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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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70話 余興です

「兄様、今日はどうなさったの?」

「シャルロッテが退屈しているかと思ってダンスの練習と、お茶菓子の差し入れをもってきたのだよ」

 籠には焼き菓子が紙袋に包装されてはいるが、バターのいい匂いをさせている。

 その匂いに誘われてコリンナもソワソワしているのが子リスの様で可愛らしい。

「確かに運動不足ですけれど、こうやって2人が遊びに来て下さるので退屈とは無縁ですわ。でも体を動かすのは賛成です! 彼女達もそうそう殿方と踊る機会はないと思いますし」

 ダンス!それはいい余興になりそうだ。

「ここにお姫様が3人もいるなんて思ってもみなかったよ。華やかでまるで王太子殿下の茶会のようだね。お嬢様方、私と1曲いかがですか?」

 恭しく片手を差し出す。

 ナイスだ、兄よ。まずは私が踊って流れを作ろう。

 突然の誘いにあわあわとしている2人を横目に兄の手をとった。

「お兄様、悪戯が過ぎましてよ。2人がびっくりしてるじゃないですか」

 口では嗜めるような事を言ってみたが、兄には私の考えが伝わっているかのようだ。

「はは、君のお友達なのだから特別なおもてなしをしないとね」

 そういってルドルフはウィンクをした。

 どうやら兄は父よりもこういう事が上手そうだ。


 ソフィアが花束とお菓子を回収してデニスの手が空いたのを確認すると兄が合図する。

 デニスは待ってましたとばかりにバイオリンを顎に当て、いつでもどうぞと弦に弓を当てた。

 音楽付きとは粋な計らいである。

 それを合図にお互い背中に腕を回す。

 バイオリンが独特の深みのある音を奏でだした。それに乗って基本のボックスステップを刻む。

 前一歩横一歩足を閉じて、後ろ一歩、横一歩、足を閉じる。

 簡単なステップだが息が合わなかったり、緊張していると、ここでもう躓く人が出るだろう。

 練習していると言っても私達はまだ子供なのだし、実際に組んで踊る経験も少ないからだ。

 もちろんダンス教師のお墨付きの私達兄妹の踊りは、まったくもって問題ない。

 コリンナとハイデマリーがいるせいか簡単なステップだけで一曲を終える。

 最初から飛ばしては次が続かないのは兄も私も心得ていたからだ。

 息を飲んで見ていた2人から拍手が起きた。

「素敵ですわ。茶会の時よりも上手ではなくて?」

「お二人とも息がピッタリですね!」

 特に難しいことはしていないが狭い部屋の中で間近で見ているせいでそう見えたのだろうか。盛大に褒めてくれている。

「ありがとう、やはり体を動かすと気持ちがいいです」

 兄に礼をすると席に戻る。私だけ楽しんではいけないのだ、二人を踊らせないと!

 そういえば思い返せば、コリンナはせっかく茶会に出たけれど一曲も踊っていないのではないか。

 もしかしたらダンスが苦手なのかもしれない。

 興味があるが気後れしているようなので、コリンナを誘うよう兄に合図を送る。

「では次はコリンナ嬢、お願いします」

 名指しされては断れないのか、私と兄を何度か交互に見てからおずおずと手を取った。

 その様子に気を利かせたのかデニスはゆっくりめの曲を弾きだす。

「私、ダンスはあまりうまくなくて」

「もし今あなたがうまく踊れなかったとしたら、それは私のリードがまずかったというだけの事ですよ。ゆっくりだから大丈夫」

 コリンナは「1、2、3、1、2、3」とつぶやきながらスウィングをしている。

 私も習い出した頃はこうだった。なんだか初々しくていいではないか。


 ハイデマリーを見ると少し気落ちしたような、元気のなさそうな表情でお茶を口に運んでいた。

 茶会の時の事を思い出したのだろうか。

 そういえば彼女は身長が高いのがコンプレックスだと話してくれた。

 茶会の時の振る舞いと相まってダンスが嫌いになっている可能性もありそうだ。

「わあ、踊れてます。私踊れてますよ」

 兄のリードで可愛らしいダンスをしながらコリンナは、はしゃいだ。

 いくら練習しているといっても、やはり通常は同じ年頃の異性と踊る機会は少ないし、あったとしてもギクシャクして上手く踊れないことも多いそうだ。

 そんな時にフォローを十分出来るよう技術を磨くようにダンスの教師から指導されている。

 息を弾ませて一曲終えて礼をする。

 コリンナも楽しかったらしく目がキラキラしていた。

「デニス様も私に合わせて曲を選んでくれてありがとうございます! とっても踊りやすかったです!」

 まっすぐに感謝する彼女にデニスも礼をとった。

「次はハイデマリー様の番ですよ! ルドルフ様ものすごくお上手だし踊らないと損です!」

 コリンナの率直な言葉にルドルフが苦笑した。

 ハイデマリーはやはり踏み出せないのか遠慮がちに目を伏せている。

 兄も経緯を知っているので何か察したのかもしれない。

 わざわざ彼女の前まで移動してダンスを申し込んだ。

「あなたも私と一曲楽しみませんか?」

 さすがにここまでされると断れない。

 観念したのか目をつむりハイデマリーは深々と礼をとった。

「よろしくお願いいたします」


 優雅でゆったりとした曲が流れる。

「おや、君は背が高いのだね。座っているとわからなかったよ」

 兄の一言にハイデマリーが泣きそうな顔になるのがわかった。

 なんてことを言うのだ。無神経すぎる!引きはがして兄を殴ろうかと思ったらまだ言葉が続いていた。

「みんな私につむじしか見せてくれないから、こうやって目線を合わせながら踊れるのは初めてだ。うれしいよ」

 冷静になって見てみれば兄の方が背が高く、釣り合う身長なのだ。

 兄とのダンスはいつも私を見下ろす顔ばかりなのを思い出す。

 ルドルフが高身長の父に似ていてくれて、これほど感謝する日が来るとは!

 ハイデマリーもそれに気付いたようで驚いたように目を開いている。

 彼女の身長だと王子は視線を合わせるのに常時上を向いていたことだろう。

「うん、とてもいいね。踊りやすい」

 ルドルフがデニスに目で合図するとテンポの速い曲に変わる。ハイデマリーなら大丈夫だと踏んだのだろう。

「ルドルフ様といいシャルロッテといい、何故つむじの話なのですか」

 前に身長の件で私がした、つむじの話を思い出したらしくハイデマリーが小さく吹き出した。

 瞳が潤んでいるのは可笑しいだけではないだろう。

 先ほどまでの硬かった彼女の笑顔がほつれて大輪の花の様に咲いた。

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