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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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571話 似ている人です

 場所を変えたものの、そこは私にとって居心地は良いものではなかった。

 料理担当が談話室で客人と歓談するなんて聞いたことがない。

 場違い感がすごくて、どう振る舞うのが正解なのか私の中に答えはなかった。

 変な質問をしなければよかったわ。

 簡単に料理の話をして退出するだけだったのに、何故か手厚い扱いを受けることになってしまった。


 座り心地のいい談話室の椅子に座らされて、目の前にはお茶とお菓子が並べられた。

 執事も何事かと私に視線を向けている。

 私はただの料理人で、ここの主人でもないし料理以外で客をもてなす必要はないはずなのに、どうしてこうなったのか。

 ああ、早く料理の話をして、この場から去ってしまいたい。


 ハインミュラーは、テーブルの上に体を乗り出すようにして私に話かけてきた。

 この館の主人である伯爵へは目線もやらないで、熱心にこちらだけに話しかける。

 伯爵は馴れたものなのか、その扱いを受け入れているようだ。

 その様は、まさに2人の力関係を物語っているといえた。


「今日の料理はどれも素晴らしいものだ。味もともかく、見栄えも非常に気に入ったよ。舌だけでなく目でも楽しめる料理を出される機会は希少だからね。どれもこれもありそうながら初めての料理で、中々こんな晩餐にありつくことはない。いい話の種になるというものだ」

 商会長は満足気にそう私をほめちぎると、ひとつひとつ料理の説明を求めてきた。

 彼の質問は的確で、答えやすいのは商人としての才能の成すものなのだろうか。


 特にコーンスープの味が気に入ったようで、私も作った甲斐があったというものだ。

 商会長という立場から博識であることはわかっていたけれど、話を聞くに結構な美食家のようでもあった。


 だけれどトウモロコシ自体は、農民の食べ物であるという昔からの偏見の為、貴族には受けないという意見をされる。

「歴史と伝統が彼らを生かしている。それが貴族というものだから、受け入れられるのは時間がかかるだろう」

「でも、人気になればトウモロコシの価値も上がって、王国の食糧事情を変える事になりませんか?」

「そうはいっても元々は農民、いや家畜の餌であることには変わらない。貴族達の意識を変えてまで普及させる意味があるかどうか。ところでグラタンに使っていた……」


 そこで話は終わりというように、話題を代えられてしまった。

 ウェルナー男爵領の件の後、蕎麦粉料理が流行ったおかげで単価が上昇して蕎麦しか作れなかった貧しい土地も少しずつ住みよくなっているという。

 トウモロコシにもその可能性はあるのに、商売人ならそこに目を付けて欲しかった。

 農民の収入が増えれば、彼らもいろいろな生活用品を買ったり散財することもあるはずだ。

 それは商品が売れるということではないか。

 生活の向上は王国の国力を上げることにもなるし、商会も利益を見込めるのに。


 モヤモヤする気持ちを押さえつける。

 ここでは不満を口に出来る立場ではないのだ。

 一介の使用人が経済にまで意見するのは怪しまれるもの。

 いいわ、それならロンメルにやってもらいましょう。

 もしこのままの姿で相手にされないようなら、シャルロッテの名前で手紙を書いて出せばきっと目を通してくれるだろう。


「他にもいろいろな料理を鉱山では出していると聞いているが、どこでそんな料理の才を身に付けたんだ? 王宮で出されたとしてもおかしくない出来であるし、さぞかし高名な料理人に師事したに違いない」

「才だなんてとんでもありませんわ。幸運にもいろいろな国の食事を口にする事が出来る立場にいただけで、見様見真似の素人です。どれも私自身が編み出した料理でもありませんし」

 元々は前世の記憶頼りなのだし、自分の手柄にするにはちょっと気が引けた。

 ハインミュラーは、頷きながら話を続けた。

「ほう、君の前の雇い主は大層な食道楽であったようだ。では今日の料理を、うちの商会で扱っても問題はなさそうかい?」

 どうやら本題はそこのようであった。


「先ほども言いましたように私が考案したものではありませんし、どこかの地域では食べられている料理ですから大丈夫かと」

 まあ、突飛な調理法のものはひとつもないし、革命的というほど斬新なものでもない。

 今までそれを出す人が王国にいなかったというだけだ。

 そもそも私は鉱山の食堂の手伝い人なだけで、ハインミュラーの傘下の料理店で今日のメニューを出されても私には痛くもかゆくもないのだ。


 ひとつ懸念があるとすれば、もしその料理が評判になってロンメル商会の立場が揺らぐ事だろうか。

 でも、たかが料理でそんなことが起こることはないわよね。

 もし、万一だけれど料理の出所が私だとわかったらロンメルから、多少の嫌味は言われそうだけれど、それくらいは良しとしましょう。

 ハインミュラー商会長は、私の返事に気をよくしたのか満足気に頷いた。

 目を細くして笑うと、それは私の良く知る人にそっくりであった。


「ゲオルグ様……?」

 そう反射的に私が口にすると、一瞬で商会長の目が鋭くなった。

「シャルルヴィルさんはゲオルグ・ハインミュラーをご存知で?」


 そう、彼が誰かに似ていると思っていたけれど、地母神教の祭司長のゲオルグを若くして目つきを鋭くすると、まさにこの人になるのだ。



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