちわ振ってる人から言われたの?」


中寺さん、そこは隠れときましょうよ。

使いを送るなら来ることないでしょうよ。


「そうです…ぼく…あの人に脅されてるんです…!」


速報、大事件です。

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