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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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598話 作り方です

「骨……、水晶? 育てる?」

 何を言っているのか分からなくて、聞き返してしまう。

「丁度いいタイミング取り出せたら、後は血を洗うだけで商品だからな。これこそ誰にも作れない美というものだ。ん? あんた知らないのか?」

 彼は、意外そうな顔をして私を見た。


「何を……、おっしゃっているのか……」

 話が突飛過ぎて、適当に合わす事も出来ない。

 ここは無知で通すしかなかった。


「ヒヒッ、悪いね。ペィオアルトルが連れてきたっていうから、てっきり全部知ってるのかと思ってたよ」

 ああ、この人は私が何らかの関係者なのだと思い込んでいたのだ。

 だからこそ無断で私がここに入り込んでいても、拘束したり追い出したりせずに語っていたのだ。


 いや、もしかしたら全くの無関係であったとしても、語っていたかもしれない。

 公に出来ない自分の手柄を、誰かに言いたくて仕方がないという風なのだもの。


 こんな鉱山では、話し相手も事欠くだろう。

 彼は社交的な感じではないし、グンター以外と話しているのをみていない。

 呪術師だと仮定すると、裏町住みとはいえ王都の貴族相手に仕事をしていたのだから、良きにしろ悪きにしろ評判は高かったのだ。


 そんな人間が人里離れたこの場所でひっそりと暮らしているのなら、承認欲求が高まっていても仕方がないだろう。


「あの、詳しい事は何も聞かされてなくて……。その、どうやって朧水晶は出来ているんですの?」

「さっき言ったじゃないか……」

 ふぅっと、ため息を漏らす。

 出来の悪い生徒を目の前にしている教師のように。


「詳しく言うとな、5番坑道っていう使われなくなった廃坑道が肝なんだ。あそこが水晶の棲家でな。5番坑道に生きた人間を入れると1、2日で体から水晶が生えて立派な群晶の塊になるんだ。人ひとり分の塊が幾らになるか知ってるか? あんた」

 人を金額に置き換えた事も、同等の水晶の値段も考えた事がない。

 聞かれても首を振るしか出来なかった。


 そもそも彼は、返事など求めていないかもしれないが。

 まるで講演会のように、声を張り身振り手振りを交えて話している。

 忌まわしい、人と引き換えに手に入る水晶の話を。


「最初はそうやって作ってたんだが、短期間に人が消えていくせいで、呪いだなんだと人を集めるのが難しくなってな。あまり量を増やしても値段が下がるだけだからってことで、量産しないことにしたんだ。最近は高値のつく骸骨水晶をゆっくり時間をかけて作ってるんだ。5番に近い坑道に鉱夫達を毎日何時間か置いとくだけで、徐々に骨から水晶になるんだ。元々硬いから水晶になりやすいんだろう。で、頃合をみて骨を取り出せば、立派な骸骨水晶だ。そこを見逃して肉が水晶に変わり出すと段々動きが悪くなる。そうなったらそのまま5番に放り込んで、丸ごと水晶にして出荷だな」


 信じられない事をペラペラと語っている。

 頭蓋骨だけ売れなくもないけれど、相当値を吊り上げないと、人間丸ごと水晶にする方が利がいい事や、水晶にする為誘い出した鉱夫の持ち金も結局は回収するので高い賃金は無駄にならないとか、そんな資金のやりくりの話までしている。

 相当話し相手に飢えているのだ。

 彼にとって、鉱夫は売り物でしかない事がよく分かった。


 人を水晶にする。

 そんな事が起こりうるなんて、思ってもみなかった。


 朧水晶は従来の水晶よりも硬度が低いと聞いた覚えがある。

 古参の鉱夫達に骨折した人が多かったのは、骨が水晶に変質したせいなのか。

 骸骨水晶として使えない彼らは、遠からず5番廃坑に入れられて出荷される運命なのだ。


 目の前の男は呑気に、一度に何人も消えると鉱夫が騒ぎ出すので、加工する時期をよく考えなければいけないと真剣な面持ちで説明している。

 その為、骸骨水晶が採れるのは、本当に難しいのだと真面目な様子で語った。


 楽な仕事に豪華な食事、思考を鈍らせる酒に、女を抱かせて歓待すれば誰も危険を感じない。

 呪いへの畏れを持っていても、その待遇に危機感はたちまち鈍化することだろう。


 さながら彼らは真珠貝である。

 貝が海の中を揺蕩い身の内でゆっくりと美しい宝石を育てるように、人という肉袋の芯を水晶へと変えて育てるのだ。

 鉱山とは名ばかりの養殖場である。


 朧水晶の棲家では人は汚染されてすぐに水晶になり、ある程度距離があれば、ゆっくりと放射線に晒されて被曝するように、本人が気付かないままその身を変化させるのだ。

 目の前でこの抜け殻を見ていなければ、信じられない事だ。

 毎日、指示されてそんな場へ行かされているなんて。


 人を人ならざるものへと変える。

 それはぐーうを思わせた。

 ゆっくりぐーうになる者と、すぐにぐーうになるふたつの方法。

 朧水晶はそれとよく似ている。

 命を失わないだけぐーうの方がいい。


「骨に有難がって高い金を出すなんざ、いい笑い話だろ」

 そのいやらしい笑みは、優越感から来ているのか。


 彼にとっては水晶も骨も同じなのだ。

 それを取り出す自分の手腕を誇り、大枚をはたいて欲しがる無知な貴族を侮蔑している。

 実際には人体を解体しているだけなのに。


 美しい朧水晶を有難がって高値で買い込んだ彼らが、それが人を材料にしていると知ったらどうするのだろう。






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