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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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623話 忘れたものです

「大変だったのね。そういえば侯爵家の方はどうなっているの? 黒い雄牛様は、私がいない間、問題がないようにしたと言っていたけれど」

 私の問いに間髪入れずにアリッサは答えた。

「問題? そうですね、あれは問題ではなかったと言われれば……、そうなのかな? うん、シャルロッテ様が消えた事は、ある程度の期間、誰にも気付かれませんでしたよ」


 ある程度という事は、私の失踪は完全には隠せなかったのか。

 結局、家族には心配をかけてしまった訳だ。

 でも一定期間は気付かれなかったのなら、黒い雄牛様に感謝すべきかしら?


「そうなのね。一体どうやったのかしら? エーベルハルトの皆はどんな感じだったの?」

「あいつ、あのろくでなしがシャルロッテ様そっくりの人形を置いていきましたから、最初いないのはばれてなかったですよ。ただ人形は片言しか喋れなかったし、あまり動けなかったから、病気だと思われて大騒ぎでしたけど」

 人形を身代わりに?

「えっ……」

 驚きを隠せなかった。

 もっとこうなにかごまかしようはなかったのだろうか?


「皆、心配してました。人形は寝たきりだったし、医者はなんの病気かわからないっていうし」

 何だか聞けば聞くほど申し訳なくなってきた。

 身代わりをおいておけば、失踪したという問題は解決するだろうけれど、まさか人形だなんて。

 片手落ちもいいところじゃない。


 でも、喋ったり動いたりする人形を用意するのも大変よね。

 神様なりにがんばったのかしら?

 まあ神様なんだから、人の細々とした感情とかは理解出来ないと言われたらそうかもしれないけれど。

 いや、黒い雄牛は人のことをよく知っていそうだし、単に嫌がらせなのかもしれない。

 どうとってよいかもわからずに、心がグラグラと揺れる。


「ダンプティの坊ちゃんが、あれが人形だと見破ったお陰で、ついでに私達に掛けられた術も解けてここまでこれたんですよ。でも、私達それまでずっと壁際で立たされてたんです。もう本当にむかつく!」

 アリッサは、今度はダンダンッと床を踏みしめている。

 抑えきれない怒りを、そうやって発散するしかないのだろう。

 あまり暴れて岩が崩れないといいのだけれど。


「皆には悪い事をしたわ。最初から書置きでも残しておけば大事にならなかったもしれないのに。それにしても、何故私はあの神様に付いていったのかわかるかしら? そのあたりの記憶が曖昧なのよね」

 少し長めの沈黙の後に返事が返ってきた。

 珍しく考え込んでいるようだ。


「多分……」

「多分?」

「うーん、多分ですよ。あの時のシャルロッテ様は、なにか思いつめてました。疲れていたというかあまり元気がなかったんです。考え込む事が多くて。それに色んな用事を詰め込んでて、忙しくしてたんです。こうしてみるとここに来た事で元気になったように思うので、付いて行ったことは悪い事ではなかったのかも……」

「私が、思いつめていた?」

 思い詰めるような事があったかしら?


 確かに貴族の生活は窮屈ではあるが、私は教会の後ろ盾もあり結構自由に出来ていると思う。

 家の事を思うと、ある程度の自制も納得しているし不満というほどではない。

「ええ、噛みつき男の事件の後くらいからでしょうか」

「噛みつき男……」

 頭がズキンと痛んだ。


 王都で騒がれた女性の惨殺事件、タウンハウスに押し入られて兄とラーラがいなければ私の命も危なかった……。

 何だか頭に霧がかかったようにぼんやりとした外枠のような事しか思い出せなかった。


「あの赤毛が死んだ後、随分思い悩んでましたよ。まあシャルロッテ様はお優しいからあの男が死んだ事に責任を感じてたんでしょ?」

「責任を……? 私が? 噛みつき男は赤毛なの?」

「え? そこから忘れちゃったんですか?」


 アリッサが言うには、私と噛みつき男はある程度懇意にしていたように見えていたという。

 私と兄に一芝居を打って取り入る事に成功して、エーベルハルトのタウンハウスに住まわせてもいたのだと。

 その男は随分私に好意を寄せていたけれど、それは女性にというよりは家族に対する親愛のようなものであったのだと。


 それを聞いても何一つ私にはピンとこなかった。

「どうも赤毛の事が問題で、それを忘れたから元気になったってとこですかね」

 アリッサが言うからにはそうなのだろう。

 私はその男について思い悩み、それで黒い雄牛様に誘われてあそこから逃げ出したようだ。

 そうならやっぱりいい神様なのかしら?

 私が悩んでいたから助けてくれたの?

 でもアニーの事を考えると善良とは言えないし、神様も人と同じで良かったり悪かったりするのかしら?


 兎に角、私は思いつめていて誘いに乗ったのだ。

 だけれど、どう振り返っても洞窟で目が覚めた時に自責の念などはなかったし、悩ましさも感じてはいなかった。

 記憶を失ったのは偶然というか、私と黒い雄牛様の魔術の相性が悪かったせいだけれど、それは結果的に私にいい影響を与えたのは間違いない。


 赤毛の噛みつき男はどんな人だったんだろう。







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