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遊柔排球  作者: なり
3/7

思考

ダメだ。

中寺さん、高岩さんのサーブ?はなんとか上げられるけど、寧捻さんだけは上げられない。


落ちると思えば、伸びてくる。

伸びると思えば、落ちてくる。

手元に来るボールは、考えている逆の方の軌道になる。


やっぱり読んでいるんだ。

考えを。動きを。


寧捻さんの手のひらで踊らされている。

そう考えるとまた腹が立つ。


なぜ読まれるんだ?

動き方に何か癖があるとか?

いや、俺は寧捻さんがボールを打ってから動いている。

関係ないだろう。


確率?

打つ軌道と俺が考えていることが、たまたま逆になっていて、それが続いているってことか?


今の点数は5-12

12点取られている中で6点は寧捻さんの点。

俺に向けて打ったサーブからの得点。

6/6で逆になることなんてあるのか?


「...くん...もとむらくん...」


現実的に考えよう。

やはり俺の動きに癖があると考えるのが妥当。

何だ...少しの癖...足の引き方...重心の位置...目線...瞬きの回数...口調...口数.......。


「元村君!元村君!」


「はっ!はいっ!」


七三先輩に呼ばれていたことに気がつく。


「先程から呼んでいるのに返事をしない。

何か考え事かい?」


「は、はい...。サーブですか?あれが上手く上げられなくて。特に寧捻さんのサーブ。自分が考えているボールの軌道と逆になるんです。」


心に思っていることを、何も考えず言葉に出してしまった。

上手く伝えられた気がしない。


「ふむふむ。なるほど。」


七三先輩は腕を組み大きく頷く。


「与那嶺君と少し付き合いが長い僕からのアドバイスだ。」


アドバイス?

確かに七三先輩は寧捻さんのサーブを簡単に上げてたな。


「初めは新しいことを見れば戸惑う。

見たこともない、若しくは見たもの以上のことをされたのだから戸惑うのは当たり前だ。

そして処理しきれていない時に、また新しい情報が入る。いずれ処理しきれなくなり、思考は停止してしまうだろう。」


確かに。急激に落ちるサーブで頭がいっぱいになっていた。そこに伸びるサーブも加えられ情報の処理は無茶苦茶になっていただろう。


「逆の軌道になっていたことは何か与那嶺君のやり方があるのだろう。しかし、取れないボールではない。思考が止まれば身体能力は落ちる。逆の軌道とは言え、元村君の身体能力があれば取れるボールだっただろう。

隣のコートまで走って取ったあの動き。

あの動きができるのだから。


要するにだ。考えすぎ、と言うことだよ。」


「考えすぎ...。」


ムキになって寧捻さんに張り合おうと色々試そうとした。考えていた。

それがサーブを取れなかった原因。

そして寧捻さんが狙っていたもの。


「ソフトバレーって意外と初見殺しですね...。」


「はははっ!意外にな!」


七三先輩は高らかに笑った。

そして強く俺の背中を叩いた。


「落ち着けば取れる。また考えすぎていたら忠告してあげようとも。」


自分のポジションに戻りゲームが再開される。

サーブは寧捻さん。

また俺を狙ってくるのだろう。


「もういっちょド素人くんに打っちゃいますか♪」


ボールは軽やかに宙を舞い、綺麗な縦回転をしている。


「よっ♪」


次は伸びる...!


しかし、その予想は見事に打ち砕かれ、ボールは深く沈む軌道になった。


『要するにだ、考えすぎ、と言うことだ。』


七三先輩の言葉が頭をよぎる。


深く息を吐き、何も考えず反射に身を任せる。考えても今は無駄。


身体は自然と前へ行き、ボールは腕に当たっていた。


「チャンスボール♪」


寧捻さんは帰ってくるボールを笑顔で待っていた。


「いいじゃないか!荒削りだがこういうのは大好物だ!」


相手コートに帰りそうになるボールを綺麗に俺の方に上げてくれる。


ボールは綺麗な放物線を描き手の届く丁度いい高さまで来ていた。


数分間のプレーによる経験者3人の動き、ボールの軌道、視覚からの情報が反射の糧となり俺の身体を動かす。


身体は宙に浮いていた。


スパーン!


ボールは相手コートに叩きつけられた。


6-12


自分の意思で動いたわけではない。

反射という自動運転。

しかしボールを上手く打てると少し気持ちがいい。


「良いスパイクではないか!」


うんうんと頷きながら褒めてくれる七三先輩。


「こんなのまぐれですよ。」


「いいんだよ、まぐれだって立派な1点さ。

この1点が試合を大きく動かす時もある。誇らしくしろとは言わないが、少しは喜んでもいいのではないかな!」


「そういうもんすかね...。」


自分の意思で動いたわけではない。

しかし自分の身体で取った1点。

複雑な気持ちになってくる。


「すごーーい!なになに!綺麗なフォームなんですけどっ!」


中寺さんがはしゃいでいる。

かわいい。


「いやいや普通でしょ。あんなの誰でもできるってぇ。」


「そんなことないよ!初心者であそこまでできるって才能あるよきっと!」


「なんでも才能って言えばいいと思ってる?みかっちゃん?」



『あなたには才能があるわ。』



才能ね。

俺には何の才能があるんだ?

反射の才能ですか?

それとなくできる器用貧乏の才能ですか?

初めはいつもそう言われてきた。


あなたには才能がある。

君ならいいところまで行けるよ。


そして、その後の俺に絶望していく。


数ヶ月もすると俺よりできなかった奴らが俺と同じレベルまで上手くなってくる。

そして本当に才能があるやつはそこで開花する。


俺に向けられた期待はいつか違う奴に向けられるようになる。


そして誰も俺を見なくなった。



どうせ誰も期待なんかしてない。



「まだ試合は終わってはいない。

最後まで気を引き締めたまえ。」


七三先輩の一声で場が静まり返る。


試合再開。


6-13


7-14


7-15


試合は呆気なく敗北した。

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