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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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85話 お金の使い方です

「なっなっなっ……」

 私の顔は真っ赤になっていた事だろう。

 私の拙い子供の刺繍が何故か知らないうちに色々な品を飾っているのだから。

「いや、私どもも初めてみる意匠で腕を振るいましたよ。聖女様の名前もありそれはもう貴族方から庶民にまで良く売れて、いい商売をさせていただいております」

「売上金はすべて基金で管理してますから、ご安心召されよ我が姫よ。基金のマークもこの意匠でございますよ。姫の刺繍が皆の生活を彩るのです、なんて素晴らしいことでしょう」

 詩人はそれはもう自分良い仕事をしたでしょう?という満足感でツヤツヤ顔だ。

「父様へのシャルロッテの思いがこんな形で世間に公表されるなんて私も照れ臭いのだけれどね。ナハディガルに是非にと言われて踏み出してみて良かったよ」

 何を踏み出してしまったのか。父は父で何故だか、はにかみながら夢見心地の様相だ。

「ナハディガル!! 一体なんてことをして下さいましたの!」

 私がそう悲鳴を上げると、呼び捨てなのと怒られたことでまた喜んでいる。

「奥ゆかしい私の姫君。声を荒げるのも美しい」

 誰か助けて下さい。お願いします。

 

 あまりの事実に混乱してしまったが、落ち着いてみると悪い話ではなかった。刺繍の件はともかくも……。

 基金で管理された資金は、つまりは私が自由に使っていいお金なのだ。収支決算はあるので個人的な事に使っても記録が残るので気を付けなければならないが、これで北の大地に行く資金が出来た。

 基金が無くとも王子や父が出してくれるのだろうが、それはそれで何か違う気がしていたので自分の資産が出来たことを考えると気も楽になるというものだ。

 収支決算をきちんとして、そこから教会と国へ一部を納めればどこにも角が立たないだろうというのが商会長の見通しだ。

「そうして頂けると教会としてもありがたいですね。感謝いたします」

 祭司長が恭しく礼を述べるが実はこの老人ずっと膝にはクロちゃんを乗せているのである。

 クロちゃんも慣れたものでおとなしく撫でられるままにされていて、おじいちゃんと山羊の図はささくれた私の心を慰めてくれた。

「シャルロッテ基金か桜姫基金という名前にしたかったのですが、それだと姫君が恥ずかしいのではとロンメルに反対されまして、それならばと仔山羊基金の名前になったのですよ」

 なんて提案をするのだ。

 残念そうにしている詩人を前に私は商会長に感謝した。

 自分の名前やらあだ名を冠するなんて恥ずかしいにもほどがある。

 きっと名前を決める時に詩人は暴走したに違いない、そこにクロちゃんを指す仔山羊の名称を持ってくるのはさすが商人である。

「やはりこの意匠を有効活用しなければと思いましてね。仔山羊ならば一目でわかっていいでしょう。そうそう、前に頂いた鉛筆の件なのですが」

 彼は鞄からまた書類一式と何本かの棒を取り出した。

「おっしゃる通りに試作してみましたよ。いかがですか?」

 そこにあったのは私が思ったままの鉛筆である。機械で作られたものではないので少々武骨で太くはある。

「ただし六角形というのは技術的にも手間がかかりまして、職人と検討して四角形で用意してみました」

 四角形の方は造形が簡単なおかげか、先ほどのものより細くて持ちやすい。割り箸で字を書く感じだが悪くはない。

「ええと、転がらなければいいと思うので六角形にこだわりはないのです。この四角形のものは使いやすそうですね」

「後、こちらは四角形の角を研磨機で滑らかにしたものです」

 さすがに研磨に掛けられた表面はなめらかで角も気にならない。

「ああ、これはいいですね。持った感触も悪くないです」

 私が納得するのを見て、商会長はふうと大きく息を吐いた。

「合格をいただけて安心しましたよ。職人達が聖女様の発案だと聞いて張り切りましてね。早く見せてこいとせっつかれておりまして」

 どこの世界も職人は扱いにくいものなのだろう。変な発案に付き合ってもらってありがたいことだ。

「それとなんだかいい香りがしますね」

 鉛筆なのだが爽やかな香気を感じる。

「軸の木材もいろいろ試してみましてね。香檜木(インセンスシダー)と呼ばれる香にも使われる木になりましたよ。落ち着く香りでしょう」

「え? 香木ですか? なるだけ安価に広めたいのですが」

「ああ、大丈夫ですよ。香檜木は成長も早く寒冷地でも育つのでそこほど値が張るというものではありませんので。どこか群生地を買い取るか土地を用意して植林なりすれば確保は容易ですしね」

「では心配ありませんね。四角のままのものはそのまま安く売って、研磨したものは相応の値段にして高級感を出しましょうか。そちらは注文に応じて名前を刻印して飾ったり、色を付けて目を引く仕上げにするのもいいですわ」

「ほぅ、それは貴族が飛びつきそうですね。では商売の話といきましょうか? こちらは私共ロンメル商会で独占販売させていただいて構わないのですよね?」

「ええ、すぐに技術は漏出するでしょうし難しいものでもないでしょうけど初めて販売するという栄誉は、あなたのものになりますわ」

「ありがとうございます。では利益の取り分をこちらで」

 契約書にはいろいろ書いてあったが、物価も金額もよくわかっていないので商会長にそこは信任してしまった。

 侯爵家の子供の相手に詐欺まがいの契約はしないだろうし、一時の利益に溺れるような商会なら父は相手にしないだろうから。

 とりあえず売れる限りは利益が還元されるそうなのでそれでいいだろう。

 どう考えても鉛筆がない生活は想像出来ないので、まず廃れたりはしないのではないだろうか。

「あとこちらの許可もいただいてよろしいでしょうか?」

 もう一枚の契約書は仔山羊基金の名前を文房具でも展開するというものであった。

「聖女鉛筆の宣伝を兼ねて文房具ブランドを作る提案をします。そのまま新しい鉛筆を売るよりも聖女様の案でうちが製作したと結び付けて売り出す方が話題にもなって良いですし、それに伴って他の文具にも仔山羊マークでより付加価値をつけるのです」

 はあ!!と素っ頓狂な声を上げる私を気にもせず商人はどんどんと鞄から文具を取り出した。

 なんでも出てくるのかしらこの鞄。

 ノートにメモにペーパーナイフや便箋など全部に黒い仔山羊が印字してある。

 真鍮のペーパーナイフに至ってはきちんと職人の手がかかっているのがわかり片手間に用意したものではない。

「これを見せられて嫌と言える人がいますでしょうか……」

「シャルロッテ様ひとつご忠告致しましょう。相手に嫌と言わせないのが出来る商人なのですよ」

 涼し気な顔でそういうロンメルを諦めの眼差しで私は見つめた。 



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