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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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605話 蚕食です

 新鉱脈が見つかり鉱山を再開するにあたって、管理しやすいように奥から番号をつけ直したのだという。

 手当り次第掘った穴は管理が甘く放っておかれ、元からある坑道の体裁をとっているものも掘った順にナンバリングされていたので、バラバラの並びだったそうだ。

 流石にその状態では支障が出るのである程度の秩序の為、整理されたのだ。


 この山で最初に掘られた一番古い坑道は、現在の5番坑道。

 それがこの鉱山の始まり。


 そこは古くてすっかり掘りつくされたはずなのに、その奥は水晶の棲家になっているなんて。

 誰も気付かなかったのかしら。

 それとも放置されてから朧水晶が湧いて出たとでもいうのか。


 どちらにせよその旧い坑道の朧水晶を、どうやってアニカ・シュヴァルツは見つけたのかしら。


 そういえば棲家だなんて変な言い方ね。

 鉱床なりなんなり別の言い方があると思うのだけれど。


 棲家だと朧水晶が生きている存在みたいだわ。

 まさか水晶になった人間が生きている?

 実際、夫人は幽霊なのか分からないけれど意思がある。


 では、朧水晶から時折聞こえる高い音は、その身を削られた悲鳴だとでもいうのかしら。

 自分のその想像に、ぶるっと寒気がした。


 体が水晶に変わって人でなくなっていくのを味わいながら死ぬのは悪夢だ。

 もし、それでも死ぬ事はなかったら?

 人がぐーうになるように、水晶生命体とでも言うべき種になっただけだったら?


 水晶の塊である体は出荷されて、人の手で手頃な大きさに刻まれ、あるいは宝飾品へと加工されるのだ。

 痛みに苛まれながら、生きたまま。


 そうして国中に生きた破片と悲鳴が散らばって、夢でまた人を呼ぶのだ。


 朧水晶を増やす為に。

 自分と同じ存在を増やす為に。


 朧水晶は、好き勝手に売られているのではなく、「彼ら」が増える為に、その身を切らせて人の手に渡っているのではないか。


 そうして、知らぬ間に人は朧水晶に侵食されて……。


 嫌な想像だわ。

 きっと5番坑道に近付いているから、変に考えてしまうのだ。

 これでは侵略でないか。

 水晶に社会を乗っ取られるなんてありはしない。

 時間が掛かりすぎで不効率で気の長い話だ。


 でも本当にそうかしら?

 水晶にとっては100年、200年も1000年も変わらないのではないだろうか。

 何せ鉱物なのだもの。

 何万年でも横たわっていられる。


 朧水晶が世間に広まったら、もしかしてこの鉱山以外でもゆっくりと人に影響が出るようになるのではないだろうか。

 それはさながら、蚕がちみちみと桑の葉を食んでいくかのように。

 浸食され気付けば逃げ場もなく、そうして知らぬ間に水晶と化して……。


 水晶に埋め尽くされた世界。

 そこかしこに水晶が生えていて煌びやかに瞬くなら、それは素晴らしく綺麗な光景だ。

 静寂と輝きの世界。


 そうなったとして、それを見て称賛する人がいなければ綺麗も何もないわよね。

 いや、夫人のように意識があったら、自画自賛しそうではあるけれど。


 そんな馬鹿みたいな事を考えるうちに、20番台の坑道に着く。


 現鉱夫の仕事場。

 骸骨水晶の養殖場。

 朧水晶の影響を受けてもおかしくない場所。


 鉱夫達の出入りがあるせいか、生活感が漂っていた。

 工具置き場や木箱や掘り出した石や土の山が、ここが仕事場であると教えてくれる。

 何の鉱石も出ないにせよ、鉱夫達をこの場にいさせる為に一応掘らせているのは本当だったようだ。


 朧水晶の影響を受ける場所と言われても、特に気分が悪いとか、体調に異常は出なかった。

 強いて言うなら、ラムジーの話を聞いているから気分的に晴れやかでないくらいか。


 ブラジルかどこかの廃病院で放射線治療器が盗まれた事件も、取り出した青白く光る粉末が綺麗で周りの人間に見せたり配ったせいで被爆犠牲者が増えたのよね。

 その時もすぐに昏倒したりという大きな変化は起きなかったから、被害が大きくなったのだ。

 その脅威が目に見えていたら、そんな事にはならなかったはずだ。

 見た目が綺麗で嫌な匂いもしないものに、人は無防備なのである。


 ここも何ヶ月も掛けて骨から水晶にするのだから、この場所ではまだ早々に知覚出来る症状は出ないのは当然の事かもしれない。

 鉱夫達も毎日元気に仕事に出て、夜は食堂でさわいでいる。

 ラムジーは、骸骨水晶の為にゆっくりと慎重に育てるようにしているのだ。


「グーちゃん、いる?」

 私は辺りに人気がないことを確認してから声を掛けた。

 頭上からガサッと音がしたかと思うと、落葉と共に上からグーちゃんが飛び降りてきて着地した。


 しかも、アニーを抱いたままだ。

 頭上にいるなんて思ってもみなかったので、驚きで言葉を失う。

 こんなにも運動神経が優れていたのね。

 でもこの先へは連れてはいけない。

 何があるか分からないもの。







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