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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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87話 お目付け役です

 仔山羊基金の最初の使い道は北の大地に使うことに決めた。

 貴族の子女が王都を出立するのは即日という訳にはいかない。

 支度に手続きにと、どうせ些末な事に日数をとられるなら、その時間を使って宿泊施設を建てれば良いのだ。

 パンが無ければお菓子を食べればいいじゃないとは言わないけれど、泊まるところがないなら作ればいいじゃない?

 最悪、雨風がしのげればいいのだ。

 私が読んだ書物には400年ほど前からモット・アンド・ベーリー築城形式というものがあって最速で8日間で城を作り上げたという記述がある。

 今、必要なのは城ではないし、シンプルな建物で幾つかの部屋とキッチンとトイレに風呂場があればいいのだ。

 そう提案すると祭司長が教会の建築士を手配してくれると言う。

彼らは神の教えを普及する為に未開の地や寂れた村など何処にでも現れ、教えを垂れる聖教師の為の短期や長期の滞在場所を作っては回るそうである。

 木材や石材が手に入らない時などは、支柱と布を運び込んで遊牧民が住むテントの様な移動式住居を1時間も掛けずに設置していくらしい。

 私の言うシンプルな住まいなら二週間もかからないというので、そこは任せることにした。

 地震が無い土地では積み木みたいにすぐに家が建てられるのか知らないけれど、私の知る日本家屋など、ここの人達から見たら贅沢な趣味の建物になるのかもしれない。

 紙の扉である襖や木の枠に紙を貼った障子など石造りの家で育った今の私から見ても何の冗談かと思う。日本で暮らしていた時は気にもしなかった事が、その文化から離れてみると独特であったのだと知ることになるのは不思議な感覚だ。

 兎に角、宿泊施設の建築は急務である。私だけならテントで良いが流石にコリンナの手前、最低限の建物は必要なのであった。貴族の婦女子を緊急事態でもないのに野営のテントに寝かせたとなれば、評判にも関わる。

 土地もウェルナー男爵領の教会の敷地が空いているということでトントン拍子に話は進んでいき、商会長はそれに合わせて家具を用意して入れておいてくれるという。

 費用もそれ程かからないし贅を凝らした貴族の屋敷でもなければ、この時代の住居はあまり出費は無い様だ。


 ウェルナー男爵とはあれから実際に会う事は敵わず、王子の侍従が言うにはあの後すぐに召喚状を出したのだが、すれ違いで出都届けを確認したそうだ。

要するにとっとと自分の家に帰ったという。

 男爵にしてみれば今回の目当ては聖女への直談判であり、それが終わったのなら滞在費の高い王都に留まる理由はなかったのだろう。

 結局は書状での遣り取りを何度かして、実際に調査に行くということで固まった。

 男爵からの情報は今まで提出されてきた陳述書と変わらないものだったからだ。

 彼本人は農業と領地の金策に走り回る日々で不審死以外の調べをこなすのは無理のようだ。

 貧しい土地であっても領主自ら身を粉にして働くのは好感がもてる。

 ただ、舞踏会や書状の内容を考えると少々不器用過ぎではないだろうか。

 どうにか不審死問題だけでも解決出来るなら良いのだけれど。


「わあ! 綺麗な鳥が飛んでますよ! 見えますか?シャルロッテ様」

 馬車の窓にへばりついてコリンナが楽し気な声を上げる。

 舗装されていない道を独特の音をたてて馬車は走っていく。

 私は少しばかりの馬車酔いを感じながらも、会話の多いコリンナのお陰か幾ばくかいつもよりはましな状態である。

 クロちゃんも私の体調を心配してか、定期的に顔をペロペロとなめている。

 そう、今私達は王国北部、霊峰地帯にあるウェルナー男爵領へと向かっているのだ。

 私の乗る馬車の横をラーラが騎乗で並走して前後は騎士団が警護をしてくれている。

 領地から王都へ行くよりも厳重な守りで、一緒にいけない王子の計らいでもあった。


 ウェルナー男爵領に出向くのは私とコリンナ、後はギルとその母御にラーラを始めとする聖女護衛に騎士団。

 もちろん使用人もついてきているが最低限の数にしてもらった。

 無事に男爵領の宿泊所も完成した報告は来ているし、後は現地に着くまでの旅を楽しむのみだ。

 さて、何故ギルの母親が付いてきているかというと別にマザコンや子供離れが出来ないという理由ではない。

 北の土地に行くにあたっての私達の付き添い、お目付け役(シャベロン)として名乗りを上げてくれたのが彼女なのだ。

 同行するギルの血縁ということで、王子の婚約者と懇意になりたい貴族からの文句は封殺された。

 ギルは旅行前、世間話のついでに私の名前は伏せてスポンサーの子供と北に調査に行くという話をしたのだ。

 その際に夫人は私の事を出資者の貴族の我儘な子供が一緒に北に行くと駄々をこねたと思い込んだらしい。

 ギルには子供の面倒を見るのは無理だ、子連れを甘く考えてると説教して準備の会合に乗り込んできたのだ。

 私とコリンナを見て口をあんぐりと開けて驚いたのは気の毒だった。

 そこで自分の勘違いを謝罪すると共に、お目付け役を買って出てくれたという訳だ。

 彼女ヨゼフィーネ・アインホルンはギルと同じで白髪に見える銀髪である。

 その行動はまさに母性の塊かというように、目につくとギルでも誰でも構わず面倒を見て回る善良な人である。

 月に何度かは教会を通して、孤児院や病院で慈善活動(ボランティア)をしているというので感心するものだ。

 人の為なら下町への出入りも厭わないという奉仕精神に富んだ人なので、少々不便な旅行でも任せておけと明るく笑った好感の持てる女性である。

 ヨゼフィーネ夫人とギルは私達の後方に付く馬車で移動しているのだが、それも大人がいては緊張するだろうと、一緒に乗るのを辞退した彼女らしい選択であった。



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