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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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637話 長目飛耳です

「先程のラムジーも共犯だと聞いている。他にも一般人への暴行罪もあるな。共謀して無辜の猟師の舌を切るとは、鬼畜にも劣る浅ましい蛮行と言えよう」

 騎士が羊皮紙を眺めながら、吐き捨てるように告げる。


「なっなん……、猟師? ジーモンの事を言ってるのか? なんであんな奴の事で、俺が裁かれなくちゃいけないんだ。飼い犬を躾けるのは当然だろ! 言うことを聞かないあいつが悪いんだ」

 グンターには、何が悪いのか全く理解出来ていなかった。


 彼にとってジーモンは飼い犬であり、何でもよく聞く召使のようなものだ。

 魔獣を仕留める腕を持ちながら、人を避けておどおどとしている情けない男。

 貧弱な体のグンターが、彼の逞しい体に嫉妬していたのは本人も気付いていない事だった。

 その劣等感を誤魔化す為に、虐げていたのだ。

 鉱山支配人という地位がなければ、避けていたのはグンターであったかもしれない。

 それに気付ける分別を、彼は持ち合わせていなかった。


「それより、そいつを捕まえてくれ! 俺の手を斬ったんだ! スヴェン、あいつがやったんだよ! 痛えんだ、死んじまう! 医者を呼んでくれ、いや、医者に連れていってくれよ!」

 グンターは、逮捕されようというのに必死に騎士に訴えかけた。

「早くくっつけなきゃ、手遅れになっちまう!!」

 血も乾かぬ斬られた腕を見て、騎士は眉を顰める。

 手遅れも何も、凶悪な犯罪者であるこの男が手厚い治療を受けられるはずがなかった。

 せいぜい罪状が全て明らかになるまでの間、死なないように処置されるくらいだ。


「スヴェン……、というのは?」

 一応申し立てを受けたからには、該当する人間に話を聞こうと問いかける。

 名前を呼ばれて、臆する事なく青年が立ち上がった。

 騎士を前に萎縮する事も無く堂々としたものだ。

「手を失くしても元気でなにより。その分じゃ、牢屋でも長生きしそうだ。首をくくられなきゃの話だが」

 彼の嫌味にグンターが吠える。

「残念だな! お前も牢屋行きだ!!」


 スヴェンが王子の護衛の代表と思われる騎士に向かい合う。

「博古通今、長目飛耳。我は聚落に野辺山野を駆ける者。王の目は千里を見通し、耳は聡く万里を聞く。ここではスヴェンと名乗っております。鉱山の呪いを解明する為、送り込まれました」

 それは古い言い回しで、その場にいた鉱山の人々には半分も理解出来てはいなかった。

 それでも彼が只者ではないのだと、騎士の態度で伝わった。

「スヴェン殿においては、此度の鉱山での働き感謝申し上げる。お陰で犯罪者を捉えることが出来ました」

 その名乗りは、王国見聞隊を表していた。


 王太子は既に彼を知っているようで、特に注目することなく騎士達に指示を出していた。

 禁忌を破ったラムジーと違い、グンターは王太子自ら取り締まるような大物でもない。

 連続殺人という凶悪な犯罪であるにもかかわらず、騎士に任せグンターに声を掛ける事もなかった。


「感謝ならば偉大なる国王陛下へ。我々は陛下の手足に過ぎないのですから」

 スヴェンが貴族としか思えない礼をする。

 グンターがそのやり取りを見て、わなわなと震えていた。

 怒鳴れば怯えて何でも言う事を聞いていた意気地なしが、自分を見下ろしている事に我慢がならなかった。


「お前、俺達を騙してたのか……。一体何者なんだ……」

「先程、名乗ったじゃないか、わからないならそれまでということだ。それに騙すなんて人聞きの悪い。あんたこそが王国を騙してたんだろう? 伯爵の後ろ盾で、ここで王様気取りだったじゃないか。俺は国の命で調べに来て、それを報告したに過ぎない」

「伯爵の……」

 グンターはそう呟くと、何か閃いたようだ。


「そうだ伯爵……。オイゲンゾルガー伯爵に、命令されたんだ! 俺だってあんな事したくなかったんだ。でも貴族には逆らえない。なあ、分かってくれるだろ? 俺は鉱山の雇われ支配人だ。スヴェン、ずっと一緒にいたじゃないか。俺は、仕方なく従ったんだと言ってくれ!」

 浅はかなグンターは、伯爵に全ての責任を押し付けようとまくし立てた。


「はあ、見苦しい。はいはい、オイゲンゾルガー伯爵も今頃捕まってるから、言いたい事は取り調べの時にね。そもそも鉱山の帳簿を誰が管理してたと思ってる? 使い込みも何もかも証拠があるんだから、その辺は伯爵の指示じゃないよなあ。あんたは伯爵も騙してたんだ。書類仕事が嫌いだからって全部、助手に丸投げしてくれるとは呆れたもんだよ。お陰で証拠集めが楽だったよ。まあ、そういう訳で、あんたの手を切り落としても俺は罪に問われないんだ」

「卑怯者め!」

「はっ! あんた達がしてきた事より、よっぽど可愛らしいだろ? 俺はあんたの手をひとつ落としただけ。ここで好き放題に人の命を奪って来たんだ。もう、観念しなよ」

 言い訳も虚しく、グンターの命運もここまでだった。

 傷む手を庇いながら項垂れて、半ば引き摺られるように外へと出された。







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