キカンボ、飛ぶ
あるところにごう慢な男がいました。自分よりも弱そうな人を見つけては、食べ物を横取りしたり、いじわるしたりするのです。男はキカンボと呼ばれ、みんなに恐れられていました。
その日もキカンボは、腰の曲がったおじいさんの、おむすびを狙っていました。
「さあ、ケガをしたくなかったら、おいらにおむすびをよこすんだ」
大きな目をぎょろぎょろさせて、おじいさんを睨み付けます。
「やめてくれえ」
「ははは、やめるもんか。さっさとおむすびをくれ」
「お願いだから、許してくだせえ」
おじいさんは必死に頭を下げます。
「ふん。聞き分けのないやつめ。ええいっ」
キカンボは無理矢理おじいさんのおむすびを取ってしまいました。すると驚いたことに、おじいさんの背丈がどんどん大きくなっていくのです。とうとう雲に届くまで大きくなってしまいました。
「やや、まさか神様だったとは」
「こんなに頼んでいるのに、キカンボ。お前という人間は情けない。罰として凍える雪山に閉じ込めてやる」
突然北風が吹いてきて、キカンボの体を軽々と運んでしまいました。
「あれれ。やめてくれえ」
「やめるものか。しっかり反省しなさい」
神様の声が段々小さくなっていき、キカンボは聞こえないくらい遠くに飛ばされていきます。
「うわっ」
白くて冷たい雪に頭から着地したキカンボは、身動きがとれません。やってきた雪山は、世界で一番寒いのですから無理もありません。
「うう。苦しい」
おしりを天に突き上げても、キカンボの埋った体は抜けません。雪は分厚く、そしてとても冷たいのです。力自慢のキカンボでも、肩まで雪に浸かってはどうしようもないのでした。
「おうい、誰か助けてくれよ」
もちろん人影などありません。ここは世界で一番寒いのです。キカンボは震えが止まりません。
次第にキカンボの意識は朦朧としてきました。喉は凍りついて声も出せません。おしりと足も、吹雪が覆い隠していきました。
辺りは真っ白で、キカンボがどこにいるのか知るものはいません。




