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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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589話 先のことです

「ねえ、ロッテ婆。例えば私も料理が出来るようになったら店をもてる?」

「うーん、どうかしら? どちらにせよ十分な資金が必要よ。あのロルフだって今は雇われでしょ?」

「そっかあ。酒場の女給もいいけど、酔っ払いは好きじゃないの。すぐに怒鳴ったりするし」

 ここのところの彼女は、娼館を出たら何をするかを考えているようだ。

 実家には絶対に帰るなと同僚のお姉さんに言われているそうで、その点は少し安心する。


「ロッテ婆みたいに薬草に詳しかったら、薬屋になるのにな」

 大きくため息をついている。

 侯爵令嬢の時には思ってもみなかったけれど、私が薬屋をやるのも悪くない。

 大聖堂の薬草園に出入りして知識も付けているもの。

 重篤な病にはお手上げだけれど、日常生活の些細な怪我や病気になら対応出来るものね。

 村の小さな薬屋さんという生き方もいいのではないだろうか。


 将来を夢見るのは自由なのだ。

 こうなった私にも、カトリンにもいろいろな可能性があるはずだ。


「本当にやりたいなら、今から勉強して目指すのもいいかもしれないわよ。文字さえ読めれば空いた時間に薬草学の本で勉強できるし」

 本は贅沢品だし専門書はそれ以上に希少だけれど、知識を得るだけでなく資産としての価値もある。

 なにより記憶だよりであやふやな事がなくなるのだから。


「うーん、そうなんだけどね。それじゃあ食べてかれないでしょ」

 薬師については薬草園の修道士達から話を聞いたことがある。

 薬屋で住み込みの助手になるのが一般的な薬師のなりかたなのだそうだ。

 そして商工組合(ギルド)で試験後、開業許可をとって一人前になるのだという。


 ただ、それだと師事する薬師の当たり外れが大きい。

 それに大概が子供の時分から住み込みを始めるそうで、空きもなかなかないらしい。

 現在成人しているカトリンには難しいだろう。


「それなら修道院の薬草園で、お手伝いしながら本草家を目指すとかはどうかしら? 修道女の皆さんと共同生活で贅沢は出来ないけれど、衣食住は面倒みてもらえるようだし、薬草の勉強ならもってこいよね」

薬師が薬の製造と販売なら、本草家は薬草の採取と販売である。

その片手間に薬の製造も許されているので、薬草の採取で遠出をする事もあるので流れの薬師として店を構えない形でも商売しやすいのだ。


「修道院……」

「確か修道女見習いとかあるはずよ。何年か務めた後、そのまま教会や修道院勤めになる人もいるし、俗人に戻るのも本人次第ではなかったかしら?」

 カトリンの目が輝いた。

 どうやら興味があるようだ。


「修道院って厳しいの?」

「私も詳しくはないのだけど早起きしたり、自分達で掃除洗濯したり畑仕事や神様へのお勤めとやる事が多いんじゃないかしら」

「じゃあ、今とあまり変わらないのね。修道女と娼婦も同じようなものなんだ。男に抱かれない分そっちのが楽ね」

 カラリと笑いながら、悪びれなくそう言った。


 彼女の意見は乱暴なものだけれど、確かに共同生活で衣食住の確保が出来てと、共通する所は多そうだ。

 まあこんな戯言、教会の関係者の耳に入ったらとんでもなく怒られてしまいそうだけど。

 古来、神殿で巫女が売春する神殿娼婦なるものもあったらしいし、カトリンの意見は無邪気さ故に的を得ているのかもしれない。


「そういえばしつこい客がいるの」

 すこし悩まし気に眉をよせる。

 どうやら今日の本題はこちらのようだ。


「カトリンが魅力的だからね」

「ふふ、ロッテ婆にそう言われるのは悪くないわ」

 魅惑的な表情だ。

 娼婦の一面が垣間見えた。


「前に私殴られて寝込んだじゃない?」

「ええ、まさかその相手が?」

「うん……」


 信じられない!

 私は怒りで目の前が白くなりそうだった。


「まあ! やっぱりあれでは、生ぬるかったのね!! テオに言ってもっと懲らしめてもらわないと!」

 私の剣幕にカトリンが驚いている。

「待って、待って! 違うの!」

「何が違うっていうの? いいわ、なんならオイゲンゾルガー伯爵に頼んでみるわ。泣き寝入りなんかしてたまるもんですか」

「違うんだってば!」

 憤る私を落ち着かせるように、彼女は私の腕をひっぱった。


「あのね、あの人あの後すっかり大人しくなったのよ。私に謝りに来てくれたし、その後も通ってくれてるの」

 カトリンの話を聞くと、それはとても妙な話だった。


 テオによって一晩廃坑の縦穴に放り込まれた男は、すっかり毒気が抜けたどころか気が弱くなってしまっていたらしい。

 その有様は仲間の鉱夫達も呆れる程で、男は怯えながら化け物にあったとか妄言まで吐いていたそうだ。


 カトリンへ謝罪に来た時も、もう別人のような様子で許す許さないの前にまるで別人のようにしおらしくなった男に呆気に取られる程だったという。

 それから彼女の元に毎晩通っているそうなのだが、それが何もせず横で寝ていくだけなのだという。

 

 確かに奇妙だけれど、なにがしつこいというのだろう。




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