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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人
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591話 綺麗な場所です

 カトリンは男の事よりも、皆が同じ夢を見ているかもしれないという不可思議な出来事に気をとられてしまったようだ。

 気に病むよりはいいけれど、油断はしないでほしいのだけど。


 実際に怪異に会う事は珍しい事なので、それに夢中になるのも仕方がないかもしれない。

 しかも、記憶がないだけで自分も当事者であるかもしれないというこの状況は、好奇心をくすぐられても仕方がない。

 夢という現実ではない眠っている間の事なので、余計に怖さも減っているのかもしれなかった。


 だが、もし心が弱って夢を真に受けて、その男が実際にカトリンを連れてその眩い場所へ行こうとしたら?


 いつもいた人が、ある日突然いなくなる。

 それは現実の怖いことだ。

 それが人外のものが原因だとしたら、人には対処しようがないではないか。

 もしかして、逃亡したという鉱夫達は皆そこを目指していたのだろうか。


 なんだって夫人はいろんな人を夢で誘っているのだろう。

 よくある怪談話のように自分の死体を見つけてもらいたい訳ではないわよね。


 ああ、理由は一緒にきれいなものになるためなんだっけ?

 大体きれいなものってなんなのだ。

 死んでいるというなら、安らかに眠っていて欲しい。


 よく分からないけど、夫人にはまるで悪気がないのだ。

 罪を悔いた夫人が何かわからないけれど綺麗な輝くモノになったから、他の人も誘っているのだもの。

 良かれと思ってやっているのだ。


 それは悪意のない呪いのようなものだ。


 一体それがどこにあるのだろう。

 まさか天国とか死の世界とかではあるまい。

 それなら「枯れた花」を届けろなんて言わないわよね。


 鉱山にあるとしたら、それはどこだろう。

 ここで綺麗な場所なんて、花畑とか景観のいい所?

 緑深い森林だって綺麗だ。

 あまりに主観的すぎて場所を絞るところではない。


 ただ思うに、この鉱山で1番綺麗なのは朧水晶の鉱床ではないだろうか。

 伯爵邸で見たあの大きな朧水晶。

 暗闇の中でほのかな光を放ち、揺らぎながら煌めいていた。

 それはまるで密やかに命をもったように……。

 あの美しい石が乱立して洞窟で輝いていたとしたら、それは溜め息が出る程美しいだろう。


 私は頭を振った。

 朧水晶の鉱床で夫人が死んでいるなんて、荒唐無稽だ。

 水晶の取れる場所に死体があっても邪魔なだけではないか。

 貴族の資産であり資金の元となる場所に死体があるなんてとんでもない。


 とんでもない?

 本当に?


 朧水晶を坑道から運び出してるのはグンターだ。

 しかも雨の日に。

 雨の日は夫人の夢を見ないということは、彼女は力を出せないということではないかしら。

 そしてグンターは駆け落ちしたと言われている夫人の死を知っている。


 妄想なのに、点が繋がってしまいそうだ。

 それだと夫人の夢に誘われて、坑道の奥の水晶の洞窟に行方不明者が詰めかける事になる。

 そんなことになったら採掘作業の邪魔なだけだ。

 もしそこに死体があれば、ゴミ穴ではないけれど死体の腐臭で採掘どころではないではないか。


 変な想像を切り上げようとしたけれど、上手くいかなかった。

 辻褄があってしまうから。


 朧水晶の場所は秘匿されててグンターしか知らないのよね。

 鉱夫達は掘削していても水晶が出ないと行っていたから、掘っているのは別の場所なのだ。


 私は夫人に頼まれた「枯れた花」を届けに、いつかそこに行くはめになるのだろうか。

 行きたくないと言っても彼女は納得しないだろう。

 聞く耳を持たないどころか、会話になるかも怪しい。

 基本的に夫人は自分の話したい事しか言う気がなさそうなのだもの。


 夢の話ではしゃぐカトリンを見送ってから食堂の仕事を終えて、鍛冶小屋へと足を運ぶ。

 前使っていた小屋はジーモンが早々に戸を直してくれたけれど、結局はそのままお世話になっている。


 倉庫のような小屋よりも居心地がいいし、なによりアニーがジーモンに懐いてしまったことが大きい。

 鍛冶小屋に移ってから、アニーはすっかり落ち着いて精神的にも安定している。

 言葉も増えてきたし、食欲もあるようで顔色も健康的だ。


 最初に会った時の様子が嘘のようだ。

 体力もついてきたせいか今では水汲みや食事の配膳を手伝ったり、簡単な手伝いが出来るようになっている。

 ジーモンがアニーとグーちゃんに木彫りの動物を彫ってくれるので、暖炉の上がさながら動物園のようになっていた。

 それがまた2人には嬉しい事だった。


「シャウ」

 鍛冶小屋の手前で珍しくグーちゃんに声をかけられた。

 辺りを見渡すと誰からも見られないように、木陰から顔を覗かせていた。

 この辺まで来る人間はいないので、前よりものびのびと暮らしているようにみえる。

 身を隠しながらもグーちゃんの活動範囲と活動時間は広がっていた。


「ただいま、グーちゃん。どうしたの?」

 木陰から一向に出てこようとはしない。

「ちょっといいだしか?」

 どうしたというのだろう。

 話があるというので、私は彼に誘われるまま木立の中へ入っていった。





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