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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第二章 シャルロッテ嬢と悪い種

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60話 学院です

 店を出て詩人に礼をもう一度言う。

「ナハディガル様、先ほどはありがとうございました。助かりましたわ」

「急な買い物でしたしね。あれくらいであなたの感謝が得られるのならば私はあの店まるごと買ってもよかったのですよ」

 やはり彼も私が財布を持っていない事をわかっていたのだ。

 貴族の女性というのはそういうものなのだろうか。

 宝飾店ならエーベルハルトの名前を出して屋敷に品物を届けさせてそこで支払ってもらうなど出来たのだろうけど、さすがに筆記具とメモ帳ではその手を使う気にはなれない。

 店員が気を利かせてシンプルながらもリボンを掛けてラッピングをしてくれていた。

 これはいい買い物が出来たと思う。


「フリードリヒ殿下もありがとうございます。私初めての買い物体験でしたわ。とても楽しかったです。学院に入るのが楽しみです」

「それはなによりだ。意外な買い物だったね。君が使うのかい?」

「いえ、侍女のソフィアが最近よくメモを取るようになりましたので、プレゼントしようと思ったのです」

 プレゼントというにはちょっと色気がないものだったかもしれないと思ったが王子は納得したようだった。

「君の侍女に教育をしていると執事から聞いているよ。なかなか良い生徒だそうだ。これは必要なものだし、きっと喜んでくれるよ」

「そういってもらえると安心ですわ。ソフィアまでお世話になってしまって王宮の皆様方には感謝しかありません。ナハディガル様に支払っていただきましたので私とナハディガル様からのお土産という事にしましょうか」

「なんと桜姫と初めての共同作業とは感慨深いですね。王太子殿下の提案に乗ってこれほど良かったと思う事はありません。感謝申し上げますぞ」

「ではそこに私の名前もいれてもらおうかな? 王太子の勧めで買い物にいってお土産を買ったとね」

 詩人が嬉し気にしているのを見て王子が茶々を入れる。

 この二人はなんだかこんなやりとりばかりして仲が良いのか悪いのか。

 元々はさほど話したこともなかったそうだが、私と3人でいる事が増えたせいかお互い遠慮がない感じになっている。

 王子にとってはきっといい事だろう。イエスマンに囲まれては賢い人も愚者になりがちだもの。


 赤いレンガが特徴の塀を横目に馬車は走る。

 ほどなく大きな鉄製の門が現れて門番の許可が出ると馬車のまま乗り入れた。

 監視カメラや警報器などがないので、どこへ行くのにもまず身元確認に門番で止められるのは面倒なことだ。

 セキュリティは人力に頼るしかないのだが、望楼(ぼうろう)が各所に建てられていて遠くを見渡して警備をしたり、塔の上に設置された鐘を叩いて、事を周囲に知らせるのは不便だがなんだか風情を感じられて好きな光景だ。

 学院の正面玄関に馬車を付けてようやく到着である。

 赤レンガで作られた王都学院、別名赤の学び舎だ。

 もちろん街から徒歩で門をくぐり、ここまで来るのも可能であったが男装したというのに思った以上に学院へ通う生徒からすると私は小さいらしく悪目立ちをしてしまうということでその手段は使えなかった。

 もっと街歩きを楽しみたかったのだが、それは別の機会を待つしかない。

 昼過ぎということでちらほらと学習を終えて寮や貴族街へ帰る生徒達が散見される。

 お忍びながらも王子っぽい少年に、通うのには小さすぎる子供、その付き添いに背の高いイケメン紳士というまったく忍ぶ気配のない私達を遠巻きに生徒たちは眺めていた。

 学院では爵位に捕らわれず交流をすることを掲げているのだが、さすがに気軽に声が掛けられるものでもないらしい。

 生徒達とは違い職員達には私達の訪問が連絡してあったようで、こちらは見て見ぬふりをしてくれていた。


「すごく大きい建物なのですね」

おのぼりさん丸出しというように見上げてぐるりと建物を見る。

高い天井に華美にならない程度の装飾。

 貴族が通う学校というイメージより、どこかの大学のような落ち着きがありレンガの赤い色が妙に温かみを感じさせてくれた。

 特徴的なのは大きな時計塔の下部分が、正面広間となっており巨大な時計の下を毎日生徒たちは通っていることである。

 ナハディガルはさすが卒業生だけあって面白おかしく学院の説明をしてくれる。

 先輩がやらかした失敗やら教師に悪戯をした話、他愛のない学生生活の話は閉鎖された生活を送っている私には妙に魅力的に聞こえた。

 順調にいけば私も後4年後にはここに入学するのだ。

 南向きの正面玄関からそのまま建物内を北へ突っ切ると建物の外に出た。

 そこは庭になっており学生が気ままにスポーツをしたり、ベンチでしゃべっていたりと伸び伸びとしている。

 すました礼服の貴族がここでは皆一様に同じ制服を着て普通の子供のように過ごしている。

 この学校の良点のひとつを見た気がした。


 庭の向こうにようやく研究棟が見えて来た。

 やはり赤レンガで作られていて、学舎よりもシンプルな作りで、装飾はあまりなく中庭を囲んだロの字になっているそうだ。

 こちらも入口には警備員が配置されており入館のチェックを受ける。

 王都の頭脳を預かるだけあり、そのへんはしっかりしていた。

 こうやっていくつかの門番や警備員と遣り取りしていると、雇用拡大の意味もあって警備個所を増やしているのではという気になってくる。

 国としては多くの兵士を抱えたいが平和時には持て余してしまう。

 彼らを活用する為に訓練も兼ねて、いろいろなところに配置して有事に備えているのかもしれない。

 エーベルハルトでもそうだ。

 国境を預かる侯爵領は王国兵とは別に私兵団も必要となる。彼らは普段、軍事訓練、巡回警備に検問等兵士としての仕事にあたっているが、それ以外では土木作業などのインフラの充実に携わったり物資運搬をしたりと手広く従事している。

 平和時にも兵をどう活かすかが領主の手腕であるのだろう。

 機械が人にとって代わることにより便利にはなるが、機械化しないことで不効率でも血の通った業務となるのだ。

 こういう一見不便に感じることも人の営みを考えると必要なのではないかと思う様になった。

 私としては面倒ながらもこの不便さは気に入っているのだ。


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