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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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531話 新しい遊びです

「では、新しいゲームをしませんこと? 私はプレイヤーではなくキャスターに徹するわ。それなら文句ないでしょう?」

 勝ち逃げには違いないのだけれど、そう言われる前に事をすすめる。

 私は使ってない酒杯を右手に、左手には賽子を2つ持って杯の中に投げ入れた。

 そうしてそのままテーブルに下向きに置くと、カラカラと音が出る様に左右に振ってから手を止めた。


「半か丁か」

 そう告げてから、ぽかんとしている周りの鉱夫達の顔を見渡した。

「呆けている暇は、ありませんことよ? 杯の中に隠された賽子の合計が偶数なら丁度の『丁』、奇数なら半端の『半』。さあ、皆様どちらだと思います?」

 場がざわつく。

 私は不敵な笑みを浮かべてみせた。


 その後はもう男達は私の提案した丁半博打に夢中であった。

 食堂の中では「丁半」「丁半」と怒号が飛び交う。

 ある者は歓喜し、ある者は絶望の声を上げる。


 閉鎖的な鉱山だもの。

 新しい遊びに飛びつくのは当然のことだ。

 しかも、分かりやすく参加しやすいときている。

 新しいといっても、江戸時代の遊びだから私にとっては時代劇の中でしかみたことのない古い賭博でしかないのだけど、ここでは目新しく受け止めてもらえて良かったわ。


「ロッテ婆は、何でも出来るのね」

 驚きに目を丸くしたカトリンは、尊敬するかのように興奮していて少し幼く見える。

 まあ誰も私が賭博なんて出来ると思っていないものね。

 ギルベルトに教えられた時はとんでもない事をと思ったけれど、人生なにが役に立つかわからないものね。

 これも芸は身を助くというやつかしら。


「たまたま知っていただけよ。あなたは賭け事なんてしては駄目よ。一時の儲けなんて、まやかしみたいなものなんだから。賭博師(ギャンブラー)に目をつけられたら、有り金全部毟られると思いなさい。人間、堅実が一番ですからね」

 彼女には賭け事の怖さを、この機会にとくとくと教え込んだ。

 娼館しか知らない彼女には、そういう事を教える大人が必要だ。

 私の話を神妙に聞いている姿は、男達に見せているものとは全く違うものだった。



 あまり長居するのも何なのできりがいい所で帰ることにした。

 壷振り役は技術もいらないし、適当なところで交代してもらったけれど誰も気にもしなかった。

 彼らにとっては丁半博打を続ける事が大事であり、私の勝ち逃げなどもうどうでもよいのだ。

 食堂の皆は、新しい遊びに熱中してまだまだ夜は始まったばかりという風情だ。

 彼らの邪魔をしないように、こっそりと外へ出ると、スヴェンがついてきた。

 いつもより遅い時間だということで、小屋まで付き添ってくれるという。


「紳士ですわね。ひとりでも大丈夫なのに」

 夜道といっても、こんな閉鎖的な空間で危険もなにもないのだけれど。

「いえ、僕の為に夜更かしさせてしまったんだし……、これくらいは」

 深酒も賭け事もしないスヴェンは、ずっと私を待っていてくれたようだ。

 飲む打つ買うの三拍子という諺があるけれど、この人は買うだけのようだ。

 娼館通いを本人の知らないところで知ってしまったのはちょっと気まずいけれど、そういうものだと割り切ろう。

 それも手伝ってか気を遣わせて、かえって悪いことをしてしまったような後ろめたい気持ちになる。


「私の料理のせいで山の上へ行くことになったり、こうして送らせてしまったりとお手数おかけしますわ」

「いえ、そんなこと」

 覇気がない喋り方だが、真面目さが伝わってくる。


 娼館のお姐さんのお気に入りの話し相手とカトリンが言っていたけれど、こういう朴訥なところがいいのかしら?

 まさかベッドの中では饒舌になるとか?

 でも、この調子では会話は弾まない。


 スヴェンとこうしてゆっくり話をするのは、この鉱山に来た初日以来だ。

 彼は助手としての仕事の他にも細々とした雑用も請け負っているようで、いつも忙しそうにしているので話をする機会は全くなかった。

「あ! おいしかったです、今日の煮込み。実は獣臭さが苦手で、いつものは食べるのが大変だったから助かりましたよ。いや、いつものも悪くはないんです」

 料理人への申し訳なさを付けたしながら、そう言った。

「お口にあったようでうれしいわ。わかります、私も癖が強い肉が苦手ですの。自分の食べたいものを作らさせてもらえるなんて、心の広い料理人に感謝しませんとね」

 苦手な食べ物という共通点があったせいか、少し気まずさも消えて先程より雑談もはずみだした。


「伯爵邸に、馬で行ったのだと伺いましたわ」

「ええ、馬に乗れなければ遣いに出されなかったかと思うと複雑ですね」

 グンターの助手だから配達をする羽目になったのだと思っていたけれど、単に馬に乗れる人が他にいないからだったようだ。

 迅速に物を運ぶのに必要なのは速さですものね。


「馬も扱えるなんて、優秀なのね」

「いえ、父が厩舎勤めで、それで少し乗れるくらいですよ」

 謙遜しているけれど、暗い夜の山道を馬で走るのは確実な技術がいるだろう。

 厩務員の子供が馬に慣れているのはわかるけれど、それに加えて読み書きも出来て鉱山支配人の助手をしているのは少し不思議な気がした。

 これだけ優秀なら、もっと他に良い職につけそうなものだ。

 どんな経緯でここに来たのかしら。




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