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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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532話 質問です

 鉱山支配人の助手として必要なのは、書類整理に計算など事務仕事に必要な技術だ。

 それに加えて乗馬。

 親が教育熱心なのか、環境に恵まれたか、本人に向上心があるかしなければ、どれも身につく事はない。

 この人は、見た目がひ弱な感じであるし、荒くれの多い鉱山勤めを選ぶように思えなかった。

 そうね、商会やお役所仕事が似合う気がする。

 庶民というより、どちらかというと爵位と無縁の貴族の三男坊とかいわれた方がしっくりくる。

 でも初対面での私への対応を見る限り、貴族には慣れていないようだったから、これは考えすぎというものね。

 とにかくこれだけ多才ならば、鉱山でなくとも簡単に街で仕事が見つかるだろうにと、失礼な話であるが少し勿体なく感じた。


「こちらへは、どなたかの紹介で?」

「丁度、仕事を探していたところに、助手の募集が出てたんです。ここはほら、評判があれなんで待遇がいいんですよ」

 呪いの噂は有名で根強いもののようだ。

 なるほど、そういうことだったのね。

 確かに待遇が良ければ、ここを選んでもおかしくない。

 でも、いくら給料が良くても、あのグンターさんの下で働くのは骨が折れそうだけれども。

 怒鳴られてこき使われるせいで、この青年の心に影が落ちませんようにと祈るばかりだ。


 社交界ではオイゲンゾルガー伯爵の鉱山の呪いは、ついぞ耳にした事がなかった。

 もっぱら聞くのは、新しい水晶の話題ばかりだ。

 紳士貴婦人にとっては鉱山の呪い話よりも、採れる貴金属や宝石の質の方が大事だもの。

 石を身に付ける方は、鉱夫が呪われても気にもしないし、売る方もそんな話は出さないというものだ。


 この人はあのゴミ穴の事を知っているのかしら。

 グンターさんの助手なら知っていてもおかしくない。

 突然、話題を振るのはおかしいかしら?

 でも、今聞かなければ次にこうやって話せるのはいつになるやら。

 さっきまでは会話もぎこちなかったのだし、話が飛んでも不自然ではないわよね。


「そういえば、スヴェンさんは細工小屋の奥にあるというゴミ捨て場に行かれたことはあるの?」

 ちょっと質問があからさまかしら。

 怪しまれませんように。

 でも、他に聞きようがないのよね。


「ゴミ捨て場ですか? グンターさんからは、危ないから奥には行くなと言われているので、僕は行ったことがないですね。大概のゴミは焚き火にくべてしまうし、食堂の野菜くずもその辺にまいて肥料代わりにしてますよね。あそこを使うのは獣の骨や内臓を捨てるジーモンさんくらいじゃないかな。やっぱり臭いが気になりますか?」

 そうよどみなく彼は答えた。

「気になる程ではありませんわ。皆さんの住居から離れているせいか、とても静かでいい場所で満足しております」

 人目がないお陰で、グーちゃんも一緒に暮らせている。

「それは良かった。何かあったら言ってください。食堂の仕事は慣れましたか? 朝は辛くないですか?」

 矢継ぎ早に質問をされる。

 とても親切に聞こえるけれど、少し早口なのが気になった。


 どことなく言い訳をしているような、私からこれ以上聞かれないようにとか、そんな感じを受ける。

 これはうがった考えかしら。

 話を変えようとしていることといい、死体とは関係なくとも、行ったことはあるのかもしれない。

 それを隠そうとしているのかしら。


「朝は寝坊をしないかヒヤヒヤしますけれど、料理は好きなので苦ではありませんわ。こちらでは鉱夫の皆さんの朝は遅いそうですが、ここでは早朝からお仕事をされているのは、ロルフさんくらいなのかしら?」

「いえ、ジーモンさんもですよ。夜の間に罠にかかった獣や魔獣の回収に朝早くから出ているはずです。昔の賑わっていた頃ならともかく、今では教会も無人で村ともいえない規模ですからね。みんな朝は遅めです」


 その返ってきた言葉に、少し胸が締め付けられる気がした。

 農夫や朝食売り、新聞配達など朝の早い職業は山とあるけれど、ここには無いものばかりだ。

 そして朝1番早起きなのは、何処であっても大概は教会だ。

 早朝の祈祷や掃除に薬草の手入れ、教会では朝の仕事は多い。

 ここでは、それが機能していないのだ。


 鉱山の集落と共に廃墟になった教会の有様を見るのは寂しいものであるし、何より鉱山に来てから私は教会に祈りに行っていない。

 初めての経験ばかりの生活に追われているせいもある。

 だけれど一番の理由は、黒い雄牛の力を借りてここにいるせいだ。

 後ろめたいような気がして足が向かない。

 そして、スヴェンとの会話で今はそれよりも気になる事が出来ていて、私は足を止めた。


「ロッテさん?」

 私が黙ってしまったのを怪訝に思ったのか、スヴェンが顔を覗く。

「いえ、なんでもありませんわ。そう、ジーモンさんは働き者ですのね。ああ、ここで結構です。送って下さって感謝いたします」

 私は、そそくさと挨拶をした。

 なんだか、食堂での熱気が体から全部抜けてしまったようだ。

 濃い1日だったわ。


 夜闇に小さくなっていくスヴェンの灯りを見送ってから、私は小屋へと入った。




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