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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第二章 シャルロッテ嬢と悪い種

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57話 新しい日です  ※末尾に名前メモ2掲載

 昨日のアレは何だったのだろう。

 鳥の様な生き物も不思議だったが、あの目の奥から見ていた少女。

 大きな瞳の中には傲慢や侮蔑や嫉妬、そんなものがぐるぐるとないまぜになった人とは思えないものだった。

 あの子が種の持ち主なのだろうか。

 あんな眼をした人はきっと他人の心を壊しても平気なのだろう。

 こんな決めつけは怖いけれど何故かそう思ってしまう。


 あんな風に生き物を使ってこちらを覗くことが出来るのならば、機を見て呪わしい種を撒くことも可能だろう。

 あの生物もこの部屋に入って来れたなら、魔獣では無く別の何かなのだろうか?

 神話の時代の生き物?

 この世界は私にとって不思議なことで溢れている。

 知らなければならない事の他にどれだけの神秘が隠されているのだろう。


「シャルロッテ様、お客様がいらしてます」

 思いを馳せていると、ソフィアに声を掛けられた。

 応接室に向かうと、そこにはドレスを着たハイデマリーが立っている。

 ずっと質素な白い寝間着でベッドに座っていた彼女。

 そこだけが安全地帯だと思い込んでいるかの様に、聖堂の部屋から出なかった彼女が今、令嬢らしく着飾ってここに立っていた。

 よく手入れされた銀髪は美しく巻かれて硬質な艶を見せ、唇は血色の良い赤色をしている。

「シャルロッテ、私あそこから出てきましたわ」

 清らかな大聖堂の部屋。

 それは禍々しいものから身を守り隠すのに最適な場所であると同時に、世間からも切り離された隔絶された部屋である。

 そこにいる限り安全で俗世と関わらなくてもすむのだ。

 そこから出てきたというのは、世間と向き合いまた自分の足で歩くと言う決意だ。

 ハイデマリーは私にそれを短い言葉で伝えたのだ。


 この子はどれだけの勇気を持ってここまで来たのだろう。

 この子の心の平安を取り戻す為に儀式をした。

 それが成功したからといって彼女が日常に戻れるかは誰にもわからなかったのだ。

 思わず駆け寄って抱きしめてしまった。

 ハイデマリーは私より頭一つ分は背が高いので、私が胸元にしがみついている風になってしまったけど良く頑張ったねと体いっぱいで表現した。

「ハイデマリー、もう大丈夫なの?」

「ふふ、そんなに抱き締めたら痛くてよシャルロッテ。昨日の貴女達のお陰で私はこうしていられるわ。本当にありがとう」

 静かに笑う彼女はすごく綺麗だ。

 同じ人間なのに茶会で見せた彼女とはまったくの別人。

 この彼女をあんな風に変えてしまうなんて、改めて恐ろしいと感じた。

 抱き合っていると足元でめえめえとクロちゃんが鳴いた。

「クロ様も私の傷を癒して下さってありがとうございます」

 ハイデマリーはクロちゃんに向き直ると優雅にお辞儀をした。

「撫でても?」

「もちろん!」

 彼女が撫でようとかがんだところにクロちゃんが飛び込んで、押し倒してしまった。

 いっぱい撫でてと催促している。

「クロちゃん! ハイデマリーにそんな事をしてはダメよ!」

「ふふ、私も猫を飼っているから大丈夫よ。さすがに山羊に飛び掛かられるのは初めてだけれど」 

 彼女はクロちゃんを抱いて床から起き上がるとソファへ移動した。

「シャルロッテが言ってたように本当にスベスベでふかふかなのね。少し水分を含んだような滑らかさがあってずっと触っていたいわ」

 クロちゃんへの賛美をそうでしょう、そうでしょうと頷きながら聞く。

「昨日の儀式のお陰で私は立ち直ることが出来たの。本当にありがとうシャルロッテ」

 静かに彼女は感謝した。

「それでも外が怖かったのだけれど朝起きたら解放された気持ちになっていて、何というか今にして思うと種が枯れてからもずっと、監視されていたようなそんな息苦しさがあったのね。それがまったく無くなって本当に深呼吸が出来るようになった気分だわ」

 清々しい顔で彼女は言った。

 ああ、昨晩のアレがやはり監視をしていたのだろう。

 いろんな人間が出入りする大聖堂はさぞかし監視しやすかったのではないだろうか。

 例えば入室する人に乗じて部屋に入り物陰に潜む。そして眠っている間中、枕元で小さな声で呪詛を呟くのだ。

 私の様な鈍感な人間にはラジオから流れ出る単語の羅列にしか思えなかったけれど、敏感な人ならば悪意を感じ取って参ってしまうこともあるかもしれない。

 それだけではない。

 呪いの種に侵されて狂っていく姿をあの子を使って最前線で鑑賞出来るのだ。

 あの瞳の持ち主ならばさぞかし楽しむ事が出来ただろう。

 はっと気付いてハイデマリーに断って寝室へ戻る。

 屑入れに捨てたアレについていた髪の毛を丁寧に紙に包んで裁縫箱へとしまった。

 これは唯一の手掛かりなのではないだろうか?

 なんの手立てもないけれど0と1では大いに違う。

 小さなことでも見落とさないようにしないと。

2章初出の名前MEMO

貴族

フリードリヒ・リーベスヴィッセン:王太子 10歳

ジークムント・リーベスヴィッセン:前国王 ノルデン大公 王都の北の領地

ナハディガル:宮廷詩人 王宮の守り人

ハイデマリー・レーヴライン:王国西部 侯爵家 11歳

コリンナ・クルツ:王国西部 伯爵家 二女 8歳

アニカ・シュヴァルツ:王国西部 男爵家 8歳 賢者の再来と呼ばれる


教会

ゲオルグ・ハインミュラー:祭司長


その他

グレーテ コリンナの侍女

アデリナ ロンメル商会のデザイナー 

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