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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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622話 崩落です

「アリッサ? そこにいるの?」

 砂埃の中、問いかけると近くから返事がした。

「ええ、ここにいます。怪我をしたお嬢さんも私が保護してますよ。あいつ、ここがバレるのが嫌で崩していったんだわ。本当ろくでもない。シャルロッテ様、大丈夫ですか?」

「大丈夫……、ええ、大丈夫……。大丈夫なのかしら……。アニーとグーちゃんが……」


 私は混乱したままだった。

 何故、グーちゃんは黒い雄牛の手を取ったの?

 意味がわからなかった。

 離別がこんな風に訪れる事も何もかも理解出来なかった。

 泣きたくなったけれど、カトリンの様子も心配だ。

 泣き崩れている余裕などなかった。

「これ、奥に道が続いてますね。私の服の端を掴んで下さい。案内しますね」

 どうやらこの暗闇の中でも、私意外は夜目がきくようで不自由はしないようだった。


 暗闇の中を歩く。

 アリッサが前を歩いてくれるお陰で、難なく闇を進んで行ける。

 ひとりで洞窟を彷徨った時を考えれば、至れり尽くせりだ。


 足元の状態が悪ければ教えてくれたし、何より道がある程度整っていた。

 ここも昔に人の手が入っていたのは幸いだ。

 転ばない様に気を張っていれば、2人が去ってしまった事を考えないで済むので、少し気が楽だった。

 もし、あそこでこの子達が現れなかったら私はひとり残されたかと思うとゾッとする。


 そういえばグーちゃんが何日か前から外を気にしていたし、ラムジーの小屋へ侵入した後にも誰かが私の事を見ているような事を言っていた。

 あれはアリッサ達の事だったのか。

 ずっと隠れて見ていたのだろうか?

 今日もしきりに後ろを気にしていたのは、彼女達がついてきていたのを知っての事だったのか。


「あなた達、いつから鉱山に来ていたの?」

 仔山羊が、めえっと返事をした。

「……、少し前です」

 アリッサが歯切れ悪く言う。

「来ていたなら、教えてくれたら良かったのに」

「そんな……。出来ませんよ」

 何となく重い口調だ。


「どうして? 合流出来ていたらグーちゃんとアニーを紹介出来たのに。いい子達なのよ。それに鍛冶屋も出来る猟師さんにも。きっとみんな歓迎したわ」

「……、その姿は私達から、身を隠す為でしょ? シャルロッテ様がそう望むなら、私達は見守るしか……」

 再会してから、何だかアリッサが遠慮がちというか悲しそうというか、距離を感じていたのは勘違いではなかったようだ。


 考えてみれば、連絡もしないで外見を変えてここで楽しく生活しているのを見たら、そうとられてもおかしくない。

 もし、そうだとしたら簡単には私の前に出られないだろう。

 アリッサは私が庶民的なところも知っているし、侯爵令嬢の立場から逃げて、鉱山で隠れ住んでいたと思うのは当然の事かもしれなかった。

 置いて行かれた彼女達を思いやらずに、自分だけ楽しんでいたことに申し訳ない気持ちが湧いてくる。


「この姿はどうも黒い雄牛様の魔術のせいらしいわ。私とは相性が悪くて記憶が曖昧になってるの。訳あって小さなアニーの面倒を見る事になって、ここで働く事になったのだけど、それも雄牛様が手を回してくれたのよ」

「じゃあ、この状況はシャルロッテ様が望んだことではないんですね? 私達を置いていったのは逃げる為じゃなかったんですよね?」

 アリッサは何度も私に確認した。


 置いていかれた気持ちが今ではよくわかる。

 何はともあれ、最初にしっかりと説明をすべきだったのだ。

 自分がアニーとグーちゃんに残されて同じ境遇になったせいで、彼女達の心痛をやっと理解するなんて私もちょっと無神経だわ。


「あのろくでなしがシャルロッテ様を連れて行った時あなたは、ちょっと神様に呼ばれて出掛けると言って私達を置いていったんです」

 黒い雄牛の名前が出たせいか、アリッサはぷりぷりと怒り出した。

「しかも、私達はずっとあいつの魔術で置き物みたいにされてたんです! ああ、気が済むまで殴りたかった!!」

 暗闇の中で、ゴンッと音がした。

 どうやら、拳を振り回すか蹴りでもして怒りを紛らわせているようだ。


 それにしても置き物だなんて、そんな扱いをされていたなんて思ってもみなかった。

「それは怒っても仕方ないわね。悪い神様ではないと思うけど……。いえ、悪いわよね。そうね、神様だからって、信用に足るとは限らないんだわ……。性格もアレだし……」

 アニーとグーちゃんを連れていかれたというのに、私は何を言ってるのだろう。

 悪いに決まっている。

 神様という存在に、目が曇ってしまっていたようだ。


 洞窟に置き去りにされたり、嫌がらせをされたというのに何故悪くないと思っていたのか。

 元の世界の神様の息子だからと、ちょっと風変わりなだけだと好意的に受け止めていたのかもしれない。

 見た目も見惚れる程の美形だし、少し言動がおかしくても、その造形の美しさに惑わされてしまっていたのかも。


 見た目で誤魔化されてしまうなんて、自分の駄目さに呆れてしまう。

 それに、私が姿を消した後に、そんな事になっていたなんて。

 侯爵家の事は、どうにかしてくれていると安心していたのに、どうなっているのだろう?






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