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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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541話 下茹でです

 あの後、ジーモンは何度も嫌がらせのことについて謝っていた。

 事情を知ってしまえば、もう怒ることなど何もない。

 大して怖がったりはしていないからと私がいうと、何とも納得したような妙な表情を浮かべていた。

 彼は私が動じていない事を知っていたようだ。


 あれが彼の心を痛めながらの行為だったと思うと、やはりもっと怖がるべきだったのだ。

 せっかく頑張ってくれたのに、ケロッとしていてはせっかくの労力が無駄だったことになる。

 やっぱり声を上げるなり、気絶してみせたりした方が良かった。

 もしかして、嘘でも気を失ったふりをみせればあの彼の事だもの、慌てて介抱しに駆けつけていたかもしれない。

 そうしたら、もっと早く親しくなれたはずだ。

 気弱な振りをするのも、ひとつの手なのだと私は勉強した。


 収穫した栗と共にアニーを連れて、食堂へと向かう。

 この間の件で、彼女がこの場所を怖がったりするかもと心配したけれど、それは杞憂のようだった。

 がらんとしたひと気のない食堂の中、アニーは大きなテーブルの端にちょこんと座を構えると、籠の中の栗を並べて遊びだした。


 今の時間は誰もいないので、絡まれる心配もなくて安心だ。

 栗は大収穫であったけれど、これの下処理は私がするのよね。

 大量の栗を前に些かうんざりしつつも、料理を食べておいしそうな顔をする鉱夫達を思い起こして奮起する。

 おいしい料理は皆を笑顔にさせるし、上手くいけば伯爵に気に入られてグンター達から身を守る事にもつながるのだ。

 

 釜戸の灰の中から埋火を掘り出して、息をふぅと吹きかけると火があがった。

 ここへ来た時、最初は何をどうしていいかもわからなかったのを思い出す。

 ロルフに呆れられたっけ。

 そうね、火の使い方も知らなくて料理人の手伝いだなんて冗談みたいな話だもの。

 今ではすっかりお手の物だ。


 薪を入れて様子を見る。

 火掻き棒で薪の位置を動かしながら火が落ち着くのを待った。

 火が収まったになったところで、大鍋を釜戸にのせるが非力な私には大仕事だ。

 銅製の大鍋(ショドロン)は分厚くてずっしりと重量がある。

 比べるのもおかしな話だけれど、アニーを抱きあげている方が余程楽な気がする。

 私は鍋にたっぷりの水を入れると、栗を投入した。


 5分ほど茹でたところでザルに上げて、布巾を使い熱い栗を持つと鬼皮と呼ばれる外皮を剥いていく。

 布越しとはいえ、茹でられた栗はとても熱い。

「アニー! 駄目よ!」

 彼女が手を伸ばして触ろうとしたので、思わず声を上げてしまった。

 少女は少しびっくりした顔をしていたが、怯える様子はない。

 前ならこういう場面で、目を閉じて縮こまっていただろう。

 私は彼女の指先に火傷はないか確認する。

 何事もなかったようで、ホッと胸をなでおろす。

 子供から目を離してはだめね。

 茹でた栗をアニーの手の届かない場所に動かしてから、焚きつけ用の箱から松ぼっくりをいくつかとりだしてそれで遊ぶ様に促した。


 本当なら小屋に置いてくる方が良かったのだろうけれど、昼間はグーちゃんは寝ているのでアニーはひとりで過ごすことになる。

 ただでさえ留守番ばかりなのだから、一緒に入れる時はこうやって連れ出した方が気分も違うだろう。

 あの洞窟であった頃には挙動も不審で痩せこけて、どう見ても不審な少女であったけれど最近はこうして座っているだけなら小柄なおとなしい子供にしか見えない。

 言い含めればやってはいけないことも理解してくれるし、賢い子なのだ。


 茹でられて表面が熱くなった栗を剥くのは難儀なのだけれど、思ったほどではなかった。

 エーベルハルトでは栗を拾った後は、使用人に任せきりで次に見るのは菓子になった後なので知らなかったけれど、和栗に比べて洋栗は意外にも鬼皮も中の渋皮も薄くて処理しやすかったのだ。

 これならば思ったよりも早く終わりそうだ。

 たくさんあっても手を動かしていれば、いつかは終わるものだ。

 せっせと私は栗剥きに勤しんだ。


「りーご、りーご」

「鐘が鳴るよ」

 機嫌よく歌うアニーに合わせて、栗を剥きながら歌を唄う。

 手仕事をしながら歌うのは、リズムに合わせて作業も捗るし理にかなっている。

 考え込んだり思い悩むのは必要な事でも、ずっとそれでは疲れてしまうもの。

 私にとって料理はそういう問題から一時的に自分を切り離す大事なものだ。

 エーベルハルトでは料理をさせてはもらえなかったけれど、子供の身にそこほど深刻な悩みも起きることはないし、クロちゃんやビーちゃんといれば自然と笑顔になっていたので気にもならなかった。

 あの子達にも私の作った料理を食べてもらいたいわ、気に入ってくれるだろうか。

 今頃、どうしていることだろう。

 そんな事を思いつつ栗の皮をまとめて捨てていると、食堂の棚に積まれた古新聞が目にとまった。



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