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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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639話 主張です

 男達が死体の確認に走って行ったので、この場に残る野次馬の数は大分減っていた。

 死体を見に行けというスヴェンの言葉は、人払いも兼ねていたようだ。

 それに命が助かったのだとわかれば、仕事を取り上げられる事からくる王国への不満も払拭することにも繋がる。

 万事が彼の有能さを物語っていた。



 何てことだろう。

 先ほどまで、アニカの独壇場であった食堂が、王子の登場ですっかり様変わりしてしまった。

 舞台を乗っ取られた主役のようにアニカはすっかり居場所を失くしている。

 無力な少女になってみたり意地の悪い女のようであったりと、自分が演じなければならない役を忘れてしまった女優のようにちぐはぐな態度をとっている。

 おかげで断罪されようとしていた端役である私の存在なんて、すっかり忘れ去られていた。


 もう、目まぐるしくて目眩がしそうだった。

 グンターとラムジーはあっという間に罪を暴かれて連れて行かれるし、スヴェンときたら王国見聞隊の人間だったなんて。

 あの古い名乗りは、身分を証明する時に使う隊特有のものだと聞いた事がある。

 腕が立つのも当然だ。

 仕事にあぶれた貴族の三男くらいに思っていた私は見る目がないようだ。


 考えてみれば呪いが蔓延る鉱山なんて、王国見聞隊が出て来て当然の案件だ。

 呪いではなくとも行方不明者が多ければ、国が動いてもおかしくはない。


 スヴェンはグンターの助手として鉱山の内部に入り込み、不正や犯罪の証拠を固めてきたのだ。

 一地方の犯罪に王子が出てきたのは違和感があるけれど、婚約者選定の件が絡んでいるのならばわからないでもない。


「さて……」


 王子が、仕切り直しとでもいうように話し出した。

 私は大人しく平伏したまま頭を下げている。

 私がシャルロッテ・エーベルハルトだなんて、彼は夢にも思っていないだろう。


 もし私がこのまま失踪してしまったら、新しい婚約者を迎えるのよね。

 そうしたらハイデマリーが選ばれるのかしら?

 でも彼女は、うちの兄の事を気にしていたし昔の様に前のめりに婚約者になりたいという意思はなくなっている。

 気の乗らない彼女を私の後釜に据えるのは気の毒だし、かといって他に有力な令嬢というと……。

 なんだか気分が塞がってきた。

 誰にしたって納得がいかないのかもしれない。

 すっかり王子の横にいるのが普通になってしまっていたから。


「それでシュヴァルツ男爵令嬢は、こちらで何を?」

 王子の声に我に返った。

 それは冷ややかな声で、私が耳にした事がない響きをしている。

 この人はこんな喋り方も出来るのか。


「鉱山に遊びに来たのよ」

 髪をくるくると指に絡ませながらアニカが答えた。

 まるで王族への礼儀がなっていないけれど、この場にそれを諫める人間はいなかった。

 何年も、何回も注意されただろうに、彼女は直す気がないのだ。


 賢者という地位が優遇されていることもあるけれど、口の利き方や態度を指摘していると彼女と会話にならないのをわかっているのかもしれない。

 他に貴族もいないので見逃されているのだ。

 それは令嬢としての彼女の為にはならないけれど、労力を使ってまで彼女を正そうとする人間がいないことを表していた。

 アニカはアニカで、その甘やかしに胡坐をかいている。

 彼女は賢者として国に貢献しているかもしれないけれど、その態度は国の重要人物としての汚点といってもよいだろう。


「遊びに? こんな何もない場所に?」

 訝し気な王子の言葉に、アニカは大袈裟に手振りを交えて反論した。


「何もない? 失礼ね! ここには私が発見した朧水晶があるのよ! 素晴らしい発見よ! 私のお陰で大金が生まれるんだから、ここに私がいてもおかしくないでしょ。国も税金で儲けてるんだから、感謝しなさいよ!」

 それはもう、得意気に言ってみせる。

 先程までの怯えた様子で騎士に撓垂れ掛かっていたのが嘘のようだ。


 彼女はその朧水晶が、人を犠牲にして出来るものだと知っているのかしら。

 知っていたら、恐ろしくてこんな風に自分の手柄として吹聴出来るはずがない。


 でも、アニーを虐げていた彼女なら、他者を犠牲にしても心が痛まないかもしれない。

 彼女が朧水晶を見つけなければ、伯爵夫人も鉱夫達も生きていたはずだ。

 彼女は鉱脈を見つけただけで責任はないかもしれない。

 だけれど責めたくなる気持ちがもたげてしまう。


「普段、シュヴァルツ令嬢はこちらへは寄り付かないと聞いていたけれど、間違いだったようだ」

「そういう王子様は何しにきたのよ。そっちの方がおかしいじゃない。王族がここに来たことなんて一度もないはずよ」

 探るようにアニカは返した。

「先ほども言った通り、高慢の種事件の犯人を追ってきたのだ。それに最近はいろいろと鉱山の噂が耳に入るものだから、私自ら確認をしにね」

「はあ? いろいろって何? 何の確認よ。ラムジーを捕まえたんだから、とっとと帰ったら?」

 不敬極まりなくて、聞いているこちらの方がハラハラとしてくる。

 今更ながらゴミ穴の話が出た時に、私も一緒に退場すればよかったと後悔した。

 





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