キカンボ、くだる
キカンボの背中は重くなりました。なにせ二人のゆきんこちゃんがいるのですから、仕方がありません。
腰をさすりながらキカンボは歩きます。離れたところに谷が見えてきました。
「おい、もしかしてあそこを通るのかい?」
キカンボは心配そうに呟きます。するとゆきんこちゃんたちは、こっくりこっくり頷くのです。
谷は切り立った壁に挟まれています。氷の絶壁が立ちはだかっているのでした。
ギザギザに尖った岩肌に足をかけます。谷底は真っ暗で何も見えません。
「おっと」
キカンボが踏んだ岩が欠けて落ちていきました。
ヒューン。
それっきり音は返ってこないのです。
「とても深い谷だなあ」
ヒューン。ヒューン。もろい石は次々と落ちていくのです。もしもキカンボが足を踏み抜いたなら、きっとひとたまりもないでしょう。
崖の中程まで降りてきたときです。ゆきんこちゃんたちがキカンボの背中を叩きます。
「やい、どうしたんだい?」
指差す方へ目を凝らすと、なんと壁の窪みにはまっているゆきんこちゃんが泣いているのです。
「こりゃまた、おめえさんたちの兄弟かい」
キカンボが尋ねると、背中のゆきんこちゃんたちは頷きます。
「こんなに深い谷に落っこちるなんて、おっちょこちょいだなあ」
泣いているゆきんこちゃんのところへ向かうのは躊躇われました。なぜなら岩壁の手がかりがほとんどないのです。
知らないふりをしてキカンボは通りすぎようとします。すると足元から突風が噴き上げて、危うく落ちるところです。
「むむ。風を避けて進もう」
キカンボは風の切れ目を探して壁を這っていきます。
ピュウピュウ。
まだ突風が吹き荒れています。
ピュウピュウピュウ。
泣いているゆきんこちゃんに手が届きそうです。いつの間にか、キカンボはゆきんこちゃんのいる窪みの方へと進んでいたのでした。
「どれ、おめえさんも乗っかれいっ」
キカンボの背中には合わせて三人のゆきんこちゃんがいます。歯を食いしばって、キカンボは壁を降りていきます。
「おやおや、運が良かったなあ」
ゆきんこちゃんのいた窪みから真下は、なだらかな坂になっていて、とても降りやすかったのです。もしもあのままキカンボが知らんぷりしていたら、崖は途中から途切れて川に落ちるところでした。




