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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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583話 計画です

 戦利品は廃墟のどこかに隠してしまえば見つからないし、仕事を辞める時に持ち出せばいいだけだ。

 この広い鉱山には廃墟が山ほどあって隠す場所には苦労しない。

 あの生意気な老女が鉱山支配人に訴え出ても、盗品が手元にない限り自分達が犯人だと知られる事はないのだ。

 とてもいい考えだと、男はほくそ笑んだ。


 いくら貴族の家から放逐されたとて、持つべきものは持っているだろう。

 歳を取っているしそれは大きな美術品ではなく、持ち運びが楽な貴金属ではないかと元々、目当てを付けていた。

 それならば隠すのも楽というものだ。

 そこまで話し合ってから、老女が連れていた子供の存在を思い出した。


 老女ひとりが馬に乗せらて伯爵邸へ向かったのは知っている。

 残された子供はどこかに預けたのだろうか。

 子供を預かりそうなのは料理人か娼館くらいか。

 どちらにせよ老女の小屋からは離れているので差し障りはないだろう。

 まあ、子供が小屋にいなければそれまでだし、もしいるなら、あの装飾品を取り上げてやろうと話は決まる。

 子供だというのに石の入った首飾りと指輪をこれみよがしにつけていた。

 追い出されたといっても貴族なのだから、散々いい思いをしてきたのだから、ここで痛い目にあっても仕方がないというものだ。

 空腹も暴力も知らずに生きてきたお貴族様に世間を教えてやるのも大事だろう。

 そう、その勉強料をちょっといただくだけだ。


 どうせまともに話せやしないのだから、顔を見られても問題はない。

 それよりも、あの無力な子供が自分の持ち物を為す術もなく取り上げられて泣く顔を想像して男の気持ちは昂っていた。

 弱い者、無力なものを踏みにじる時に、えも言われぬ万能感に浸る事が出来るのだ。

 その暗い欲望は鉱山で発散する場所がなかった。

 鉱夫達は筋骨隆々であるし、喧嘩の相手にするには分が悪い。

 燻っていた嗜虐心を満たすのに、あの子供はちょうど良いと考えたのだ。


 こんな辺鄙な場所じゃなかったら、人買いに売れたのにと下卑た笑いを漏らした。

 元貴族の子供なら娼館でも奴隷商にも割高で売れるものだ。

 どうせ売られた先で酷い目に合うのなら、元々頭に問題があってもいいだろう。

 どうにか攫って売り飛ばせないかと考えたが、それは難しそうだった。

 鉱山から子供を運ぶには道も悪いし、街までの距離が難問であった。

 自分で歩かせても背負って運んでも、追っ手に捕まるのは目に見えている。

 何より彼らは逃亡する気はなかった。


 どこかの廃墟に隠して遊ぶのも悪くない。

 玩具にして痛ぶって命乞いをさせて飽きて壊したら、見つからない場所に捨ててしまえば死肉を食べる獣が始末してくれるだろう。


 子供が居なくなった小屋を見て、あの生意気な老女はどう思うだろう。

 子供ひとり置いていくのが悪いのだ。

 暫くは捜索に人手を割くかもしれないが、見つけても1文の得にもならないのだから、早々に諦められるのは目に見えている。

 老女が泣き崩れるのも見物ではないかと、笑い合った。


 彼らに罪悪感などはなかった。

 元々、いい暮らしをしていた貴族なのだから何をされても文句はないだろうと心の底から思っていた。

 長年の自分達の不遇を思えば、暴力だって生温い。


 男は貴族は皆いい暮らしをして、そうでないものを見下しているのだと思い込んでいた。

 下町で野良犬のように生きてきた彼には貴族と交流もないし、領民として生活を守られたこともないのだ。


 まともな暮らしを出来ないのは、彼ら自身の出自も大きくはあるが、その大半は短慮と暴力的な振る舞いのせいであるのを棚に上げて、自分達が皆に代わって思い知らせてやるのだと、おかしな陶酔まで伴っていた。

 その独りよがりな考えは、正義の顔をして彼に寄り添い煽っていた。


 そうして自分の悪事を正しい事として、充分に加虐心を満足させた後は、何食わぬ顔で日常に戻るつもりでいた。


「やるなら夜中だ。離れてるとはいえ猟師の家が隣だからな。早い時間だと起きてるかもしれねえ。邪魔されたくないだろ」

「ぐっすり眠ってる嬢ちゃんをさらっちまうのか。あー、気の毒だなあ」

 口ではそう言いながらもニヤニヤと笑いが浮かんでしまう。

 彼らにとって盗みも暴力も娯楽であり、それは楽しみなのだから。


 食堂で飲んで騒ぐ人数も減ってきた頃、ようやく2人は腰を上げた。

 酒杯は転がり、その場で居眠りをしている人間もいる。

 きちんと寝たい男達は、酒でふらつく足で宿舎へと戻り、人肌が寂しい輩は娼館へと散っていく。

 こうなればもう、誰がどこにいるかなんて証明できる人間はいない。

 皆が思い思いに無秩序に身を置いていて、誰がどこでどうしていたかなんて、誰にも把握出来ないのだ。


「月が明るくていいや」

 その晩の月は、煌々と辺りを照らして転がる石まで濃い影を作っていて灯りがいらない程だった。

 しょぼくれた小屋が頼りなさそうに建っている。

 戸に耳をつけてみても、中で動いていそうな音はしなかった。







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