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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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572話 困惑です

 まさか教会の重鎮と西部の商会長が似ているなんて。

 全く思い至らなかった。

 ゲオルグ・ハインミュラー?

 彼はハインミュラー商会の人だったの?

 それとも苗字が同じなだけ?

 いや、これだけ顔が似ていて他人な訳がない。

 祭司長には名前で呼んでくれと言われていたから気にしたこともなかった。


「あ、あの……、教会の儀式の時に、祭司長様を見掛けた事が……ありまして」



 変な動揺を見せないように努力をしたけれど、自然な振る舞いが出来ているかしら?

 教会の祭司長を見る機会なんて、普通の人にはあまりないはずだもの。

 何の儀式の時だったかとか詳しく聞かれたらどうしよう。

 新年の祈祷とかなら大丈夫かしら。

 一般的な儀式なら祭司長が出るまでもないだろうし、王族が出席するような大きなものでないと疑われそうだわ。


「なるほど、先ほど仰っていたのは叔父の事でしたか……。確かに私と叔父は、よく似ていると言われますから」

 私の心配をよそに、彼は納得したように頷いた。

「お……、叔父?」

 私は随分、間抜けな顔をしていただろう。


 アニカ・シュヴァルツと懇意にしているこの人が、祭司長の叔父だなんてどれほど驚いた事か。

 ゲオルグは聖女という立場の私に気を遣ってか、賢者の事にはあまり触れたことがない。

 それは彼女が教会と縁がないからかと思っていた。

 だけれど、そうではなかったのかしら。

 隠していたのは、賢者との関係を私に疑われたくないからとか?


 彼は私を聖女として持ち上げているのに、その甥は対立している賢者を支持して後ろ盾をしているなんて、どういうことだろう。

 家門として聖女と賢者どちらかが失墜したとしても大丈夫なようにバランスをとっているといわれれば、そうかもしれないけれど、それはあまりにもどちらに対しても失礼ではないかしら。


 暗い考えが頭にもたげてくる。

 本当にゲオルグは私の味方だった?

 実は裏でアニカ・シュヴァルツの為に動いていたとしたら?

 足繁くエーベルハルトへ通っていたのは、こちらの動向を探る為だと言われたら信じてしまいそうだ。

 あの人の良い笑顔の下で、私の失脚を狙っていたら……。

 ハイデマリーが修道院で療養していた時に、馬頭鳥が彼女の部屋へ行けたのは、内部の手引きがあったからだとしたら?


 黒い雄牛の事もあって、何もかもが疑わしくなってきた。

 いや、あの真摯な老人が私を騙すなんてことあるかしら。

 落ち着かなければ。

 疑心暗鬼もいいところだ。

 どれも私の妄想に過ぎない。

 驚いたせいで、暗い考えに飲まれてしまいそうだった。


 そうだ、何よりも黒山羊様の敬虔な信者であるではないか。

 私よりなによりクロちゃんを可愛がっているのだし、そこに演技なんてものはないはずだ。

 そう自分に言い聞かせる。

 はやる鼓動を抑えつつ動揺が顔に出ないようにゆっくりと呼吸をした。


「存じませんでしたわ。ハインミュラーの一族の方は大商会に祭司長といろいろと才能が豊かでいらっしゃいますのね」

「知らなくとも無理は無い。叔父はあまりうちとの繋がりを吹聴するタチではないようで」

 目を瞑って首を振る彼は、益々そっくりに思えた。

「そうなんですね……」

「教会は清貧を尊ぶので、一族にとっては一文にもならなくてね。こちらの意向を汲んでくれる訳でなし、こんな事なら辺境の支部長でもしてくれた方が良かったというものだ。まあ、叔父が祭司長ということで信者達には受けがいいのはメリットと言えるが。いっそ教会でうちの商会で買い物しろとでも説教してくれればと思うんだけどね」

 笑いながら不遜な事を言う。

「まあ、そう言わずに。血筋が優秀な事には変わりはないではないですか。どちらも名高く素晴らしい」

 伯爵が彼の意見を取り成していた。

 どうも商会長は教会が好きじゃないようだ。


「融通がきかないというのも問題ですよ。うちでは賢者アニカ・シュヴァルツ様を掲げて商売しているというのに、他の令嬢を聖女に祭り上げるなんてね。家門の事を考えたらシュヴァルツ令嬢こそ聖女にするべきだったのに」

 呆れながらハインミュラーは言った。


 アニカを聖女にという話は、初めて耳にしたかもしれない。

 私にとって存在を知った時から彼女は賢者と呼ばれていたもの。

 その称号は、魔力が高い事を讃えての事だと思うけど、特別な女性であるという意味では聖女でも良かったのではないか?

 建国の賢者と聖女では、王国内では同等の地位にも思えるけれど、聖女には地母神教が背景にある関係で神聖教国もある意味後ろ盾なのだ。

 対外的にみれば、圧倒的に聖女の立場の方が上なのである。

 アニカが表舞台に出たのは私よりも早い頃だし、その称号を欲しがらない訳はない。

 何らかの障害でもあって、聖女にはなれなかったということかしら。

 まあ教会に敬意を払うような人ではないのは確かだけれど。


 それが彼女の私に対する敵意の理由のひとつでもあるかもしれない。

 自分が手に入れなかった称号を他の人間が持つなんて許しそうにないものね。

 そうだ、ゲオルグ祭司長なのだから、アニカの味方ならばそもそも彼女を聖女に置くはずだ。

 そう考えて私は、少し落ち着きを取り戻した。



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