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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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71話 幸せの時間です

 ハイデマリーの光を弾く銀髪がターンの度にふわりと宙を舞う。

 美男美女、いや美少年美少女のダンスをこんな間近で見られるとは、なんという幸せであることか。

 隣でコリンナも口をポカンと開けて見入っているので、そっと顎を持って閉じさせた。

 男性の前でこの顔をさせておくのは良心が咎めたのだ。

 貴賓室でのささやかなダンスパーティは余韻を残しながら名残惜しそうに終わる。

 二人が向き合って礼をとるのを私達は拍手をして称えた。

「こんなに楽しく踊ったのは生まれて初めてですわ」

 ハイデマリーがとてもいい笑顔でそう言う。なんとあのままダンスを止めずに3曲続けて踊ったのだ。

「礼儀がなっていなかったかもしれないけど、君の本当のダンスが見たくてつい続けてしまったんだ」

 兄がウィンクをする。

 ダンスのせいで上気したハイデマリーの頬がもっと赤くなったのがわかった。

 そんなプレイボーイみたいに育てた覚えはありませんよ!と心の中で兄に叫ぶ。

 でもいい仕事をしたとも言わなければならない。さすが兄である。

 茶会で同じ事を王子に強要して煙たがれた彼女にとって、このダンスは特別なものになるのではないだろうか。

「とても上手いね。技術がしっかりしているし社交界にデビューしたら引く手あまただろうな」

「そういえばハイデマリーと兄様は同じ年です! 学院に入られたら季節の催し物のダンスパートナーになられたら?」

 私は妙案を思いついたというように手を叩いてそう言う。

「シャルロッテ、ルドルフ様に悪いわ。きっとお相手がいらっしゃるだろうし」

「私としては歓迎だけどね? こんな綺麗な人が相手だと他の男どもにやっかまれそうだけれど」

 いつも機転の利くハイデマリーが真っ赤になって何も言えなくなっている。

 この子のこういうところ、本当にかわいいわ。

 爵位柄、賞賛やお世辞は良く聞いてるはずなのだけれど、同年代の異性からの褒め言葉には誰でも弱いのかもしれない。

 私だって王子にませたことを言われると赤くなるし固まってしまう。

「さあ、お茶の続きをしましょう? ダンスの後だから余計おいしく感じるわ。兄様に感謝です」

 ハイデマリーを私の横に座らせて紅茶のカップを手にもたせる。

 テーブルには兄のお土産の焼き菓子が綺麗なプレートに盛られておいしそうな香りだ。

 言うまでもなくコリンナはダンスを見学しながら既に食べていた。

 一口齧ると口の中にバターの香りが広がり、ふんわりした生地が迎えてくれる。

「この焼き菓子本当においしい。ほらハイデマリーも食べて」

 動かないハイデマリーの口に千切ったお菓子を押し込む。私の餌付けが成功して最近ではまったく抵抗しなくなって、もむもむとそのまま咀嚼している。

「美味しいです。ルドルフ様のお土産のご相伴に預かれて光栄ですわ」

 お菓子が気付け薬になったのか、ハイデマリーは礼儀正しく礼を言った。

 その横で私はコリンナの口にもお菓子をほおりこんでいる。

 コリンナも慣れたものでリスのようにもきゅもきゅと食べている。

「君たちはいつもそれをしてるのかい?」

 さすがに兄が目を丸くして聞くと我に返ったのかハイデマリーが焦って弁解しだした。

「いえ、いえ! シャルロッテだけです! あのシャルロッテが、私がスプーンを持つのも重いからって自分で食べさせてくれなくて、それであーんってですね」

 彼女に似つかわしくない支離滅裂な弁明に兄が落ち着いて返してくれた。

「シャルロッテはお利口だけどちょっと世間知らずなところがあってね。君達にも苦労をかけると思うけどよろしくね」

 君達にもっていった?私がいつ兄に苦労を掛けたというのだろう。失礼な兄である。

「お任せ下さい!私がいつもついています!」

 コリンナがふんすと鼻息を荒くして返事をする。頼もしいが彼女に苦労をかけたことはないと思うのだけれど?

 あ、でも彼女はソフィアと一緒に私宛の書状整理をしているのだった。やはり苦労させているようだ……。

「これからもよろしくね」

 にっこり笑って言うとこくこくとお菓子を食べながら頷いてくれる。なんて平和なのだろう。この悪意のない空間こそが幸せというものだ。

「私は助けてもらってばかりですのでこれから恩を返していきたいですわ」

 控えめにいうハイデマリーに兄が力説する。

「シャルロッテは大人びているようで突拍子の無い事をしでかすから、その時は覚悟しておいてほしい」

 兄の中で私はどんな存在になっているのだろう。まったくわからない。

 私の事を力説する兄の手をクロちゃんがペロッと舐めた。

「わああ、あ、クロさん」

 クロちゃんの正体を知っている兄は、まだ少し苦手なのらしい。

「いきなりだと驚きますのでなるだけ鳴きながらとか存在を知らせてから近寄ってもらっていいですか?」

 めええ、兄が言っていることをわかったのかわからないのか暢気にクロちゃんは鳴き声をあげる。

「クロ様、あなたにも感謝しておりますわ」

 ハイデマリーはいつもクロちゃんを見つけると一礼するようになってしまった。

 私と同じようにクロちゃんと遊ぶのはコリンナくらいだ。

 撫でたりかわいがる人はいても無邪気にとはいかない。

 王宮も教会の人もみんなクロちゃんに敬意を払う様になってしまった。

 私が求めたのはこんな腫れ物扱いでなくて可愛くて仕方がない人気者のクロちゃんを見る事なのに。

 偽儀式に出席しながら態度を変えないコリンナは実は大物なのかもしれない。

  

いつも閲覧、ブックマーク、感想、誤字報告ありがとうございます。

投稿前に何度か読み返しているのですがチェック漏れの誤字があり、読書の邪魔をしてしまい申し訳ないです。


24話からの改稿部分について

すべて誤字訂正になっております。作品内容に変更はありません


今後も当作品をよろしくお願いします!

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