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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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568話 愚痴です

「そういえば貴女は異国の出という話だけれど、王国の西域での生活の経験が?」

 突然の伯爵の質問の意図が読み取れず、思わず戸惑ってしまう。

「いいえ? 何かございましたか?」

「珍しい料理はさることながら、貴女にどことなく懐かしい味を感じたものでね。こちらの郷土料理などにも詳しいようだし」

「あ……あ、それは食堂の料理人のロルフさんの指導がいいのですわ」

 何故そんな質問をと思ったけれど、これはあれだ。

 夢で夫人から伯爵の好みの料理や味付けを教わったからだろう。

 まさか奥さんから習いましたなんて言えないわね。

 ちゃんと再現出来ていたようで、その味は思った以上に伯爵に響いていたようだ。


「ああ、すまない。ペィオアルトルさんから貴女の詮索はしないよう言い付かっていたのに、つい気になってしまってね」

 少し私がうろたえたのを感じたのか、すぐに謝罪される。

 それにしても言い付かっただなんて、伯爵の方が随分と立場が弱いみたいに聞こえのは気のせいだろうか。

 黒い雄牛であるペィオアルトルさんは、自分が神様だなんて名乗っていないだろうし、それだけ賢者が偉いということなのかもしれない。


「そう、晩餐のメニューを確認しにきたのだったよ。今日の相手はハインミュラー商会の商会長なんだ。朧水晶の取引の商談でね。貴女の料理は評判がいいし、たまには珍しい料理でハインミュラー殿を労うのも悪くないだろうと思ってね」

 本来ならば料理の確認は女主人の仕事だ。

 夫人が不在であれば執事なり家令なりがする事だろう。

 当主が厨房に顔を出して確認するなんてもってのほかだ。

 伯爵自身は気さくな様で何も感じてないようだ。

 私もそこは触れないで晩餐の話をする。

 何度も相槌をうったり、感心してくれたりと熱心に話を聞いてくれる。

「ふむ、どれも良さそうだ」

 最終的に貰った満足気な返事にほっとした。


「夕刻前には、すべて作業は終わりますわ。他に何か私がやれる事はありましたか?」

「ああ、調理後は休んで構わないよ。給仕は執事がやるから、客人が望めば声を掛けるから、控えていてくれたらいい。多分、食事の最後に挨拶をするくらいだ」

 そういうと、伯爵は、来た扉からではなく勝手口から庭へと出ていった。


「ありゃあ、庭の花を切りにいったんだよ。昔から花が好きな坊ちゃんでな。奥様が出て行ったりしなきゃなあ」

 のんびりと料理人が口を開いた。

「奥様はどんな方でしたの?」

 夫人の話は禁止されていると思ったので、ここで聞けるとは驚きだ。

「そうさなあ、まあ、世間知らずのおっとりしたお嬢さんだったよ。坊ちゃんとはいい夫婦だったのが、どうしてこうなっちまったのか……。都会なんて行くもんじゃねえ。ちっせえ賢者様に連れられて王都へ行ったと思ったら、派手ななりで男を連れて戻ってきて、坊ちゃんを蔑ろにしてあっという間に駆け落ちさ。人生何が起こるかわかったもんじゃありゃしねえ」

 首を振りながら、夫人を責めるように不満を口にした。

 何とも返事に困る内容である。


 この老人は特に夫人の名誉を守る事など頭になくて、気の毒な伯爵に起きた事をそのまま口にしているようだ。

「さっきの坊ちゃんを見てわかったろ? 新しい鉱脈なんて欲しくなかったのさ。そりゃあ金は入ったかもしれないが、無くした物を考えたら喜べるもんじゃねえ。あの賢者って嬢ちゃんは連れ来たのは幸運なんかじゃなくて禍さ」

 ここで初めて賢者を批判する声を聞くことになった。

 鉱山では皆、賢者をよく言っていたので批判する人間がいることにほっとした。

 そうよね、アニカが夫人にあたえた影響は、いい事ではないもの。

 大人である夫人自身の責任があるのは尤もだけれど、男遊びを教える必要はなかったはず。

 この料理人は、朧水晶と交換に伯爵は自身の幸せを手放したと思っているようで、しばらく愚痴が続いた。


 そんな会話を交えながらも調理は滞りなく進み、申し分ない晩餐の準備が整った。

 執事と一緒に、厨房の隣の晩餐室に磨いた食器を並べれば客を迎える準備は万端だ。

 晩餐室にはすでに伯爵が活けたらしき花が部屋を飾っていて、簡素ながらも手を尽くしたのが見て取れた。

 私はそのまま厨房の椅子に座って、呼ばれた時の為に待機した。


 私自身の夕食は領主館の使用人達と共に伯爵と客人の晩餐が終わった後に、残り物をいただくことになっている。

 残飯と言われると聞こえが悪いが、それは普通の事で貴族の使用人の仕事が人気の理由のひとつは、主人の残り物の食事をもらえる事だ。

 多少冷めてしまっていても、食材も調理も上等な料理にありつけるなんて、中々出来ないことだもの。


 その為に毎食、主人ひとりの食事でもどっさりと余るほど作られるものなので、鉱山の食堂から伯爵へ料理を届けていたことを考えると、あれはかなり異例な事であった。

 どちらかといえば、合理的でなくとも伯爵の夕食の残りを鉱山に回す方が現実的なのだ。

 鉱夫達の食事を充実させている割に、伯爵本人は節約というか堅実な生活をしているのがそこからも感じ取れた。



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