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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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530話 夜の遊びです

「上品な婆さんにゃ馴染みがないかもしれねえが、夜の酒場にゃ、これがつきもんさ」

「え?」

 スヴェンへの給仕もままならないまま、酔っ払いにあるテーブルへと連れて行かれて座らされた。

 目の前にはサイコロが2つ転がっている。

「こう投げる人(キャスター)は順番に交代でな、出た目の合計を当てる賭けをするんだ。ほら、簡単だろ? せっかくだ、婆さんもやってきな」


 男達のお目当ては、どうやらカトリンであるらしく彼女が私にべったりなので、まずは私をという訳だ。

 将を射んと欲すれば、まず馬を射よって言うものね。

 この場合はちょっと違うかしら?

 兎に角、ここで私をぼろ負けにして、カトリンにいい所を見せようという魂胆らしい。

 素人の私を負かしたところでカッコよくは見えないと思うのだけれど、きっと女心がわからない人なのね。


「まあ! お誘いはうれしいのですが、私こちらへ来たばかりですし、お金の持ち合わせもありませんのよ。賭けは辞退させて下さいな」

 やんわりと断ると、なおも食い下がる。

「そんな事言っても、実は貴金属ならあるんだろ? ちょっと遊んで行きな。社会勉強ってもんだ」

「賭け事なんて殿方の嗜むものでしょう? 私の様なお婆ちゃんには過ぎた遊びですわ」

 立ち上がろうとする私の肩を押さえて男はまあまあと宥める。

 カトリンやテオに助けを求めようと其方へ顔を向けると、2人とも様子見をしているようだ。

 貴婦人をこんな風に誘うのはマナー違反だけれども、彼らにしたらそんな事は分からないものね。

 単に遊びに誘う微笑ましい場面に映っているかもしれない。


 本当に何も持ってないのだけれど、あるとしたら手鏡くらいかしら?

 身嗜みの確認のために持ち歩いている。

 これもよく考えれば、この姿を手鏡で確認させて私が驚くのを黒い雄牛がどこからか見て楽しむ為に入れられたものではないかしら。

 彼の性格からして、親切で入れたとは思えないもの。

「これくらいしかないのよ?」


 私はポケットから手鏡を出してみせた。

 周りの男達は目を光らせる。

「いいじゃねえか! 飾り気はねえがよく磨かれてるし悪くねえ。誰か目利きはいるか? この手鏡に値段をつけてくれ」

 鉱夫のひとりが、適当な金額を口にした。

 それがどうやら私の種銭の額という訳だ。

「さあ! 始めようぜ」

 その後に「俺のいいとこを披露させてくれ」とでも続けそうな必死な様子に、少し笑ってしまった。


 それを了承の合図と捉えたのか、男は正面に座るとサイコロを手に握りこんだ。

 手鏡がないと少し不便なのだけど仕方ない。

 そんなにガッツいて余裕がないのも女性受けしないわよと、私は心の中で呟いておいた。


 テーブルには男達が集まって各々が小銭を並べて男と私どちらか勝つかを賭けだしていく。



「待て! 待て! 待て! こんなの、おかしいだろ!!」

 男は、頭を抱えて青い顔で叫んでいた。

 そりゃあそうよね。

 いいカモだと思っていた老女に、賭博で負け越しているのだから。

 私の前には、小銭が小山を作っている。

 これはこれで、いいお小遣いになるわね。


「どうなってるんだ? 婆さんあんたイカサマだ! デタラメだ!」

 理解出来ないというように呻いている。

「ロッテ婆になんて事言うのよ! 大体あんた達が誘った賭博でどうやってイカサマを仕込むっていうの!」

 私に対する野次にカトリンが言い返してくれるので、私はにっこり笑って座っているのみだ。

 彼女にいい所を見せるところか、反発されてしまっているのに熱くなっている男達は気付かない。

 それを見てロルフとテオは呆れ顔をしていた。


 素人と思われているけれど、コツというか出やすい目の予想や場の読み方を私は知っていた。

 最初の数回は、それこそ運がものをいう。

 掛け金の小さいはじめのうちに負けておくのは相手の油断も誘えるし、悪い事ではない。

 そうして場を読んで反撃にでるのだ。


 現代の工場で作られる既製品の賽子とは違い、出る目には偏りがあって当然なのである。

 賽子の振り方、キャスターの癖などよく見る様に叩き込まれている。

 大体、この「骨転がし」をやるのも、初めてではない。

 だって私は学院で賭博の胴元をしていたというギルベルト・アインホルンに賽子(サイコロ)賭博について兄と一緒にみっちりと仕込まれているのだもの。


 学者はザームエルに「ギルには勝てた事がない」といわしめた程の腕前だ。

 この場で有名なかの救国の英雄ギルベルト・アインホルンから賽子賭博の授業を受けたなどと公表したら皆どんな顔をするかしら。

 びっくりしてしまう?

 それとも老女の世迷言だと、かえって気の毒がられてしまうかもね。


 途中からカトリンの興味だけでなく、アニーの装身具まで狙っている事がわかったので、ちょっと本気を出してしまった。

「あの嬢ちゃんの黒い宝石は値打ちもんなんだろ?」という言葉を聞かなければ、ここまで毟ろうなんて思わなかった。

 まあ、面子が丸潰れで気の毒なのは確かだ。

 小遣い稼ぎはここまでにして、鉱夫達の興味を逸らすことにしよう。

 勝ち逃げだと騒がれてもつまらない。

 もっと別の新しいものに目を向けさせればよいのである。



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