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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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86話 承諾です

 商会長との商談も終わると次はまた別の話が始まった。

「シャルロッテが言うようにアルニカオイルの手配はロンメルには悪いがエーベルハルトでさせてもらうよ」

 父が商会長にそう言うと、特に気にした風もなく返答された。

「アルニカオイルの件は呪いに関係しておりますからね。先代よりロンメルはそういう怪しげなものには手を出さないよう言い含められているので構いませんよ。そういうものを扱うならばそれはもう商人ではなく何か別のものだとね」

「ではアルニカオイルにも仔山羊マークを入れましょう! 仔山羊を刺繍した布で、匂いを含めた匂い袋(サシェ)を販売しては? ああ、桜姫の為と思えば尽きぬ泉の様にどんどんとアイデアが湧いてきます」

 浮かれる詩人は置いておいて、とりあえずシャン対策はどうにかなりそうで安堵する。


「聖女様、浅ましいとは思うのですが実はこれを……」

 商談が終わってほっとしたところに、おずおずとゲオルグが銀の腕輪を差し出した。

「これは私が使っている教会のお守りと同じもの?」

「実はこれなのですが『聖女の祈り』という名前が新しく付けられまして、事後承諾で申し訳ないのですがあなたからの了承をもらいたいと教会からの要請がありましてな」

 祭司長が説明するにはこういう話であった。

 ネルケの街で桜姫が黒山羊様のお守りを購入した。

 その加護もあり呪いを退けるどころか高潔姫まで浄めてしまった。そんな2人が信仰と友愛の証としてお揃いでしていたのがこの銀の腕輪。

 そんな口上が付けられるようになって、今教会では購入する人が後を絶たないそうだ。

 そこに聖女も公認とつけたいのだという。

「実際にはどれも聖別されておりますがヴィエランダー産の銀を使ったものは限られておりまして、通常の銀細工で同じデザインのものも出回るようになってしまったのですがそこはまあ」

 目を細めて語尾をごまかしている。

 それは仕方がない、神話の土地と呼ばれるヴィエランダーの鉱石はそうそう手に入るものではないと聞いている。

 教会が何を売ろうと黒山羊様の信仰の為になるのなら私としては文句はない。

 あのお守りの一番はクロちゃんの毛糸なのだけど、そこは再現できないだろうし。

「お好きになさって結構ですわ。大丈夫だとは思いますが利益は黒山羊様の役に立てて下さいね」

「ほっほー、さすが聖女様ですな。このゲオルグの目を光らせておりますぞ」

 なるほど、なんだかわかってきた。

 あちらに比べて情報媒体が極端に少ないこの世界では「聖女」も「賢者」も信仰対象というだけではなく、娯楽の一部なのだ。

 だとしたらハイデマリーの偽儀式で上等なイワシの頭を目指した私は間違いではないどころか、まさに正解だったということだろう。

 まさか上手くいきすぎることで婚約まで結ぶことになるとは思いもしなかったが。

「ヴィエランダー産といえば」

 商会長が世間話の続きですというような気軽な雰囲気で鞄を漁りながら言った。

「2年前ほどでしょうか。王都に鉱物に混じって、妖虫(シャン)がヴィエランダーから持ち込まれた話がありましてね。その後、裏町で呪術師をしていたラムジーという男が姿を消したそうです」

 皆の視線が商会長に集まる。一向に手掛かりが掴めなかったのにまさか今その話が聞けるとは。

 鞄から資料と思われる封書を出すとテーブルの上に置いた。

「たまには商会の有用さをこうして知らしめるのも大事な仕事ですからね。先にも言った通り怪しげなものとは距離をとっておりますので、この先は王宮に任せますが」

 事態が膠着していたので何よりの情報だ。まさか神話の生き物の話をこの現実主義者が運んでくるなど思ってもみなかった。

「感謝いたしますわ。ありがとうございます」

「お礼は新しい商談でお願いしますよ。西の商人ばかり肥えさせてはロンメル商会の名折れですから」

 賢者の事を言っているのだろう。

 いくら土地が離れているとはいえ国内の話なのだ。国を跨いで商売をしているのなら気にする距離ではないだろう。

 ロンメル商会も賢者と契約を結ぶことは不可能ではない。

 賢者についているというハインミュラー商会とは別のルートで販売展開をすれば良かっただけなのだ。

 それをしなかったのはひとえにロンメル自身が賢者と商談したくなかったのではないだろうか。

 商人としてはいかがなものかと言わなければならないが、前に賢者のことを話していた時に嫌悪感が浮かんでいたのを思い出した。

 この商人は言わないだけで賢者の事を他にも知っているのかもしれない。

 何度か出てきた怪しげなものには近付かないという言葉がそれを示しているような気がした。


 アニカ・シュヴァルツは黒である。

 その証拠が、馬頭鳥の瞳の奥を見たからなんて信じる人はいるだろうか?

 詩人なら信じそうな気はしないでもないがなにぶん物証というものがないのだ。

 賢者と呼ばれる少女を糾弾する。

 それは一歩間違えたら身の破滅をもたらすものだろう。

 相手は充分に中央で名前を馳せて軍にも所属しているのだ。

 今は北へ向かわなければならないのが歯がゆい。

 先に西に行く方が良いのではないかとも思うが、人死にが出ている以上ウェルナー男爵領のことを後回しにするのも気が引ける。

 どちらも移動に時間はかかるし新幹線や飛行機ならすぐなのを思うと少しあの世界が懐かしく感じた。

 そんな魔法があればいいけれどなかなかそう都合よくは出来ていないようだ。

 西にはレーヴライン侯爵という伝手もあるし、王都に留まる王子と詩人に一旦任せるとしよう。

 まだはっきりとは言えないがくれぐれも賢者には気を付けてと付け加えるのは忘れないようにしないと。




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