出会い
私立古都波学園。
設立200周年を迎える伝統的な高等学校である。
「あー、なんかねぇかなぁ?」
元村八一、16歳。
高校を入学してから1ヵ月。
どの部活動においても強豪校と言われるこの学園では運動部に入ることは正に地獄を選ぶことと同義。
絶対に運動部には入らない。
入らない、が、中学の時にお遊びテニス部に入っていたが為に何もしないのは、
なんか、こう、身体がむず痒い。
「おい!バレー部が練習試合してるらしいぞ!見に行こうぜ!」
「まじっ!全国トップクラスの試合だろ!?あとマネも可愛いとか!?」
男子生徒が凄まじい勢いで俺の横を駆け抜けて行く。
同じ1年生かな。確かに1度は強豪校の試合見てみたいよね。うん。
かわいいマネージャーか。
いやいや、俺は強豪バレー部の試合が見たい、そう、決してマネージャー目的ではない。
体育館に向かう足取りは妙に軽く感じた。
体育館に響き渡るシューズの甲高い音。
バレーボールが床を叩く重低音。
目の前に広がっていたのは普通の練習試合ではない。
我が校による一方的な試合、蹂躙。
「いやいや、こりゃひでぇな。」
不思議と笑ってしまった。
24-3、バレーは点を取られて当たり前のスポーツ。その中で如何に点を取られないように工夫するか、僅差であっても精神的に追い詰めるとかそういう感じのスポーツだ。
しかし、これはあまりにもバレーではない。
釘付けになってしまったが俺の目的はほかにある。
「えーっと...おっ!へぇ〜...。」
目線の先には可憐な乙女。
少し暗めの茶髪のポニーテール。
顔立ちもなかなか。
試合終了のホイッスルが鳴る。
相手チームはあまりの戦力差に項垂れている。
可哀想に。こういうのが嫌だから本気のスポーツはしたくない。俺がしたいのは遊び感覚のスポーツ。ダイエットに丁度いい感じのそんなやつ。
試合が終わるとマネージャーは隣のコートに移動した。
ん?ネットと四角いコート、バドミントンにしてはネットが高いし、なんだあれ?
そこには2人。笑顔で気楽にボールで遊んでいる制服姿の男子生徒がいた。
柔らかそうなボール。バレーのような動き?ソフト、ソフトバレー?
マネージャーと何か話してる。
ん?マネちゃんボール持ってるけど一緒にやるの?
って言うか、と言うか!?
「おいおい、なんだよ!可愛いマネちゃんとキャッキャウフフしながらスポーツできる場所あるのかよ!」
急いで隣の小さなコートに走る。
「うぉ!あぶねぇだろぉ!」
さっきの男子生徒か。
すまないがこちらには急ぎの用がある!
「悪ぃな!急いでるんで!」
「なんだあいつ。っていうか足はやっ。」
我が校の体育館は2階建てのスーパー馬鹿でかい体育館。2階は観客席、1階はざっとバレーのコートで4コート分。
いやいや、マネちゃんのところまで結構時間かかる!俺もマネちゃんとボール遊びしたい!
「はぁはぁ...。」
ま、間に合った。
「この人はお友達?」
可愛いマネちゃんが不思議そうに俺を見る。
「いや、知らねーけど。」
少しやんちゃそうな男子生徒が俺を見る。
いや、お前に見つめられたくはない。
ボールをつきながら可愛いマネちゃんが寄って来る。
「ま、丁度よかった!3人だと試合にならなかったし、4人で簡単な試合しよっ!」
急展開すぎるけどかわいいから良し。
チーム分けは可愛いマネちゃん、見つめてきた男子生徒のチーム。そして俺とモブ1人。マネちゃんと組みたかった!
「じゃあ、いくよ〜〜!」
下打ち、ボールは緩やかな弧を描く。
かわいい。
「おーけっ!」
モブが上手くボールを上げる。
コート、縦13.4、横6.1、ネットの高さ2mっと。
えぇと。バレーの基本は3回目がアタックだったかな?
仕方ないがモブにかっこいいところを譲るか。
「よっ!」
我ながら完璧。
「でっしゃあぁぁぁ!!!」
モブが上手くボールを打つ。
いや、女子相手に本気!
マネちゃんにボール行くな!
しかし、ボールの先にはマネちゃん。
「え?」
驚いた。いや見惚れてしまった。
その姿勢は綺麗で、素人目にも洗練された動きということが分かった。
強打されたボールは緩やかな弧を描き宙へ返る。
見惚れているうちにボールは俺の頭上近くに来ていた。
はやっ!
でもこの軌道だとコート外、つまりアウト。
力んじゃったのかな?かわいい。
ん?縦回転すごくない?ボール縦に伸びてますけど?
するとボールは急降下した。
バチィーン!
ボールは顔面にクリーンヒットした。
素材はゴム、硬さの痛みではなく、まるでビンタされた時のような痛み。
「いてて...。」
ボールは確かに頭より上だった。
そこからの軌道。普通のバレーではこうはならない。これがソフトバレー...。
「大丈夫?!」
マネちゃんが駆け寄って来る。
かわいい。
「大丈夫...、大丈夫!」
っていうかさ、マネちゃんの打ったボール、
モブの全力より速かったような気がしたんですが?
「次、そっちからサーブ打ってね!」
サーブは交代制なのか?バレーとは少し違うな。
違うところと言えば、やはりネットの高さ。
低いから女子でも気軽にやることができるスポーツといったところか。
うん!最高!
ということで、モブよ!サーブ?を打て!
顔面にぶつけてるのでここでサーブとやらが入らないとならば恥ずか死してしまう。
モブにグットサインを出すと不思議そうな顔をしながらモブはボールを打った。
緩やかなにマネちゃんにボールが行く。
この姿勢。
あぁ...。ふつくしい...。
ボールはあっという間にこちらのコートへ返ろうとしている。
次はモブが標的とされた。
モブよ、俺よりも恥ずかしい思いをしてくれ。
モブがボールを弾く。
ザ・普通のことをするな!
マネちゃんは自慢そうな顔をしている。
「ごっめ〜ん!強く打ちすぎちゃっ...?」
「よっと!」
2度もマネちゃんの前で恥ずかしい思いはできない!このボールは返してやるぜ!
モブが弾いたボールを、マネちゃんが自慢気に打ったボールを、走り追いつき見事に上げてみせた。
そしてボールは緩やかな弧を描きモブの目の前で落ちた。
「ちょっとちょっとぉ〜!かっこいいところなんだからぁ〜!そこはボール上げて貰わないとぉ〜!」
モブ!しっかり働け!
俺の、俺の努力が...。
「すごい...あのボール拾うんだ...。
しかも味方の近くまでボールを上げてる...。公式と違って反発力が弱いこのボールで...。速さと力のバランス、空間把握能力...。」
マネちゃんは何かボソボソと呟いていた。
ん?あれ?隣のコートまで走ってきてたのか?そりゃマネちゃんの声も聞こえない訳だ。
「へっえぇ〜なんかすげぇやついんじゃん♪」
「そうですね。これは良いものを見た。」
なんか知らない2人こっち来てるんですけど。