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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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99話 食事です

 新しくビーちゃんを旅の一行に加えて、北の大地を馬車は目指す。

 ガラガラと音を立てる車輪は、どんどんとその勢いを増していく気がする。

 たいして舗装もされず人が行き来することも少ない道であることを、音と揺れが教えてくれているのだ。

 外気温も若干低くなってきて、霊峰地帯に近付いているのがその空気で伝わってくる。

 木々や林が増えてきて伸びた枝がトンネルの様に陽を遮ることも多くなってきた。

 外の様子の変わりように少し緊張してきたが、馬車の中はクロちゃんとビーちゃんのおかげで和気あいあいとしている。

 身近に動物がいるのは良い事だ。アニマルセラピーかしら。


 食事もどんどんと、蕎麦粉の割合が増えてきて王都から離れたのを実感する。

 聞いていた通り途中の道すがら見かけた開墾したらしき農地の作物は小麦やライ麦から蕎麦に切り替わっていく。

 蕎麦は寒さに強く短期間で収穫されるので、安価に取り引きされるといえど、栄養の貧しい土地や気候の厳しい土地での唯一の収入源であるといってもいいくらいなのだ。

 農民の日々の糧でもあり、なくてはならないものである。

 蕎麦の実を給水させてからお米の様に炊いたものや、粉にして水で練ったすいとん(ダンプリング)のスープなど、今まで食べたことがない料理が食事ごとに並べられる。

 私は食に関してはまったく保守的ではないので、歓迎すべきことだ。

 蕎麦粉はパンやお菓子にも使われ、思ったよりもポピュラーに食べられているそうである。

 蕎麦粉といったらせっかくだし日本蕎麦でなければ思ったのだが、この辺では麺にすることは無いらしく、せっかくの蕎麦粉が少し物足りない気がするけれど、薫りたっぷりの蕎麦料理は小麦文化のエーベルハルトで育った私には懐かしくも新鮮で楽しいものであった。

 そもそも蕎麦を打つなんて高等技術は私も持ち合わせていないので贅沢は言えない。


 旅の一団には王子の好意で隊商(キャラバン)専門の料理人が随行している。

 彼らは旅の商人や大掛かりな旅団、軍隊などの旅程中の食事を一手に引き受ける専門家なのらしい。

 水と火の魔法と、数々の技術で旅先でも遜色ない食事を提供してくれるという素晴らしい人材である。

 ところ変われば職業もいろいろあるというものだ。

 安全な休憩場所が確保出来ればピクニックの様に馬車の外で食事を、不安がある時は簡易テーブルを馬車内に設置して不自由なく食事がとれるように配慮してくれる旅の立役者といえよう。

 贅を尽くす旅の場合は毎回豪奢なテントを建てながらの食事風景であると聞くし驚くばかりであった。

 料理人達は王都から持って来た食材に加えて、現地での新鮮な素材とレシピを取り入れるのにも余念がない。

 彼らはプロでありその仕事に誇りを持っているのだ。


 今日の食事は、蕎麦粉のガレットをいただく。

 蕎麦粉生地の薄皮のクレープの上に基本のチーズとハムと目玉焼きを乗せたものはもう何度か旅の食卓を賑わしてくれている。

 塩気の強いハムが食欲を刺激しておいしい。

 それに加えてここでは、ホワイトソースをかけたガレットが出てきた。

 潰した黄身とチーズとホワイトソースのハーモニー。

 こってりしたカルボナーラの味わいである。

 そのねっとりと絡むおいしさといったら、ついおかわりをしそうになるくらいであった。

 一緒に出されたぷるぷるに茹でられた蕎麦の実が浮かぶトマトのスープも栄養たっぷりで疲れた身に染み渡り格別の美味しさである。

 食後にはバターをたっぷり使った口の中でほろほろと崩れる厚目のクッキーが供され蕎麦しかとれないと言われながらも、十分ではないかという気にさせてくれた。

濃いめの紅茶がとてもよく合う。

 はあ、ごちそうさまです。


「貧しい貧しいと言われている割に食事はすごくおいしいですね。シャルロッテ様」

 ソフィアも食事に舌鼓を打っている。

「本当にどれもおいしくてエーベルハルトでももっと蕎麦粉を使う文化を広めてはどうかしら?小麦よりも単価が安いのよね? 確か」

「差し出がましいようですが、農民は蕎麦粉を練ったものを茹でるか焼いたものに一欠けの肉片があればよしという食事が一般的です。この様においしいものが出されるのは、その為に奔走した人間がいるということですね。私が前に訓練でこの地方に来た時はそれはもう慎ましやかな食事で……」

 ラーラはその時の食事がとても辛かったのか、珍しく話に加わってきた。

 この人は貴族令嬢だというのに軍属のせいかいろいろな体験をしている。

 本来ならば着飾って微笑んでいるだけの人生でもおかしくないのに、自分の進む道を自ら選んだ強い人である。

「軍からこちらに演習に来ることもあるのですか?」

「ええ、程よい強さの魔獣もいて、ひと気も無いので訓練として使用するにはいい土地なのですよ。新人だった時には袋にそば粉だけ持たされ森で三日生き延びてみよとされたこともありまして……」

 貴族なのだからもっと優雅な訓練かと思っていた。

 そう言えば獣を捌くことも出来ると言っていたのを思い出す。

 サバイバル経験があれば、たしかに小奇麗な仔山羊など見たらおいしそうとしか思えなくなりそうだ。

「部隊でもかなり訓練内容は変わるそうですが、私はどの任務にも耐えられるよう希望していたもので……」

 騎士を目指す兄もそんな訓練をしなければならないかと心配したが、過酷な部隊を選ばなければ大丈夫なのか。

 能動的に選択しなければ護衛官になど、なかなか成れるものではないのだろう。

「粉だけをですか?」

「ええ、この地方の挽いた蕎麦粉だけでしたね、その時は。教官には脱穀前の実で渡されないだけ感謝しろといわれまして。魔法で水と火には困らなかったのは良かったのですが、料理が出来るものはいなかったので結局、水で練った蕎麦粉を木の枝になすり付けて焚火で炙って食べたものです。他にはどうにかこうにか角ウサギ(ジャッカロープ)を捕まえて皮を剥いで塩だけで味付けして食べましたがね、下処理もあの頃は不慣れだったのでそれはもうひどいありさまでした。普段から(さば)くのに慣れた猟師や冒険者に尊敬の念を抱いたほどです」

 遠い目をしながらそう話してくれる。

「まあ、空腹は最高の調味料といいますが、まさにそれです。難はあったがあれは香ばしく美味しかった」

「何故そんな大変な道をお選びになったのか、伺ってもよろしいですか?」

 私には選びようがない場所を歩む彼女の見ているものが知りたくなった。



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