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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第二章 シャルロッテ嬢と悪い種

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61話 研究室です

 王子とナハディガルが手を回してくれたお陰ですんなりと研究棟へ入ることが出来た。

 学院の校舎とは違い、歩いている人が極端に少ない。

 詩人は勝手知ったるという感じで迷いなく進んでいき、ある部屋の前で止まった。


 詩人が扉を3回ノックをする。

 面白いものでノックの回数で身分を中の人に知らせることがままあるのだ。

 1回は下流階級ロウワークラスが入室を乞うノック、2回はメッセンジャーや代理人、3回は家人や親しいもの、4回は上流階級(アッパークラス)を表すそうだ。

 こういう風習は堅苦しくはあるがノックで判別出来るのはなかなか合理的なのではないだろうか?

 1、2回であれば着席して仕事をしたまま入ってもらえるし、3回も気を遣わずに出られる。4回ともなれば姿勢をただし身だしなみを整えてから迎えることが出来るのだから。

 そんな訳でナハディガルのノックから中にいるのは彼にとっては親しい人間であることがうかがい知れた。


 中からゴソゴソとこちらに近付く音がしてくる。

 途中物にぶつかる音や舌打ちが聞こえてきた。どうやら内部は散らかってそうだ。

 しばらくして扉が音を立てて開いた。

「やあギル、お邪魔するよ」

 ナハディガルがギルと呼んだのは、伸び放題の白い長い髪と髭で顔面が覆われたもっさりとした眼鏡の男であった。まるでサンタかイエティの様だ。

「雪男みたい」

 失礼ながらこの世界に来てここまでだらしない人間を初めて見たせいでつい言葉に出してしまう。

初対面で紹介もされていない相手に言う言葉ではない。

 しまったと思い口に両手を当てると、そこにいた男どもがみんなで声を上げて笑い出した。

「ぷふ。シャルロッテいくらなんでもひどいよ」

「さすが私の姫君、雪男とはなんとわかりやすい表現をとるのでしょう」

 本人も気にするどころか感心したように話し出す。

「ふむ、確かに僕の有様はそう表現するのが的確だね。知っているかな? 通常雪男と呼ばれるのは白い毛を持つ寒冷地の魔獣だけれど、もう一つ存在するんだ」

 雪男の声は意外にも若く驚いてしまった。

「わかりません。なんですか?」

「それはウェンディゴと言われる神話生物と称されるものだ」

 眼鏡がキラリと光った気がした。

 神話生物、ナハディガル以外の人間からその言葉が出るのは初めてだ。

「さてナハディガル、『姫君』、『シャルロッテ』と呼ばれるこの坊やの格好をした少女の紹介をしてもらおうか。そちらの少年の事もだ。紹介されなければ自由に話も出来ないなんて古臭い慣習は好きではないがとっとと済ませてウェンディゴの話をしてあげよう」

 あ、ちょっと待ってといいながら部屋に入るとドサドサと物が落ちる音がして埃っぽい本を持って戻ってきた。

「ウェンディゴを説明するにはこれがいいんだ」

 目を輝かせながら本をパンパン叩いて埃を払っている。

 不快な思いを顔に出してはいけないと我慢しながらも埃を吸いたくないのか王子は顔を背けている。

「ギル、とりあえず中に入れてくれ。廊下だと誰が聞いているかわからないからな」

 詩人の口調がものすごく普通でちょっと面白い。


 先ほどからの様子で分かる通り部屋の中はごった返していた。

「廊下の方が空気がいいし、客人にはいいと思ったんだけどね」

 程よく広い床には資料やら本が積まれて山になっている。なんとか歩を進める場所があるかというところだ。

 壁には作り付けの本棚があり、そこにも雑多な紙や本などが押し込まれてところどころには見たこともない動物の骨や植物標本などが置かれその怪しさは魔女の家の様だ。

 王子は片付いていない部屋を見たことがないのかキョロキョロと興味深げに辺りを見回している。

 打ち合わせに使う為かこちらも備え付けだと思われる応接セットが部屋の一角に置かれていた。

 ナハディガルとギルが私達が座れるようにその上に置かれた荷物を片付けようとしているが要領が悪くてもたついている。

「ああ、もうどいて下さい」

 じっと黙って見ているのに耐えきれず私は二人を押しのけてソファとテーブルの上の物を片付けていく。

 本や資料は一見散らかした形であるが彼なりに分野ごとにまとめているのは分かったのでそのルールを守ったままわかりやすく開いた場所に移す。ついでに締め切った窓も開けて空気の入れ替えだ。

 よくこうして子供が散らかしたものを片付けていた。部屋が散らかってても大まかなものどこにあるか子供なりに把握していたようで文句を言われない様わかりやすく片付けるのは得意だ。

 男3人があっけにとられている中、すっかり応接セット周りは綺麗になった。

「なんでもまとめておいて置けば良い訳ではありませんよ? 無駄に汚したり埃をかぶらせて本や資料が痛んだら後で悲しいですよね。ちゃんと片付けなければいけません」

 本好きの性がつい雑に扱われた本をみると怒りが湧いてくる。

 ここにあるのは紙だけでなく皮や木製の装丁の物もあり、定期的に専用脂を塗りこむ様な、より扱いには気を付けなければならない代物もあるのだ。

 あっけにとられながら詩人が私達の紹介をはじめた。

「とりあえず紹介をしようか。こちらフリードリヒ・リーベスヴィッセン王太子殿下と私の桜姫シャルロッテ・エーベルハルト様だ。こいつはギルベルト・アインホルン。私の同級生です」

 なんと詩人と同い年なのか。人間本当に見た目は大事である。

 初めて会うのは確かなのだけれど名前に覚えがあった。

 どこで聞いたのだろうか。思い出せない。

「おいおいおい、普段詩で食ってる君が何故こういう時に限ってそんなあっさり紹介してすまそうとするんだい? 待て待て、僕と話がしたいというのはこの二人なのか? 好奇心旺盛な子供二人といったじゃないか!! なんで王子と侯爵家の姫がこんなところに!」

 どうやら詩人は私達の身分を明かさずに今日の約束をしていたらしい。

 そりゃあ驚くだろう。

「しかも桜姫といったら君が入れあげている少女じゃないか! 何故少年の格好でこんなところにいるんだ! いやいやいや、それどころか姫君に掃除をさせたと知られたらどんなお咎めがあるのか」

 混乱しているようで早口で詩人にまくし立てている。

「お二人は、特に桜姫なのだが彼女は神話関連の生物に3度遭遇していてね。是非君の知識が必要なんだ」

 ナハディガルがそう言うと、ギルは私の方をまじまじと見つめた。

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