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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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644話 偽名です

 涙が止まらない。

 やっと泣いてもいいのだ。


 知らない場所に放り出されて、心細くて泣いてしまいたかった。

 ずっと泣きたかったのだ。

 けれど、そうしてしまうと立てなくなりそうで、自分の気持ちに気付かないふりをしていた。


 アニーとグーちゃんの存在が、私を強くしてくれていた。

 愛すべき彼らが、私を支えてくれていたのだ。

 彼らがいなくなって、こうして王子に私を見つけてもらえて、もう泣くのを我慢する理由はどこにもない。 

 令嬢でなくなって気楽だ何だと誤魔化してきたけれど、こんなにも不安だったのだ。


「……知っていらっしゃったのね」

 私が泣き止むのを王子は辛抱強く待ってくれた。

 泣き過ぎて目が痛いけれど、心が軽くすっきりとしている。

 ようやく、きちんと会話が出来そうだ。


「最初は半信半疑だったけれどね。君がいなくなって少しして、こちらの鉱山に異国出身のおかしな女性が現れた報告があったとアインホルンが私の執務室に飛び込んできたんだ」

 なんだか目に見えるようだ。

 あの学者は興味を引くものを見つけると、礼儀なんて吹っ飛んでしまうのだもの。


 それにしても「おかしな」なんて失礼だわ。

 その報告をしたのはスヴェンよね。

 私のどこが一体おかしかったというのだ。

 特におかしな事なんてしていないはずなのに。


「その女性の名前がロッテ・シャルルヴィルだと言うじゃないか。わざとらしすぎる名前に何かの罠ではないかという話まで出たのだよ。こうして見つけられたのだからいいけれど、今後偽名を使う時は、もう少し考えることをお勧めするよ」

 王子はぷぷっと笑いを漏らした。

 なんてこと!

 私が付けたと思われている。


「私が考えた名前じゃないんです! 黒い雄牛様よ!」

 誤解を解く為に言い返すが、まあまあと私を宥めるだけで本気に請け合ってくれなかった。

 そりゃあ黒いからクロちゃんでビヤーキーだからビーちゃんで、ぐーうだからグーちゃんだけど、わかりやすくていいじゃないか。

 こういう名付けって性格が出るのよね。


 今回は、たまたま黒い雄牛様が私宛の手紙に名前を書いていたから、仕方なく使っただけだ。

 違う名前を名乗っていたら鉱山に入れずに、グーちゃんの案内があったとしても山を彷徨い風雨に晒されアニーの体力は危なかったはずだもの。


 さすがに、自分でこんなバレバレの偽名を付けるなんてしないはず……。

 しないはずよね? 

 ちょっと、自信がなくなってきた。


「それで黒い雄牛が君を連れて行った先は、オイゲンゾルガー伯爵領の鉱山なのではないかという話になってね」

 黒い雄牛様の事は、アリッサの口からギルベルト達に伝わていると聞いている。

 今まで話題になっていなかった神様の呼び名を人の口から聞くことになるなんて、なんだか不思議な感じがした。


 神様の名前は、軽々に口の端の乗せるものではないから隠されているという。

 もしかしたらロッテ・シャルルヴィルと名をもじって私が付けられたように、人である時の黒い雄牛様の名前の「Hant(ハント)Peyoaltr(ペィオアルトル)」も何が意味があるとかではなくて単純に神様の名前を組み替えたものなのもしれない。


「それにアリッサ達がエーベルハルト侯爵家を飛び出して行ったからね。彼女達の噂を追ってみればこちらにたどり着いたという事もある」

 修道服の女と仔山羊と小鳥のセットなんて普通ないものね。

 馭者のおじさんも言ってたけれど、相当目立ったのは間違いない。

 ただでさえ噂になりそうなのにアリッサが、男に声を掛けられて返り討ちにしたのだっけ?

 彼女達ならもっと上手くやれそうなのに、それだけ黒い雄牛様に腹を立てていて行動に余裕がなかったのかもしれないわ。


「元々、この鉱山は怪しくてね。王国見聞隊の『案件』として調査をしているところだったから、丁度良かったよ。ソレに関連しているのではないかとアインホルンは推察していた」

 王国見聞隊の『案件』という事は、単なる失踪や殺人ではなく超常のナニカの可能性を内包しているという事だ。


 王国における不思議な事象や事件を見て聞いて収集するのが本来の王国見聞隊の役割である。

 その活動を遂行するに当たって、地理や風俗に精通しているのが前提として存在しているので生半可な人間はその任に付く事は出来ない。

 地図を作製したり、辞典を作ったりと言う副産物に注目されがちであるが、その実は密偵のようなものだ。


 学者であるギルベルト・アインホルンが顧問になってからは、過去の記録まで遡って神話生物の関わりについて深く掘り下げられているという。

 ここの鉱山の『呪い』は、賑わっていた昔からあるのだからギルベルトが不審に思って取り上げたとしてもおかしくはないのだ。


「神様の用事は終わったのかい?」

「……用事、は……」


 用事なんてなかったけれど、神様に連れられて出てきたのだからそれなりの理由はいるわよね。

 少なからず私の不在で騒ぎにはなった訳だし。

 これは、どう言えばいいのかしら。






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