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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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551話 見立てです

 尋常ではない少女の様子を目の当たりにして、ギルベルトは思考をそのまま口にしていた。

「緩慢な言葉、ぎこちない動き。人の動きを制限している? 筋肉の硬化する病? 脳の異常? いいや、結びつかない。何故、生きるのに必要な活動を必要としない?」

 学会から疎まれ、ひとりで研究室に籠るのが長かった彼は、知らず独り言が多くなっていた。

 そして言語化する事で思考を整理する癖がついてしまったのだ。

 はたから見たらそれは少々奇異な言動であり、余計に人を遠ざけるものであったが当の本人は気にもしていなかった。

 自分がどう人の目に映るかなど些細な問題で、答えに辿りつけるかどうかの方が重要なのだ。

 そして、呪文のようにぶつぶつと呟いた後、ひとしきり頭をボリボリとかいてから壁際に目を向けた。


 そこにあるものに目が釘付けになる。

 少女の様子に気を取られていたが、そこにもおかしなものがあったのだ。

 仔山羊と小鳥と黒衣の娘が立ち尽くしていた。

 部屋に入った時と寸分違わぬ様子で。


「この子達はいつから?」

 その質問に、使用人達が互いに顔を見合わせながら答える。

「え? ええと、私が来た時にはもう」

「ここの交代してから動いていないかも」

 うろたえる使用人達とは別の方向から声が聞こえた。


「ずっとです! お嬢様の具合が悪くなってから、ずっとです!!」

 そこには、お茶を運んでいたシャルロッテの侍女ソフィアがいた。

 自分の記憶が少しでも主人の改善に繋がる事を願ってか、その声には悲痛な響きが含まれていた。

「ずっと?」

「ええ、ええ、私がお嬢様を起こしに来てからずっと。さすがに私がいない時はわからないけれど……。私が知っている限りは、ずっとそこに!」


 この部屋の主人に皆が注目していたせいで、誰も気付かなかったのだ。

 従順な彼らが、ずっとそこに立ち尽くしていたことを。

 主人を心配して見守っているのだと、皆がそう考え気にもしていなかった。


 ギルベルトは席を立って彼らに近付いた。

 様子をまじまじと見てみるが、声を掛けても体を揺らしてみても、彼らは一向に動こうとしなかった。

「動かない? 生きた屍、言葉を操る術? いや、お嬢さんに牙はない。吸血鬼の眷属? 陽に怯えない様子からそれは却下だ。石化に関する魔術は……、それとも石化の邪視の神? 古典には戦士と娘の生贄……、護符が……」

 ギルベルトはまた独り言を続けた。

 彼は学者としてこれまで培った研究知識を総動員して、目の前の事象の理由と解決策を脳内で検索していく。


 その間、ダンプティはじっと少女を見つめていた。

 ずっと、目を細め何かを探るように。

 そして、何かを確信したように溜息をついた。


「アインホルン殿の見立てをお聞かせ願えるか?」

 その声は子供なのに、威厳を感じさせた。

「そうだね。病気だとすれば、筋力の萎縮や骨格筋の障害によるものかもしれない。ただ、それだけでは片付かない状態であるのは医者の診断を見れば一目瞭然だ。まだ、はっきりとは言えないが、これは病というよりは呪術的な、あるいは神話的な事象のひとつと言う方がしっくりくるね」

 ギルベルトは率直に、今ある考えを嘘偽りなく返事をした。

 自分を大きく見せる為に変な脚色や思わせぶりな事を含まないその言葉に、ダンプティは感心したように頷いた。


「ふむ、なかなか筋がいいようである」

「お褒め頂いたのかな? それではもう少し語ろうか。僕が知る限りこの様なことを起こせるのは大いなる闇、永劫の主、石化の邪眼と呼ばれる古い神かな。その遍く者を愛する地母神黒山羊と敵対している暴神といえる。その行いはひとつの大陸を破壊し、その身もろとも海に沈んだともいわれている神話の主だ。その子飼いが邪神の力の片鱗をもって聖女である彼女に手を出したというのが、今のところ僕の中で一番有力かな。かといっても状況のみのなんの根拠もない仮説だけどね」

 学者は自信のないものの、自分の考えを明らかにして伝えた。


「博識である。そちの見識は見事なものだ。そちの長きに渡る知識の習得と研鑽は無駄ではない。凡人には想到出来ぬ意見よの。身に付けた知識は正しく無駄ではない。故に、惑うことなかれ。その知識の蓄積は尊く賞賛されるべきものであるが、それ故に、目の前のモノを見誤る」

 少年は学者を褒め称えながらも、それを否認しなければならない事を残念に思っているかのような憂鬱な表情をしていた。


「興味深いね。君には何が見えているというのかい?」

「ああ、見えるとも。見えているとも。これはいかなる奇跡の技ではなく、矮小なモノ達が好んで用いたものといえよう。大昔に廃れたもっと単純な、もっと狡猾な仕業のひとつ」

 学者は自分の考えを否定されたことよりも、その仕業とやらに興味が上回ったようで結んだ口元が上がっていた。

 自分の知らない可能性を前に目が輝いている。

「君のような子供が大昔を語ると?」

 彼は好奇心のせいか、挑発するように問うた。



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